吸血姫のごはん。

鈴ノ木 鈴ノ子

第1話

暗い暗い夜の闇を一台の馬車が走ってる。


骨の馬が火を噴いて、激しく嘶きながら引いていく。


馬車は美しい真紅で塗られ、骨太の骸骨御者が鞭を振るって骨馬を叩く。


「急げ、急がねば間に合わぬ」


暗い暗い夜の闇を抜けるとすぐに、紫色の月光があたりを照らす道へ出る。


骨馬は普通の馬となり、骸骨御者はでっぷり太った中年男へ姿を変えた。


「もうすぐ着くのかしら」


馬車の窓から美しき吸血姫が顔を出す。


「へぇ、もうすぐでさ!」


御者はにっこり微笑んで、鞭を振るって速度を上げる。


「良い子悪い子、どちらの子」


吸血姫の歌声に道の端にある家々から叫び声や呻き声が溢れ出る。


「良い子は悪い子、悪い子は良い子」


吸血姫は歌い、御者は更に馬を叩き、馬は速度を上げて進みゆく。


「弱い子供はこの命、強い子供もこの命、失う命はどちらも同じ」


道の先には墓場があって壊れた墓石が並んでる。


「石の下には男の子、石の下には女の子、みんな仲良く並んでる」


墓場に突っ込みバラバラに骨馬も骸骨御者も砕け散る。


「すいやせん、止まれませんでした!」


骸骨御者はそう言って、砕けて姿がなくなった。骨馬も嘶くと同じように砕けて散った。


吸血姫は馬車から出ると、ふわりと浮かんで空へと上がる。


見えるは墓場、人界の生者のいない死者の街。


紫色の月光が枯れた噴水を照らす頃、吸血姫はその場に降りて、2回、3回と手を叩く。


墓石からでた死者達は列をなして噴水へ骨を鳴らして進んでいく。


「貴方はまだよ、貴女はいいわ」


1人、1人、分けながら、吸血姫はゆっくりと骨に刻まれた人生をゆっくりゆっくり見て回る。


「今日はここまで」


数十人を選び出し、残りを墓場に戻らせて、吸血姫は墓場の外へ数十人を連れ出した。


朽ちた教会の入り口叩き、満遍の笑みを浮かべた吸血姫は大声で天使を呼びつけた。


「とっとと出てこい、白羽女」


扉が開いて現れたるは、純白の衣を纏う汚れを知らぬ翼を持った乙女の天使、でも、その顔はとても天使に思えぬほどに憎しみに満ち溢れていた。


「そんな汚れを持ち込むな。気持ち悪い者どもめ」


天使は近くの水瓶を吸血姫に投げつける。


吸血姫は軽々避けて水瓶掴み、次々死者へと掛けてゆく。


水一滴で死者は溶け、魂は天界へと上がってく。


天使は翼を羽ばたかせると、登る魂を一つ一つ喰ってゆく。


「ああ、美味しいわ、この魂は汚れていない」


天使はひたすら食い続け、数十人を食い尽くし、にっこり笑みを浮かべながら吸血姫へと微笑んだ。


「今日の供物も素晴らしい。汚れのない魂はとっても美味の味がする」


「いいわ天使、とっても素敵よ」


そう言いながら吸血姫は天使の元へと駆け寄るとその首筋に歯を立てた。


「あぁぁ」


天使は歓喜の声上げて天を見上げて虚に笑う。汚れを知らぬ天使の血はとても美味で素晴らしい。


「ごちそうさま」


天使の体は地に落ちて、しばらくすると教会へ逃げ込むように隠れてく。


しっかりじっくり味わって、血を飲み干した吸血姫はゆっくり森へと飛び去った。


天使の力の源は汚れを知らぬ魂で、吸血姫の力の源は汚れを知らぬ天使の血



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吸血姫のごはん。 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ