第3話

 なんか最近、大人っぽくなったね。


 気が付けば私は高校生になっていて、色々な人にそう言われるようになった。

 数年前までなら喜んで受け入れていたと思う。

 でも今は受け入れられない。

 ほんの数年で私は変わったと思う。



「木谷さん、僕と付き合ってください」

「ごめんなさい」

「どうしてですか」

顔を赤く染めながら、よそ見もせずに真っ直ぐにこちらを見る目。

 その黒い瞳に写った、私のようで私ではない私と目が合い、思わずたじろぐ。

「……私はあなたの事知らないので」

「それなら知っていけば良いじゃないですか! お試しでどうですか!」

「ええと、ごめんなさい。私、今は誰ともお付き合いをする気はないので……」

「そんなこと言わないで。今度の花火大会まで仮でいいから付き合ってよ!」

突然手をギュッと掴まれ、全身の鳥肌がたつ。

この人が見ているのは私じゃない。好意があるように見せているだけだ。そう直感する。

今すぐこの場から、この人から離れたい!

「は、離して! あなたとは絶対に付き合えない! さようなら!」

「え、待って……!」

 名前も知らない彼の手を振り解き、背中を向けて走り出す。

気持ち悪い。一刻も早く帰ろう。

途中で後ろから追われていないか確認してもなお、全身にまとわりつこうとする彼の好意を振り払うかのように、走って昇降口まで逃げる。


今月に入って数回目の告白だった。誰にも首を縦に振っていない。

理由は一つ。けれど致命的な理由。

それは人から向けられる好意が気持ち悪いから。



 高校生。

 このくらいの歳になれば大人と同じようなものだ。もう小学生のように、純粋な気持だけで人を好きではいられない。

 ただ想いあって、好き同士になって、ただ一緒にいるだけではいられなくなる。手を繋いだり、キスをしたりと軽いスキンシップだけでは足りなくなって、その先へと手を伸ばす。

 純粋な気持ちだけで人を好きになれなくなる歳になった今、果たしてその先の欲望を持たずに告白をする人はいるのか。

そういう人しかいないわけではないと思う。でもそうじゃない人は一握りだろう。

 ほとんどの大人たちだってそうだ。

 大人たちは平然と、何事もなく、当たり前のようにそれをしている。

 もはや大人になればなるほど、好意に行為をつけざるを得なくなるのだろう。そうしないと好意を感じられなくなるのかもしれない。


 だから私は、好意向けられるのが気持ち悪かった。恋愛的な、行為を求められるような好意が、気持ち悪くて、大嫌いだった。

 それと同時に、そんなふうに大人になるのなら、大人になりたくないとも思うようになっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る