連続少女世界②
少女は顔をしかめた。
「失礼ね、自分の妹を誰よばわりするなんて。せっかく起こしに来てやったのに、そんな態度はないわ。」
少女がかぶりをふるたび、栗色の髪の毛が朝の陽光に反射して輝く。僕は揺れる色彩のきらめきに見とれながら、同時に自分の置かれている状況を解明しようと努めた。
目覚める前…確かに僕には一つの人生があった。両親の愛を全身で受け止めて成長した僕の十五年間が、今ありありと脳裏に浮かび上がる。記憶のどこをたぐりよせても、この少女の存在を発見することはできなかった。ましてや、自分に妹がいたなんて到底信じられない。
鼻孔から空気を吸い上げて、深呼吸をする。自分の胸が前後に揺れるのを確かに感じながら、いまここが現実であることを実感する。海底の泡のように湧き上がってくる追憶を否定することはできなかった。ともすれば、これは新手のドッキリか…。それとも、親には隠し子がいたのか…。
おそらく怪訝そうにぼんやりと見つめていたのだろう、少女は次第に眉を寄せ、恐ろし気な表情をしながら少し後ずさった。
「え…。ほんとに何もわからないの…。お兄ちゃん記憶喪失になっちゃった…?」
その様子を見て、僕は目の前の出来事がドッキリでも茶番でも幻覚でもなく、『ありのままにいまここにある真実』であることを悟った。妹の動揺した表情、大きく見開いた瞳の奥でゆらめく光、二人の間に張りつめるピリピリとした雰囲気、どれをとっても演技めいた部分は一つもなかった。
その瞬間、頭の中で仮説は確信へと変わった。何の因果か、僕はいまだ正体不明の妹を持つ世界線に飛び込んだのだ。そう信じるほかあるまい。
郷に入っては郷に従え。別世界に飛び込めば、別世界の住人になる以外道はない。冷や汗を流し、緊張感に心を震わせながら僕はこの世界の役割を演じようと口を開いた。
「ははっ。なにいってんだよ。ドッキリだよ、ドッキリ。お前のことを忘れるなんてあり得ないだろ?
起きるよ、起きる。そろそろ遅刻する時間だよな。起こしにきてくれてありがとよ。さあ着替えて朝飯食わなきゃな。」
無理矢理に口元を歪ませ、木こり人形のような不自然さで笑顔をつくる。人は窮地に立たされたとき、むやみやたらに言葉をつないでその場を乗りきろうとする。僕は自分の多弁さに半ば驚きながら、ゆっくりと身体を起こし、我が愛すべき妹を安心させようと手を伸ばした。
頭を撫でようとしたが、彼女は猫のようにじろりとこちらをにらんで、逃れるように後ろに飛びのいた。恐ろしいものを見るような目つきで、何度も首を横に振りながら部屋の隅へと下がってゆく。
僕の奇妙な少女譚 じゅん @kiboutomirai
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