月蝕楽園 剣の杜
@Talkstand_bungeibu
第1話
「あー、やめだやめだ! こんなアホらしいこと!!」
ボロボロになった
「バチカンの殲教師にしては諦めが早いわねぇ」
大の字に倒れている男を見るのは金色の髪と同じ色の光彩を持つ美女。月蝕の赤い月夜に映える白いドレスを身にまとい、笑みを浮かべている。その口元には鋭い犬歯が生えている。吸血鬼だ。
「そもそも俺は平和主義! 教典にそぐわないから抹殺なんて嫌なの! そもそも聖遺物も抜きに真祖狩れって方が無理!!」
駄々をこねるように叫ぶ男を見下ろしながら、女はくつくつと笑い始める。笑い声はどんどん大きくなり、たまらないといった風に大笑いに変わる。
「アハハ、面白い。泣く子も黙る殲教師が泣き言とは」
笑い声にむすっとしたように男は押し黙ると、一言呟いた。
「あんたじゃなきゃ断ってた」
その言葉に笑い声がやんだ。
「あんたがとびっきりの美女だから喜んで志願した」
「え?」
美女の表情に初めて笑み以外のものが浮かんだ。呆気に取られている間に男は起き上がり、言葉を紡ぐ。
「はなから、抹殺しようなんておもっちゃいねぇ。あんたに会う理由が欲しかっただけだ」
言葉の意味を考えて美女は言葉を返す。
「あなたは、何を言ってるのかしら?」
「あーもう、ここまで言わないとダメか・・・。あんたに惚れて会いたかっただけだ」
驚きにそまる美女の目を、男はまっすぐ見つめる。
「いや、私吸血鬼だし、真祖だし、あなたはバチカンの殲教師だし・・・」
美女の頬に朱が差し、年頃の娘のようにどぎまぎし始める。
「そんなの関係ないね、俺はあんたのことが好きだ。その返事がききたい」
視線もまっすぐであれば、言葉もまっすぐ。男の告白に美女の顔は真っ赤になっていた。そして、一拍の間の後、恥ずかしいのかうつむき加減に、
「はい」
そう返した。欠けた赤い月が2人を祝福するように照らす。美女の顔は月に負けず劣らず真っ赤だった。
月蝕楽園 剣の杜 @Talkstand_bungeibu
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