好きだった幼馴染は十年後俺のことなんか覚えていなかった

78姉さん

第1話 再び再会、そしてすれ違う

葉桜が終わる頃、俺たち海岸冒険隊は本拠地であるいつもの海岸に集まっていた。この時期になってくるとここは海風が肌寒く半袖だけではいられない状況だった。 


「これで、この海岸冒険隊も解散だね」


健太がそう呟いた。健太はこの隊の隊長である。健太は6歳ながらも親からは厳しい教育を受け、頭がよく物知りだった。健太は俺たちと遅い時間まで遊んで、いつもお母さんに怒られていた。


「そうだ!私ね良いこと思いついた!みんなでタイムカプセル?みたいなの作ってここに埋めようよ!」

「うん、賛成!」


そう提案したのは晴香だった。晴香は運動神経がよく、女の子なのに男の子にかけっこで勝っていた。実際、俺も晴香にはまだ一度もかけっこで勝ったためしがない。


「みんなそれぞれの宝物を入れるなんてどうかな…?」


葵は少し、遠慮深そうに呟いた。葵は6歳にしてはその顔立ちは美しく近所の人からは「100年に一度の美少女」なんて言われている。少し前に子役として出てくれないかという誘いもあったらしいが、この引っ込み思案な性格からお断りしていた。本当は葵のお父さんがとても心配性で娘に何かあったら怖いというのが一番の理由らしい。そして、葵の家はここら辺では有名な名家で余計に心配なんだそうだ。


「俺は新幹線の模型を入れよっかな~。」

「健太それっていつも大事にしてたやつでしょ?良いの?」

「うん、せっかくだしね。」


俺は家においてある恐竜もフィギュアでも入れよっかな。親が5歳の時にくれた誕生日プレゼントでとても大事にしてたけど…いいや。せっかくだしね。


「もうこれでみんなとお別れなんてさみしいな。」

「「「そうだね…。」」」


俺たちは明日からみんな離れ離れになってしまうのだ。健太は親の仕事の影響で北海道へ。晴香はお父さんが明日からアメリカに単身赴任し、残された晴香たちは大阪の実家に戻るらしい。葵は健太と同じで仕事の関係で一時的に外国に行くのだという。俺ん家はどこにも行かずに、ここ沖縄に残るのだ。


「俺この海岸探検隊で遊んだ毎日は絶対に忘れない!」

「俺もそうだぜ!」

「私も!」

「私も…。」


俺たち四人は、海岸の一角に穴を掘りそれぞれ皆タイムカプセルに入れたいものを入れていった。俺が恐竜のフィギュア、健太が新幹線の模型、晴香はいつも可愛がっていたお人形さん、葵は手紙のような紙切れを入れていた。


「これは、俺たちが大人になったとき四人全員で開けるんだからな!いいな?」


三人は口をそろえて「うん。」と答える。地平線が真っ赤に染まり、いつもに増して波の音が大きく聞こえる。だが、突然俺たち四人の間に長い沈黙が続き、空間に歪み、さっきまで聞こえていた波の音が聞こえなくなっていった。そして、いつの間にか母の声が聞こえてきた。


「康介-!起きなさーい。」


はっと、目が覚めさっきまでの話が夢だったと理解するには少々時間が掛かった。今は2021年四月丁度四人と別れてから十年がたつ。懐かしいと思いながらもため息をつくあれからみんなとは一回も会えていない。初めのころは連絡を取り合っていたものの少しずつその数は減っていきいつしかまったくとして連絡を取らなくなってしまった。だが、今はそれどころではない。今日から俺は高校生の仲間入りをする。今日はその始業式だ。俺は急いで支度をし、家を飛び出した。


家から高校の間にある河原に咲き誇っている桜はまるで俺のことを歓迎してくれるようにも見えた。桜舞い散る中少し駆け足で河原を抜けると、これから三年間俺が通う高校に到着した。少し遅刻気味だったがまあ大丈夫だろう。俺は校門をくぐりクラス表が乗っている大きな掲示板に向かった。


そこで俺は驚きの光景を目にした。


どこか懐かしさを感じる雰囲気。周りの人たちとは比べ物にならないほどの美しい顔立ち。何より目の下にポツンとある小さなほくろ。間違いない、葵だ。そうに違いない。慌てて近寄るともう葵の姿はなかった。でも、掲示板にはしっかりと伊藤 葵と書かれていた。


もう十年も会っていない。再びあの時のように話せるかは心配だが、きっと大丈夫。そう思い。俺は葵と同じ一年A組に向かった。


俺は再び話せると思うとこの気持ちは止められなかった。教室に入ってから真っ先に葵のところへ行き話かけた。


「よっ!葵久しぶりだな」

「あなた何を言っているの?私たち今日会ったばかりよ。あと、馴れ馴れしくしないで頂戴。」


今の気持ちを表すなら「動揺」。一瞬人を間違えたと思ったが葵本人だった。あの頃とは一転変わり性格も気が強くなっていた。とにかく今の葵は……。


ーあの頃の記憶が無くなってしまっていたー



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