第18話 屋上デート(4)
だめだ、やっぱり僕の会話能力は低すぎる。
さっきの会話でも西沢さんが話を膨らませようとしてくれてるのは伝わってくるのに、それに上手く乗っかれずに会話を終わらせてしまった自分に泣きそうだった。
冬の朝に起きられない話や髪型の話題を振られたのだと理解したのは、ようやっと今になってからだし。
肩の高さで揃えたふんわり内向きカールの今の髪型がすごく大人っぽくて似合ってるとか。
でも違う髪型の西沢さんもそれはそれで見てみたいとか。
昔はどんな髪形をしていたのかとか。
ちょっと話慣れたイケてる男子だったら、あんな風に聞いてもらえたら何とでも話を弾ませることができたはずなのに。
僕ときたら、話を膨らませる話題の種をまったく拾うことができなかったのだ。
間違いなく西沢さんは話し下手な僕に気を使ってくれている。
だから上手いこと僕が話題に乗っかりやすいようにと、いろいろ話題をちりばめてくれてるっていうのに……。
そしてこうやって一度会話が途切れてしまうと、次の話題がさっぱり出てこなくなってしまう。
(ど、どうしよう……)
天気の話はもうしちゃったし、唯一の共通話題である西沢さんのおばあちゃんの話は一番最初に使い切ってしまった。
他に僕と西沢さんの共通の話題と言えば、やっぱり高校の話かな?
でも僕の高校生活は授業以外にほとんどこれといって何もないから、そもそも話題がないんだよね。
じゃあ勉強の話でもしようか?
いやいやそれはないよ、うん。
どうして付き合って早々勉強の話をしないといけないんだ。
大学受験を控えた3年生じゃあるまいし。
だったらと共通じゃない話題を振ろうとしても、はてさて女の子相手に一体なにを話せばいいのか僕には皆目見当がつかなかった。
ありがちだけど趣味や特技の話?
でも残念ながら僕にそんなものはないんだよね。
しいて言うなら格闘ゲームが得意――ってことはむしろ黙っておいた方がいいはずだし。
格ゲー好きとか、ただただ西沢さんに冴えない陰キャ男子であることをアピールしてしまうだけだ。
ってことは無難にテレビやネット動画の話とか?
うん、それはもっとだめなんだよね。
僕は深夜アニメを録画視聴したりアニメ動画の配信を見ています、なんて口が裂けても言えるわけがない。
冴えない男子が子犬を助けたことで美少女クラスメイトに好意を持たれる青春ラブコメとか。
冴えない男子が召喚された異世界を救ってから日本に帰還し、高校生活で無双リスクールする話とか。
そんな冴えない主人公が可愛い女の子に好かれる話が好きとか聞いたら、女の子はドン引きすること間違いなしだもの。
この話が絶対厳禁だっていうのは、女心に疎い僕でもさすがにわかった。
(な、なにか話題を……なにか、なにか……)
僕が話題を探せずに完全にテンパってしまっていると――そんな僕を気遣ったのだろう――西沢さんがまたしても助け舟を出してくれる。
「ねぇねえ、佐々木くんってどんな女の子がタイプなの? 教えて欲しいな」
「僕の好みのタイプ?」
「ほら、さっきわたしが佐々木くんのどういうところを好きかって伝えたでしょ? だから今度は佐々木くんの好みを聞きたいかなって思ったんだ」
「あ、えっと、うんと……そうだね。どんなって言われると困るんだけど……僕を好きになってくれる人かな?」
「ぶぅ、そんなの当たり前じゃん。そういうのじゃなくて、具体的にこういう人っいうのはないかな? わたしも直せるところは直したいし」
「西沢さんは理想の女の子だから直すところなんてないと思うけど」
「だからわたしだって普通の女の子なんだってば。付き合ってる男子の気持ちとか気になるし、どんな女の子が好きなのかなって聞いてみたくなるもん。だからどんなことでもいいから、佐々木くんがどういう女の子が好みなのか教えて欲しいな」
繋いでいた西沢さんの手にきゅっと力が入った。
それだけ真剣にこの質問をしているんだってことがこれでもかと伝わってくる。
だから僕は自分の中にある気持ちを素直に言葉にすることにした。
こんな風にストレートに思いをぶつけられているのだ。
だったら誤魔化したり気取ったり見栄を張ったりはしちゃいけないって思ったから。
「可愛い女の子が好き」
「もう、可愛かったら誰でもいいの?」
ちょっとむくれたように言う西沢さん。
「あとは優しくて明るい女の子かな。一緒に居て楽しい人がいい。それと他人の陰口を言わない人とか? 愚痴ならいくらでも聞けるけど、悪口はあまり聞きたくないかなって思う」
外見や容姿について一番最初に言ったのは、間違いなく好感度が下がる要因だろう。
「可愛いから好き」なんてのは、女の子にとってみればあまり良くない評価なんだってことは、僕にだってわかる。
内面を見ずに外見しか見てないってことだから。
でも、それでも僕は。
可愛いって言葉をあえて一番最初に持ってきたんだ。
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