第17話 屋上デート(3)
そういうわけで。
学園のアイドル西沢さんにティッシュを鼻に詰めてもらった冴えない僕は、その冴えない姿のままで2人でお話することにした。
もうこの時点で間違いなく悲しい絵面になっているんだけど、鼻血ってしまったことはいまさら取り返しがつかないので諦めるしかなかった。
幸いなことに、ここには僕と西沢さんの2人だけしかしないから他人の視線を気にする必要はないしね、うん……。
気を取り直して2人で手を繋いだまま、屋上の給水タンクの下にある段差に腰かけたんだけど――、
「……」
「……」
いざ女の子と会話をしろと言われてすぐに会話ができるなら、僕は陰キャなんぞしていないわけで。
初対面の相手とカラオケに行くことすら尻込みしてしまう僕にとって、このシチュエーションは難易度が高すぎるなんてものじゃなかった。
ガチ弾幕ゲーでお馴染み東方シリーズを全て難易度ルナティックで攻略でしろって言われる方がまだましだ。
「……」
「……」
女の子に告白されたあとって、何を話せばいいのかな?
誰か教えて(泣)
まずなにより楽しい話じゃないとだめだよね。
それはわかるんだよ?
でも女の子が楽しく感じる話題って何なのって話なわけでね?
だめだ、話題か出てこなくて焦ってたら手がじんわり汗ばんできた。
ううっ、西沢さんに手汗が気持ち悪い汗かきの汁男とか思われたらどうしよう?
そうこうしている間にも沈黙はどんどんと長くなっていく。
何でもいいから、せめてなにか言葉を発しないと──、
「きょ、今日はいい天気だね」
手汗をかきながら黙ったままでいるわけには絶対にいかなかった僕は、完全にせっぱつまってしまっていて。
だから誰でも使える最終手段、天気の話をしたのだった。
「暖かくて風もあって気持いいよね。春は好きなんだ」
だけど西沢さんはそんなダメダメな僕に優しく言葉を返してくれる。
「あ、うん。過ごしやすいから僕も春が好きかな」
「それにいろんな花が咲くしね、歩いていても色とりどりだから見ているだけで楽しくなっちゃうもん」
「あ、わかる。桜とか綺麗だからついつい見上げちゃうよね」
「わたしも桜は好きだよ。桜が満開になるだけで日本に生まれて良かったって思えちゃうよね」
「それもわかる気がするなぁ」
「それに夏は暑くて汗かいちゃうし。冬は寒いし、秋はちょっと物悲しい感じで切なくなるし。その点春は未来に向かってる感じがして、毎日元気が出てくるっていうか」
「ちょっと意外かも、西沢さんも夏は汗をかいたり暑かったりするんだね」
「そりゃあそうですよ? 夏は暑くて蒸し蒸しして大変だもん。日焼けはするし汗もかいちゃうし。っていうか佐々木くんはわたしのことをなんだと思ってたの?」
「えっと、西沢さんは僕らと違って夏でもふんわり優しい笑顔でクリアしちゃうんだろうなって、なんとなく思ってた」
「ふふっ、じゃあ残念でした。わたしも暑い時はへばっちゃうし、スカートをパタパタしちゃうし、髪を短くしようかなとか思っちゃうんです。冬の朝にはあったかいベッドから抜け出すのが辛いし、二度寝の誘惑と毎日戦ってるんですから」
「全部僕の勝手な思い込みだったってことかぁ」
実のところ僕は、西沢さんやカースト1軍のメンバーたちはなんでもさらっとクリアしていく完璧人間、ってイメージを勝手に持ってしまっていた。
でもそうだよね、西沢さんだって僕と同じ人間なんだもん。
暑い時は暑くてへばっちゃうし、汗だってかくし。
冬の朝はベッドからなかなか出られなかったりするよね。
つまり僕が勝手にそういうイメージをもって壁を作っていただけなんだ。
ちゃんと同じ人間なんだ。
だったら僕だって、今の自分を変えていけるはず――!
「……」
「……」
とそう前向きに思ったのも束の間。
そこでまた会話が途切れてしまいお互い無言になってしまった。
何度も言うけど、そんな簡単に女の子と会話ができたら僕は陰キャにはなってないんだよ。
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