第2話

それから一週間後。

山崎君が歌詞が出来たぞと言って再び僕の家にやってきました。

「いや~なかなか大変だったよ」

山崎君はいかにも苦労したと言った感じで僕に言いました。

「どんな歌詞なんだい?早く見せてくれよ」

「せかすなって。これだよ」

山崎君はランドセルから、クリアファイルに入った一枚のA4の大きさの紙を取り出し、僕に渡してくれました。

僕は少し緊張しながらその紙に目を通しました。

用紙の上にはガールフレンドというタイトルが付けられていました。


学校へ登るあの坂 君の笑顔に会える

 おはようって 言いたいけれど

 その一言が出てこない

 話したいよ 色んな事

 遊びたいよ 君と二人で


※名前はひとみ クラスメイト

 友達から 前に行けない

 今より少し 前に行きたい

 なぜなら君が 好きだから


 帰る途中のあの橋 後ろ姿がせつない

 さよならって 言いたいけれど

 黙って見送るだけ

 話したいよ 色んな事

 遊びたいよ 君と二人で


 ※

 なにより君が 好きだから

(※繰り返し)             

 

 僕は歌詞を見ながら、手がぶるぶると震えました。歌詞は僕が作ったミディアムテンポの少しセンチメンタルな曲に見事にあっていました。

山崎君は満足げに鼻を手でこすっています。

「どうだい?」

「いい。いいよお、さすが山崎君だ。すごいよ、これ」

「へへ…」

「これなら胸をはってひとみさんにプレゼント出来るよ」

「よかったなあ、光太郎」

「うん」

僕は紙を強く握りしめていました。

だが、興奮している僕を尻目に山崎君の顔つきが険しいものに変わりました。

そして頭をかかえると、ぐるぐると部屋の中を歩き始めたです。

「ま…ますいな。これはまずい」

「な…何がまずいっていうのさ?」

僕は予想もしなかった山崎君の言葉にすっかり動揺してしまった。

山崎君はピタッと足を止めると、じっと僕の目を見てから言いました。

「いいか?光太郎」

「う…うん」

僕はどきどきしながら山崎君の言葉を待ちました。

「歌、をプレゼントするんだよな?あくまでも。曲がじゃなくてさ」

「そ…そうだよ」

そのために歌詞を書いてもらったのです。山崎君は一体何が言いたいんだろう?

「一体誰が歌うつもりなんだ?その歌を…」

「誰って…それはもちろん僕が…あ…!」

そこで僕は言葉に詰まってしまいました。

変声期を迎える前だった僕の喉は甲高く、時として調子っぱずれになってしまう事がありました。音楽の時間、歌を歌う時音程を外してクラス中から笑われた出来事があったのを僕は思い返しました。いくら音楽に精通している僕でもこれはどうにもなりませんでした。

「どうすればいいんだ…」

さっきまでの興奮した気持ちはどこへやら。

僕はすっかり落ち込んで、ふさぎこんでしまいました。

困り果てた僕に山崎君が優しく声をかけてしまいました。

「光太郎。俺がお前を不安にさせるためだけに、こんな事を言い出したと思うのか?」

「え…?」

どういう事だろう…?

すっくと立ち上がった山崎君は親指を自分自身につき立てました。

「俺だよ。俺がいるじゃないか」

山崎君は誇らしげに言いました。

「え…?」

待てよ…。そうだ…。

僕はそこで気づいたのです。

山崎君は声もよかったのです。音楽の先生にも上手いと褒められていました。

「山崎君…歌ってくれるっていうのかい?」

「ああ。最後まで俺も見届けたいしな」

「や…山崎君」

親友だ。彼こそ本物の親友だ。

僕らはまた、熱く握手を交わしました。


それからというのも、僕と山崎君は毎日必死に練習を重ねました。そして一週間が過ぎると、ようやく形になってきました。そして次の問題は、さて、これをいつ発表するかというものでした。

このところすっかり家に来る事が習慣となっていた山崎君が、キャラメル味のポップコーンを食べ、サイダーを飲みながら二人で計画を練りました。

「何か誘いだせるような理由があればいいんだけどねえ…」と僕は言いました。

もぐもぐもぐ。

山崎君はポップコーンを食べるのに夢中でした。

「今まで誘った事もないのに、急に僕の…」

僕はそこで訂正しました。

「僕らの曲を聞いてくれっていうのもおかしいじゃない?」

もぐもぐもぐ。

「一体どうしたらいいのかなあ…」

じゅーごくごくごく。

「ねえ…、山崎君。食べて飲んでばっかりいないで、真剣に考えてくれよ」

「馬鹿。ちゃんと考えてるよ」

山崎君はポップコーンを僕に投げつけてきました。

嘘だ。どう見てもそう見えない。

「…お前、俺の事疑ってるな?」

「い…いや、そんな事はないよ」

「ほら…俺って結構、女友達多いじゃない?」

僕は頷きました。

「クラスに田中って子がいるだろ?眼鏡かけてちょっと小太りの。あの子、ひとみさんと仲がいいんだよ。その田中に協力してもらおうと思ってるんだ。2対2なら向こうだって来やすいだろ?」

僕は感心しました。

「さすが山崎君だ…いいアイデアだよ、それ」

「仕上がりも上手くいった事だし、明日学校で田中に言ってみるよ。OKだったら、来週の日曜日にここで発表しようぜ」

計画が具体的になってきたところで、なんだか途端に緊張してきました。

「た…頼むよ、山崎君…」

「ああ。まかせておけって」

山崎君は胸を張って答えました。

 


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