ひとみsongs

空木トウマ

第1話

初めまして。

僕の名前は鶴見光太郎といいます。

都内にある私立M高校の1年生です。

趣味は音楽。ギターを弾く事。どんなジャンルの音楽でも聴くけど、特にロックが好きです。

常に音楽を聴いてるような生活しています。それには両親からの影響が大きいと言えるでしょう。

母親が小学校の音楽教師で、父親がゲームや映画の音楽の作曲家をしています。

家には最新鋭の巨大な黒いステレオとスピーカーがリビングに設置してありますし、また別の部屋にはピアノ、オルガン、ギター、ヴァイオリン等の楽器がそれこそ店が開けるくらいに置いてありました。

それで僕の音楽に対する興味は、それこそもの心付く前から、いや母親のお腹の中にいる時から養われていたといっていいでしょう。胎教にいいからと、母親が妊娠した事が分かると父親はモーツアルトやバッハ、シューベルトなどクラシック音楽をよくかけていたそうです。

そして僕が生まれるとすぐにすぐに音楽漬けの生活が始まりました。

小さい頃の写真を見ると、どの写真にもピアノの前に座ったり、ギターやヴァイオリン等の楽器を手にした幼い僕が写っています。その頃の写真を見ると思わず苦笑してしまいます。

なにせ、小さな僕の身長の倍はありそうな楽器を手にしているのですから。

そんな環境に育ったものですから、小学校に入ってからというもの、他の科目の成績はそこそこといった感じでしたが音楽の成績だけは抜群によかったのです。

小学校3年生になると、父親の仕事用の書斎に置かれたパソコンを使って、画面上の五線譜に音符を並べて自分で作曲をするようにもなりました。といっても、その当時に流行っていた流行の音楽をちょっとアレンジした程度の稚拙なものでしたけれど。

小学生が作った曲にしては今聴いてみてもわりと完成度が高かったと思います。色々なジャンルの音楽を作っていました。

けれどただ一つ。僕にも作るのが苦手な曲がありました。

それはラブソングです。まだ初恋も経験していなかった僕は、どのようにしてラブソングを作ればいいか分からなかったのです。

…けれどそれで特に気に病む事もありませんでしたが。

状況が変わったのは小学5年生になってからでした。

4年生の頃から特にギターに興味を持った僕は、学校から帰ってくると毎日飽きもせずジャカジャカとギターを弾き鳴らしていたおかげで5年生になってからは、かなり弾けるようになっていました。

そんな時期に、僕は…「初恋」を経験したのです。

相手は同じクラスの西野ひとみという女の子でした。

ひとみさんは小柄で、髪が腰まで届きそうな程長く、爽やかな水色のワンピースを好んで着ており、それがよく似合う女の子でした。大きい目がくりっとして可愛らしく、いつもはきはきとして元気でした。

5年生の時のクラス替えで同じクラスになり、彼女の存在に気づいてからというもの、彼女の顔を見る度に僕の胸は

ドキドキするようになりました。 

その年頃の男の子は僕と同じような感情を持った時に、悲しい事にどうやってその気持ちを相手に伝えるかという方法を持ち合わせていません。わざと冷たい態度を取ったり、いじめて泣かせたりおよそ自分の本心とは反対の行動をとってしまうのです。

僕もそうでした。

いや、元々気の弱い性格の僕はいじめたり泣かせたりしたわけではありません。ひとみさんと同じ飼育係りになった事もあるのですが、あまり話さなかったり、係りの仕事をわざとひとみさんに押し付けたりしたというくらいのものです。

しかしそれが問題となってしまいました。

同じクラスの女の子達に「鶴見君が係りの仕事を真面目にしないからひとみさんが怒っている」と5人の女子に詰め寄られてしまったのです。

もちろん自分のせいなのですが、僕は大変なショックを受けました。それで僕は態度を変える事にしました。係りの仕事を熱心にやるのはもちろんの事、自分から話しかけるように務めたのです。そんな風に意識して態度を変えた事が事態を好転させました。

ギクシャクした関係が改善され冗談を言えるくらいの仲にまでなったのです。

よい感じだ、と僕は思いました。

そうなってくると僕の気持ちはどんどん自分勝手に膨らんでいったのです。

別に付き合いとかそんな気持ちがあったわけではありません。

まだ小学5年生で、どうやって付き合ったらいいのかも分からないのですから。

ただ、どうしても好きだという感情をひとみさんに伝えたかったのです。

そんな感じで悶々とした毎日を送っていた時でした。僕は一つのアイデアを思いついたのです。ゴロリと寝転んでいたベッドの脇においた愛用の白いマーシャルのギターよって。

僕はベッドからがばっと上半身を起こしました。

「そうだ。曲を作って彼女にプレゼントしよう!それなら僕の思いもきっと伝わるはずだ」

これは素晴らしいアイデアであるように思えました。

僕はその日から曲を作る事に没頭しました。

生まれて初めてラブソングを作ることになったのです。

学校から帰ると、毎日ギターを手に取り、頭に浮かんだメロディを曲にしていきました。

あまりにも曲作りに没頭するようになった僕の事を母親も心配するようになりました。

ある晩の夕食の事です。

「光太郎。最近学校の成績が下がっているけど、どうかしたの?」

僕は思わず顔を伏せてしまいました。

作曲にかまけて勉強がおざなりになっていたせいで、このところテストの点は下降線の一途をたどっていたのです。母親は僕が曲作りやギターを弾く事などの音楽活動をすることには喜んでくれていましたが、普通の勉強がおろそかになる事を心配したのでした。僕は次のテストでは頑張るからと言って半ば強引に話を終わらせました。

母親の心配をよそに僕の作曲熱は、益々過熱していきました。悪戦苦闘しながら曲作りに励んでいき、2週間もすると、ようやく頭に描いていたきれいなメロディを持つ曲が完成したのです。

「やった。ついに出来たぞ」

僕は完成した楽曲を弾き終えて興奮していました。が、すぐに興奮は冷めました。このままでは足りないものがある事に気づいたからです。

そうです。歌詞の部分です。

曲は満足いくものが完成したものの、歌詞に関しては何をどう書いていいのかさっぱり浮かんできませんでした。感情を言葉で表現するという方法が今までの僕にはなかったので当然かもしれません。

困った僕は「好きな子同盟」を結んでいる同じクラスの友達の山崎君に相談しました。好きな子同盟というのは、お互いに好きな子を教えあって、クラスの誰かにお前あいつの事が好きなんだろ?と突っ込まれても、違うよ、俺の好きなのはあいつだよ、と助けてくれる同盟の事です。

背が高く顔立ちも整っていた山崎君は、話しも上手くて女の子からの人気も高かったのです。 

まさに山崎君は恋の相談をするにはうってつけといえました。彼の機嫌を取るために、僕は彼を家に呼んでポップコーンやサイダーをすすめながら話をしました。

山崎君はポップコーンをパクパク食べ、サイダーをガブガブ飲みながら僕の話を聞いてくれました。

僕の話を聞き終えた山崎君は、腕を組み、しばらく経ってから答えてくれました。

「…なるほど、それで光太郎がここんとこ早く帰る理由が分かったよ」

 僕は家で曲を作るために、山崎君から何処かに遊びに行こうと言われても断っていたのでした。

「…そうなんだ。それで山崎君に歌詞を書くのを手伝って欲しいんだよ。山崎君、国語の点数いいだろ?作文だっていつも上手いって先生に褒められるじゃないか。だから僕の曲の歌詞を書くのを手伝ってくれよ」

山崎君は深く頷きました。

「ああ、『好きな子同盟』を組んだ光太郎だ。見捨てるわけにはいかない」

「や…山崎君」

僕の熱意は山崎君を動かしたようでした。僕らは手を取り合い固い握手をかわしました。

僕は早速、曲が入ったCDと楽譜を山崎君に渡しました。山崎君には音楽の知識があるというわけでありません。僕は曲の部分にあーあーとかうーうーとか適当な仮歌を入れておき、そこの部分に歌詞をつけてもらうように頼みました。

山崎君はCDを持って帰っていきました。

手を振って「まかせておけ」と帰っていく山崎君の後ろ姿はとても頼もしかったです。

僕は山崎君が歌詞をつけてくれるのをわくわくしながら待ちました。

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