嫌いなわけじゃないけれど(以下略)の下
松次・・・21歳。一子長男。一週間ぶりに帰って来た。
柚希・・・17歳。二子長女。寡黙。兄の事は嫌いじゃない。
「兄さん、何で今日帰って来たの」
「……え」
眉を寄せて
ただ、普段通りの静かな
(帰ってこなきゃよかったんかな)
「えっと」
「……」
彼女の顔を見る。唇をすぼめて、何かを確認するかのような表情を。
責めるような表情ではない。怒っているわけでもなさそうだ。
けれど、沈黙を許さないような、表情だ。
あえていうなら、「期待」の表情に近いかもしれない。
(絶対ミスれないやつか)
まあしかし、正答なんてわからないし、嘘を
正直に俺は、言った。
「明日、
「……」
柚希は瞳をわずかに動かした。
「いや、もう今日だな」
時計は12を指している。それはつまり、12月28日が始まったことを示している。去年、母が
「
「あっ……う……」
何かを言いかけたと見える、柚希は寸前で唇を噛んだ。
「なんだよ」
柚希は、またも頬を赤くして、少し
「柚希」
声をかけると、柚希は顔を見せないまま言った。
「兄さんの、そういうとこは、好きよ」
*
家族の中でいち早く、俺と柚希は仏間に入った。
昼には墓参りに行くけれど、その前に
畳に正座し、
さわやかな笑みを浮かべる父と、
目を開いて
神は細部に宿る、と誰かが言ったらしいけれど、なんとなくわかるような気がする。
彼女の指先に、長い黒の髪の毛先に、
多分、こういう意味で言った言葉じゃないんだろうけれど。
それにそういうことは
柚希が目を開いて、こちらに視線に気づく。
「……何?」
「いや、おっきくなったなって思って」
「それ、あんまり嬉しくない」
「いや、身体とかそういうんじゃなくて、なんつーか……」
言い終わらないうちに柚希は身体を抱いて、ぎゅっと顔を
「違うって。そういうんじゃないって」
「もう、寝るから」
弁解を聞かずして、柚希は立ち上がる。なんなんだこいつは。
他人の話を聞かないのも昔から変わらない。
溜息がちに仏壇に向き直ったとき。
「なんもない時も、帰って来てよ」
ぽつり一言、柚希は言った。
可愛らしい奴だ。表情も大方予想できるけれど、だからこそここは振り返らないでおこう。
「ああ」と片手をあげて返す。
反応はなく、ただ階段を上っていく音が聞こえた。
**
昼時、俺は一人、母と父の眠る墓地に向かった。
学校に行った
「寒っ」
母が死んだのは雪の降りそうな、酷く静かな夜だった。
水を取り替え、花を差し替え、墓石に水を注ぎ、手を合わせる。
去年は、こんな穏やかな冬が来るなんて思ってもいなかった。
熱い涙の温度が、上空、白く浮かんでいた去年のあの頃には、そんなこと、思いもよらなかった。
宮科陽介、宮科花穂と二人並ぶ
夕方になったら、きっと皆も来るからさ。
別に来なくてもいいのに。とか本気で言いそうな母と、まあまあとそれを
2011.12.28
―――――
もうちょっとだけ続きますよ
作者より
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