第27話 ああ、無情!

 鳥海さん、覚醒した私に警戒しながら攻め口を考えている。


 アマレスの実力者にそこまで警戒されるなんて、私もなかなかやるじゃない?


 なんて少しでも甘いことを考えていたら、簡単に覆されそうな圧を感じる。


 腰を低く。


 左手を前に掲げ私のどこかを掴もうとしている。

 

 右手はだらん、と降ろしている。


 脚は左脚が前。日本の古武術のような変わった構えだわ。


 私にはいろいろなタイプの対戦相手をした経験がない。


 正直言うと、左利きの選手と対戦したら、私はどうなるのか全く分からない。


 鳥海さんは右利きだけれども、私の経験不足を見抜いたのか、即席の左利きのような構えをしている。


 正直やりにくさ200%だわ。


 でも、私はさっきから「ゾーン」に入っている。


 恐れることはない。


 鳥海さんの呼吸も、筋肉の動きも手に取るように分かるんだから。


 仕掛けられたら、それに合わせて本能任せで動くだけよ!


 でも待っていたら時間切れはすぐそこ。

 

 私はたぶんポイントで負けている。こちらから仕掛けないとダメだわ。


 私はまたタックルを仕掛けることに決めた。


 さっきよりも速く。

 さっきよりも低く。


 タックルしてしまえば、右利きも左利きも関係ない。


 後はタイミングだけ。でも時間が迫る。残りたった15秒。


 やるしか、やるしかない!


 私は右手を伸ばして、鳥海さんの左手を取りに行くをして、鳥海さんがそれに応じて体重を前に掛けた瞬間を狙った。


 よし、今よ!


 速く。そして低く私は鳥海さんの動きにカウンターを合わせるみたいに、だけどその体重移動を殺さないように斜めにタックルを入り、体重の乗った左脚を横から刈りに行った。


 鳥海さんはたまらず横転して、マットに沈んだ!

 

 

 もう、私は迷わない。今度は何をやるか決まっているの。


 私は倒れた鳥海さんの横から右手を取りに行って、首とお腹辺りに足をかけ、一世一代のフェイクを打った。


 腕ひしぎ十字を取りに行くと見せかけて、そのまま鳥海さんの左脚の太腿を持って抑え込んだ―― 周りがざわついている。


 「浮き固めか!」


 誰かがそう叫んだ。


 私、どうやらそんな柔道技を繰り出していたみたい。


 名前は知らないけど、どうやらそんな名前なのね。


 その浮き固めは、完全に決まって鳥海さんは動くことができない。


 私は得意げになってレフリーの源田さんの顔を見て、カウントを促した。


 しかし、源田さんはカウントを取らない!


 首を横に2,3回振ってフォールにはなっていないことを私に告げた。


 ど、どうしてなの!


「カーン!」


 3分は過ぎ、そして無情にも試合終了のゴングは鳴ったの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る