第26話 私の能力?
テイクダウンを取った私。そのままマウント・ポジションになった。
このチャンスを逃がしてはいけないんだけど、意気込んでるのはいいんだけど、アレ? 私、何をすればいいのかしら?
鳥海さんの両肩はマットについているし、フォールすればいいのかな?
やっぱり数週間の特訓なんて付け焼刃に過ぎないのね。自分が有利なのに、フィニッシュにもっていくアイディアが全然ないんですけど!
とりあえず鳥海さんに覆いかぶさってみる。
鳥海さんはありったけの力で跳ね除けようとするし、私もうまくフォールができない。
鳥海さんはそのままロープ際まで私をお腹に乗せたままにじり寄ってロープに足を掛けた。
ロープ・ブレイクだ。
(何やってんだ、私! バカバカバカ!)
レフリーの源田さんに促されて二人はリング中央に戻された。
「ファイッ!」
直ぐに源田さんの鋭い声で再び組み合う私と鳥海さん。
するとまたあの感覚—―頭の中が透明になったみたいに澄んで、そこに他の人の意識が入ってきて勝手に私の身体を動かすような―—に陥ったの。
また景色はモノクロームになって、すべてがスローモーションに。
また鳥海さんの呼吸、筋肉の動き、全部が私には分かる。
意外とさっきのテイクダウンからマウントポジションに至る一連の流れは、アマレスで実績のある鳥海さんをもビックリさせてしまったみたい。
明らかに鳥海さんは焦っている。
私はラッキーだ。別意識が私を支配しているのではない。
これは、私の隠れていた本能なのかもしれない。
集中力が極限まで高まると、私の脳は情報収集能力を最大値に振る。そしてその代償として景色の色を取り上げるんだわ。
さっきの試合で目を瞑りそうになった時、お父さんが、こんなことを言っていたのを思い出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なあ、夏南。何か突然自分の身に危機が迫った時、お前ならどうする?」
そうお父さんが唐突に聞いてきたのは、私が小学校2年生の頃だ。
「私、怖くて目を瞑っちゃうな」
「そうか。でもな、夏南。そんな危ない瞬間に目を瞑った瞬間に運命から見放されてしまうんだ。逆に目を見開いて、興味深くその『起こっていること』に集中してご覧?」
「すると、どうなるの? お父さん」
「きっとその危機を乗り越える。夏南にはそれまで分からなかった能力が一気に花開くんだ」
「へえー」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まだお父さんが「あの事件」に巻き込まれる前の話。
私はお父さんが言ったそのことを実際に体験することなく大人になった。
正確に言えば生死に関わるような事ではないのかもしれないけど、目を瞑ったら痛い目に遭う。
そして試合に負ける。
私は大きく目を見開いていたんだ。
そしてお父さんの言っていることが、本当だと云う事を理解した。
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