第24話 負けるかっ!
私が姿勢を低くして鳥海さんににじり寄ると、鳥海さんもそれに応じてリングの中央部で私たちは手四つ力比べになった。
背は小さいけど、鳥海さんの上半身は広背筋、三角筋、上腕二頭筋、前腕屈筋群、前腕伸筋群が均整良く発達していてアマレス選手らしさが際立っていた。
私の付け焼刃的なワークアウトでは、鳥海さんの力にはかなうはずもなく、私、圧力に押されていつの間にか両膝をついていた。
「うぅううっ!」
思わず漏らした苦し紛れの声に鳥海さんは反応して、さらに畳みかけてきた。
私はそのまま後ろに倒され、マウントの態勢を取られてしまった。
この試合は打撃ありのルールではない。
だけど、身体の自由が利かないと反撃がしにくい。
苦し紛れに足を振り上げて鳥海さんの首に掛けようとしたけど、鳥海さんは足に神経が集中した瞬間を狙って、私の両腕を拡げるようにしてフォールしてきた。
カウントが入る前に何とか逃れると、立ち上がり、今度は両足を取って両エビ固めを決めに来た。
(やばい!)
咄嗟にそう私の本能が叫んだ。
私は自由になっている上半身を右に振って逃れようとした。
実は、これが鳥海さんの狙いだったことは0.5秒後に私は理解した。
私が寝返ろうとした力を利用した鳥海さんは、リバース・ボストンクラブ―― 逆エビ固め ――に入った!
「うぁあああああぁあぁああ!」
苦痛に私は思わず叫んだ。
叫んでもどうにもならない。
レフェリーの源田さんが、
「ギブアップ?」
と聞いてくるけど、こんなところで負けてたまるかっ!
「ノー!」
そう何度か源田さんとやり取りをしているうちに、意識が遠のいてきた。
そしてまた、あの不思議な感覚が私の中に入ってきたの。
私は操られるようにして、身体を思い切り左右に振り始めた。
「もう、諦めなよ!」
あがく私に鳥海さんは叫ぶ。
「うるせえええええ!」
ちょっと。私の別人格さん?
イメージ崩れるからそういうことは叫ばないでほしいんだけど。
それでも私が激しく左右に身体を振っているうちに、鳥海さんのホールドが少し緩くなったのを感じた。
「舐めんなぁああ!!!」
そう私(私の別人格ね)は咆哮すると、身体を180度回転させることができて、地獄のような逆エビ固めから逃れることができたんだ。
もう残り時間は40秒。
ここで私が何もしなければたとえ引き分けに終わっても何もアピールすることができずに鳥海さんとの試合を終えてしまうことになる。
でも鳥海さんは私よりも数段上の実力者。
簡単に技を決めさせてくれる相手じゃない。
どうする、私!!
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