私の中のプロレスラー

第23話 二回目の試合


 二回目の対戦の一番手、中島さんと村上さんの試合は注目のビッグマッチになった。

 

 とにかく上背のあるハーフ美人の村上さんと、重量級の中島さん。

 

どっちが勝っても一瞬で決まると思っていたけど、お互いに自分の特徴を活かした 


 攻撃の応酬で三分間はあっという間に過ぎて引き分け。


 二人ともこれで一勝一分けになった。


 源田さんの説明では勝ち負けでオーディションの合格が必ずしも決まるわけではないという事だったけど、勝った方が印象は良いだろうし、私たち一人ひとりだってせっかく試合をするなら勝ちたいに決まっている。


 二人にとってはあと三回しか試合は残っていない。


 二番手は濱崎七保実さんと澤樹さん。


 濱崎さんは一回目の試合ではあまり印象的ではなかった。試合は引き分けだったけど、相手の友部ゆかりさんが試合の後、


「私のいいところ、全部あいつに消された」

 って、怒鳴っていた。


 受けが多く、その受けでカウンターの技を掛けてくる感じなんだけど勝とうという意思があまり感じられない攻撃だった。


 サブミッションスペシャリストの澤樹さんも、一回目の試合では受けが得意な印象だった。


 この試合、どうなるかと思っていたら濱崎さんはうって変わって俄然澤樹さんを攻め立て、直ぐにテイクダウンを取られて腕ひしぎ十字固めで散った。


 なんだか自暴自棄に見えて、合格したいという意思が感じられなかった。


 こんな消極的な人と試合をするのは、ちょっと苦手だな。


 そしてアマレス出身の鳥海さんと私の試合がやってきた。


 再びマットの上に登った私は深呼吸をして、鳥海さんの顔をじっと見た。


 鳥海さん、さっきと同じでまたおどおどしている。


 それが三味線を弾いていることは分かっているんだけど、どうしても舐めてかかりたくなるそんな心理戦を仕掛けられているような気がした。


 雑念は捨てて、無心で闘おう。


 私はそっと目を閉じた。


 「お嬢さん、レスラーはやっぱりレスリングが基本なんです」

 すると突然エドさんからのアドバイスが頭の中によみがえった。


「レスラーは、レスリングが基本、ね」


 素早いタックル、相手を制圧するスキル。

 それに対応できなければ、プロレスラーにはなれない、そんな意味が込められていた、。


 私はエドさんとの練習でも、タックルへの対応に結構な時間を割いて練習をしてきたんだった。


 私の身体、動いて!


 本能のままに、またあの感覚で闘えればいいのに。


 私が目を開けた刹那、ゴングは鳴った。


 そう。


 やはり鳥海さんは、鬼の形相に変わっていた。


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