第19話 だ、誰なの?
(焦っちゃだめだ……でも、どうしたら……?)
私、心の中では意外と冷静だった。
でも、この状況を打破するための妙案がどうしても浮かばない。
馬場さんは、見かけと違ってかなり本格的なストロングスタイル。
しかも攻めて良し、受けて良しのオールラウンダーだから私が闇雲に突っかかって行っても、今みたいな返し技もいくつも知っているに違いない。
進退窮まった、そう思った瞬間、私の意識は遠のいて、またあの時のように……そう、エドさんとの真剣スパーの時のように私の中に別の意識が入ってくるのがはっきりと感じられたの。
エドさんとのスパーの時はそれが何だったのかは全く分からなかった。
でも、今回ははっきりとそれが私ではない何かが私の身体を支配して、そして操っているのを感じられたの。
「誰かの意識」に操られた私の身体は、無警戒にもほどがあるように真正面から馬場さんに近づいていく。
馬場さん、笑っている。
きっと「飛んで火にいる夏の虫」とでも考えているのね。
でも私は馬場さんの腕を取ろうとして馬場さんがそれを逆手にとって私を捕まえてまた柔道で言えば釣り込み腰のように、でも襟がないから左脇下に右手をねじ込まれて投げ技を打ってきた!
(あっ! ヤバい!)
奥に隠れた私の意識は、咄嗟に目を瞑った……いや、逆に目を見開いてやった。
あの時 —―お父さんに言われたように。
そう。私はバランスを崩されていなかった。八艘飛びのように軽やかに馬場さんの前に躍り出て、そして馬場さんが掴んだ私の右腕を引き寄せ、私の右脚は馬場さんの左足のくるぶしの辺りに足裏でロックし、強引に身体を回転させて斜め左に引き倒した!
なんというか変則的な小外刈りみたい。
何が起こったかわからないという顔をした馬場さん、私にフォールされていることに気が付いたのはカウントが始まった後だった。
私は横四方固めで完全に馬場さんの自由を奪っていた。
渾身の力を込めて私のフォールに抗う馬場さん。
でも、むなしくもカウントは3つ入った。
「冬城のフォール勝ち!」
馬場さんが起き上がって、リングの中央に並ぶと源田さんが私の手を取って高々と掲げた。
「あなた、ビースティー冬城さんの娘だって聞いたけど、柔道家なの?」
「い、いえ、柔道はやってません。正直馬場さんの圧が強くて、攻め手に欠きました。たぶん……小外刈りは偶然だと思います」
「偶然なんかで私に勝たれたら困るわよ」
そう言って馬場さんは微笑んだ。
正直勝った気がしなかった。
一体、あの意識は誰なんだろう。
もしかして、私は二重人格なの?
「いいライバルができたわ」
リングから一緒に降りながら馬場さんはそう言ってくれたけど、私は私にいろいろな課題を見つけてしまってその言葉に相応しくないと思えて仕方なかったの。
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