第17話 今度は私の番
背中から落ちた村上さん、一瞬呼吸ができなかったみたいで、やすやすと飯田さんにフォールに持っていかれてしまった。
リング上でレフェリーをしていた源田さんのカウントが入る。
「ワン! ツー! ス……」
スリーカウントが入る寸前で村上さんは背中を反らせて無理やりにフォールから逃れた。
両者立ち上がって、またリング中央で両手を組み合った。
上背がある村上さんは上から体重をかけて小柄な飯田さんを潰しにかかる。
しかし、飯田さんは急に力を抜いて村上さんのバランスを崩してそのまま引き倒した!
「うまい。うまいわ。飯田さん」
私は小柄でフィジカルにハンデがある飯田さんの相手の崩し方に感動していた。
右手を離した飯田さんは今度は左手を取って腕ひしぎ十字にもっていった。
どよめくリングサイド。
「サブミッションできるのか、あの小さな子」
「すげえきれいに決まったな!」
村上さんにもうすべはなく、1ラウンド制ながら残り23秒で村上さんは右手で飯田さんの背中をタップした。
この瞬間、飯田さんの勝ちが決まった。
村上さん、起き上がってこない。
「おい、村上。立ち上がれ。もう終わったんだぞ」
心配している風でもなく源田さんは敗れた村上さんに起立を促した。
村上さんは泣いていた。
「泣くな。まだこれで終わったわけじゃない」
「は、はい……」
勝った方の飯田さんも厳しい表情を崩していなかった。
「アタシもこれで合格したなんて思ってないから。あんた、いいもの持ってるよ」
敗者にかける言葉って難しいな。
二人は握手をしてリングから降りた。
「次のスパー、3番馬場と12番冬城。リングに上がって!」
私の番だ。
二次試験会場には、応援は入れない。
このプロジェクトは極秘に動かしているということで、万が一でもマスコミにかぎつけられることを恐れての処置だった。
悠馬君が応援してくれるともっと頑張れるのにな。
会場の外で待機している悠馬君のことを思い浮かべたら少し寂しくなってしまった。
(でもお父さん、お母さん。アシュラさんにエドさん。私、がんばるから祈っていてね)
そう独り言ちて頬を二回、パーン! パーン!と気合入れに両手で叩いた。
リングに上がると、対戦相手の馬場樹里亜さんがこっちを睨んでいた。
(うゎ、怖っ)
でも睨めっこならアッチの勝ちかもしれないけど、私にはやるだけやったという自負がある。
睨むだけ睨ませてあげるわ。
舐めないでよね。私は、ビースティー冬城の娘、冬城夏南だってこと、思い知らせてあげるから!
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