第15話 やってやる
全員アップが終わり、私は入念にストレッチをしていた。
受験者は全員で20名。
この中から半分の10名が第一期生としてデビューに向けて本格的なトレーニングが開始されると云う事だった。
私はとにかく他の娘たちよりも線が細いし、力は弱そう。
それでもここ数週間で私の三頭筋はなんか盛り上がったように見える。
筋肉は裏切らないの。
源田さんがリングに上がって挨拶と今日のインストラクションを始めた。
「皆さん、今日この日を待ちわびていました。20名の半分が私たちのプロジェクトのレスラーとして本格的なトレーニングを受けるのです」
すると、私の隣にいた少し小柄な、ヤンキーチックな女の子が口を開いた。
「お題目はいいからさ、早く始めなよ。ずっと待ってんじゃんウチら」
怖っ。
ウチら、って私関係ないのにな。
「その威勢のよさは飯田恭子さんですね?」
「だったらなんだ」
飯田さん、っていうのね。
源田さんがどういう人か知らないのかしら?
私おせっかいにも飯田さんに忠告してしまった。
「あの、飯田さん」
「なんだ? お前」
「私、冬城 夏南って言います。夏南でいいです」
「その夏南が何か用か?」
「源田さんが、どういう人かご存じでそのような……言葉遣いをしているのですか?」
「知ってるよ。源田功一朗。帝プロの元切り込み隊長だよ。このオッサン」
「知っているのに何で……」
「私の仇だからさ」
「仇?」
源田さんが割って入る。
「おいおい、俺がオマエに何をしたっていうんだ?」
「アンタは私のヒーローだったのに! 勝手に帝プロ辞めやがって! どうしてくれるんだ私のこの純情を!」
さすがに全員面食らって、呆然としていた。
飯田さん、顔が真っ赤になった。
要するに飯田さんは源田さんが大好きだったのに急に引退しちゃったから、行き場のない憤りをずっと抱えていて、このオーディション兼テストの機会を狙って文句を言いに来たのね。
「その話は、お前さんがちゃんと合格したら話してやるよ。今は試験に集中しろ!」
「本当ですか?」
いきなり敬語!
源田さんと話し合いができるなんて、きっと期待していなかったのかも。
源田さん、美男子というよりは渋いおじさま、って感じの人だから私のストライクゾーンからは外れているけど、わかるわ。こういう男の人に憧れる乙女って結構多いんだよね。
「話の続きだが、受け身が取れるかまず確認させてもらう。さすがに怪我されたらこまるしな。それから1対1の3分のスパーリングをやってもらう。ルールは打撃禁止だ。あと、頭をマットに打ち付けるような技は禁止とする。いいな?」
「はい!」
全員が声をそろえて返事をした。
「じゃあ、お前たちの技を楽しみにしているぞ」
隣で、飯田さんが独り言をつぶやいている。
「やって、やってやるよ!」
私も負けないから。
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