後には引けない

第14話 二次試験、開始!

 ついに二次試験の日がやってきた。

 二日間の合宿でプロレスラーとしての適性を見られる、と源田さんは言っていた。

 

 出かける前、私は仏壇のお父さんの位牌に手を合わせて、


「正直、私がプロレスラーになるかもしれないなんてこと、一度も考えなかったけど、ここまで来たのは全部お父さんのせいなんだからね」

 と、文句を言っておいたの。


 私は本当はアイドルになるはずだったのに。


 でも私ももう19歳。坂道の研究生になるにはもうギリギリのタイミングで、まったくオーディションもダメ、スカウトも結局源田さんにしか声をかけられなかった。


 私のアイドルに対する引き際は、今なのかもしれないな。


 そしてお父さんには、


「結果はどうあれ、結構頑張ったから今日は見守っててください」

 と、お願いをしておいた。


 今日も悠馬君が運転してくれるGMC ユーコンに乗って私は二次試験の行われる合宿会場である後楽園ホールに向かっていた。


 二日間、後楽園ホールを貸し切ってのオーディションだ。

 自宅からの通いは許されていなくて、一次試験合格者は全員東京ドームホテルのシングルルームに一泊することになっていた。


「お嬢さん、結局二次審査、お受けになられるんですね」


「そうよ。心配してくれるの? 悠馬君」


「それはそうですよ」


「どうして? プロ東の会長の娘だから?」


「それは勿論ですが、それだけではありません」


「じゃあ、ほかにはどんな理由が?」

 私がそう突っ込むと、悠馬君は黙ってしまった。


「何よー。言ってくれないとわからないじゃない?」


「え、ええ。そうですが、ちょっと……」


「ちょっとって何よ?」

 後部座席に座っていたから、悠馬君の表情は見えなかった。


 結局彼はちょっと言えないっす、を繰り返して答えてはくれなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 地下駐車場にユーコンを停めて、地上に続くエレベーターに乗っている間、悠馬君はエドさんからの申し送りを受けて体調のチェックを兼ねて今日のプランについて確認をしてくれた。


「お譲さん、いいですね。力勝負では間違いなく負けます。お嬢さんの強みは動作の速さと技の多彩さです。連続的に技を繰り出して相手を圧倒しましょう」


「私は教えられたこと以外はできないわ。でも、みんなには忙しい中本当によくサポートしてもらったから、絶対に合格しなきゃ」


「でも、源田はお嬢さんを使ってどんなことをさせるのか、疑惑は晴れていません。何か違和感を感じたら、躊躇わずに逃げてください。いいですね?」


「わかったわ。いろいろとありがとう」

 悠馬君と別れて私は二次試験の受付で登録をしてもらった。


「おはよう。今日は気合が入っているようですね。冬城 夏南さん」

 源田さんが声をかけてきた。


「源田さんおはようございます。今日明日とよろしくお願いいたします」


「君のパフォーマンス、楽しみにしていますよ」

 不敵な微笑みを湛えながら源田さんは私に前を通り過ぎて行った。


 更衣室で着替えている間中、複数の視線が私に刺さった。


 そう、ここは私にとって戦場なのだわ。

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