第12話 猛特訓の果てに

  二次試験までの残り二週間、私は特訓に明け暮れた。


 村内ジムでは基礎体力を、そして実家ではエドさんが私の専属で基本技を教えてくれたら、スパーの相手をしてくれた。


「うわー、少し休憩にしてくださる?」

 今日は朝から少しこんを詰めすぎてたので、エドさんに休憩を私から提案した。


 エドさんは快諾してくれて、リングサイドの折りたたみ椅子に二人並んで座った。


「お嬢さん、スジが良いみたいですね。受け身もしっかり出来てきてますし」


「でも、全身アザだらけですわ。とても普通の女子大生のやる事じゃないわよね」


「お嬢さん。ビースティー冬城の娘さんとして生まれた事自体普通じゃないんですよ。おやっさんが生きていたら、間違いなくAJGPWに入れられたでしょうね」


「私には選択権がないって事?」


「まあ、おやっさんが無理矢理お嬢さんをそこに放り込むかってのは誇張かも知れませんが、上手く促されたと思いますよ」

 確かにお父さんは私に何かを無理強いするような人ではなかった。


 でも、私はいつの間にかプロレスの大ファンになっていたし、今もこうして何のためだか分からないけど細腕に鞭打って頑張っちゃってる。


 アレ?


 私の夢はアイドルじゃなかったっけ?


 正直言うと、アイドルでいられる期間はすごく短い。

 一言でアイドルといっても、地下アイドルからトップ芸能プロの抱えるプロジェクトまで競争も激しいし、何が自分の中に光るものがなかったからスカウトもされないし、オーディションにも受からなかったんだろうな、とは薄々感付いている。


 何が自分のDNAの中にプロレスラーとしてのアイデンティティが備わっているのか、ものすごく私にこの苦行みたいなトレーニングはフィットしている。

 そんなことを考えているうちに休憩が終わり、エドさんとの特訓が再開された。


「さあ、次はロープ周りの練習ですよ。飛ばされる時はしっかりと飛ばされないとかえって怪我をします」


「よし、次はフロントスープレックスです。このエドを持ち上げられますか(笑)?」


「さあ今日のクライマックスです。フォールの練習をしましょう」


 色々なトレーニングの課題が出てくる度に、私の中に違和感が生まれ始めている。


 遠い記憶の中に、エドさんが教えてくれる1から10までの全てがあるのだった。


「お嬢さん、本当に初めてなんですかねえ? 今時の新入門者ですら、短時間でここまでやれる奴は居ませんよ!」


「エドさん、手加減なしで5分のスパーをしてくださらないかしら」


「ちょ、ちょっとお嬢さん、私がおだてすぎたのかも知れませんが、流石にそれは……」


「いいえ、コテンパンにやっつけられても良いの」


「しかし……」

 私の燃え盛るような眼を見て諦めたのか、エドさんは来ていたTシャツを脱ぎ、鍛えられた上半身を露わにした。


「流石に男女差は考慮します。あとは遠慮なくって言ってましたよね?」


「ええ、望むところですわ?」

 練習生のツトム君がゴングを鳴らし、私の信じられない5分間が始まったの。

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