第9話 源田の正体
「源田さん! どうして私なんかを合格にしたの?」
食って掛かる私を源田さんはなだめるように言った。
「それは冬城さんの運動能力の潜在能力が素晴らしかったに決まっています」
「もう! 私をからかっているんですか?」
「なぜそう思うのですか?」
「だって、あそこにいる子のほうが全然力強いっていうか、プロレスラーっぽいじゃないですか」
半分ニヤケていた源田さん、突然マジ顔に変わった。
「プロレスラーっぽいとか、そういうのはどうでもいいんです。我がスガハラエンタープライズのレスラーは、歌って、踊って、そして闘えるレスラーでなければならないんです!」
ああ、私たちは「企画物」として集められているんだわ。
源田さんの一言で、なんだかこのオーディションの全貌がわかってしまった気がした。
「冬城さん。今あなたは『私たちは企画物として集められた』って思ったでしょう?」
何? 何? 源田さんってテレパシー使えるの? 私の心をなんで読めるのかしら?
「え、ええ。まあ」
私はそう答えるのが精いっぱいだった。
「よく聞いてください。ご自身を『企画物』などと思わないでください。我々は、強くて美しいものを求めているのです。そう。アフロディーテのような」
ギリシャ神話に例えられるなんてなんだか光栄だけど、それが却って胡散臭いのよ。
「でも、私は強くなんてないわ」
「美しいということは認めるんですね?」
何よ、揚げ足とるようなことを!
「そ、そういうことでは」
「まあいいでしょう。本当のことを言います」
源田さんは真面目な顔をしたまま言った。
「体力は後でつけることはできますし、体の強靭さも後付けで何とでもなります。しかし、」
しかし、なんなの?
「持って生まれた戦いの才能というものは後付けで何とかなるものではないのです。あなたにはその才能が有ります」
「たったあれだけの体力テストでそんなことがわかるわけないじゃないですか!」
「私の目を節穴と思ってはいけませんよ? 私は今はこうしてスガハラエンタープライズのスカウト部長を仰せつかっていますが、私はプロレス出身です」
確かに源田さんの体型はがっちりしていてプロレスラー出身というのも頷ける。
「じゃあ、私の父や、アシュラさんのことも……」
「もちろん存じ上げていますよ。そしてあなたと出会ったあの時も、偶然を装っていましたが実際には情報をもとに待ち伏せをしていたのです」
ちょっと、それってアメリカのサスペンス映画だったら、私死んでるやつじゃん。
「あなたはお母さんに似てとても美人です。しかしあなたの本当の美しさは、外見だけではありません。そう。お父様であるビースティー冬城譲りのプロレスのポテンシャルなんです」
なんだか父のことをほめてもらって悪い気はしなかった。
でも私がプロレスなんて。
想像もできなかった。
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