第7話 話が違う
オーディションの日、私は目いっぱい綺麗にメイクして四谷にあるスガハラの事務所へ出かけた。
巡業から帰って来た悠馬に相談したら、
「お嬢さん、そりゃなんだか怪しいっすよ。自分が付いて行きますんで、安心してください」と言って同行を快諾してくれた。
私の用心棒代わりにしてごめんなさい。悠馬くん。
事務所に着くと、さっそく受付で
「おはようございます! 今日のオーディションを受けに来た冬城 夏南です! よろしくお願いします!」
ととびっきりの笑顔と大きな声で自己紹介した。
そう、自己アピールの戦いはもう始まっているのよ。
「冬城 夏南さんね、じゃあ、これに着替えて控室で待っててくれるかな」
と、なんだか水着みたいなものを渡された。
私のほかにも次々にオーディションを受ける女の子たちがやってくるんだけど、なんだかいつものオーディションとは雰囲気が違うのに気が付いた。
—―なんというか、みんな体が大きい、というか。
身長百七十二センチの私が言うのもなんだけど。
「大柄な女の子の役なのかな」
とか勝手に自分で納得していた。
更衣室でさっきもらった水着のようなものを広げてみてびっくりした。
「これ、リングコスチュームじゃない!」
シンプルなワンピースの真っ赤で競泳用のスイムスーツのようだけど、間違いない。これは女子プロレスラーのリングコスチュームだ。
「話が違うじゃない!」
と思わず叫んでみたもの、
「でも女子プロレスのドラマとか映画だったら、私ちょっと役に立てるかも」
と下心が抑えきれなくなって、半分仕方なく着替えたて、指定された控室に行った。
そこには二十名くらいの、お揃いのリングコスチュームを纏った女の子たちがいた。
確かに鍛えていそうな精悍な身体つきをした子もいる。
私はプロレスラーの娘として生まれて来たし、プロレスのことについては人並み以上に詳しくはあるけど、プロレス自体やったことはないし、それでもこの身長が生かせるなら、とオーディションを受ける決意を改めて固めた。
「さあ、みなさん、こちらへ」
私に声を掛けてくれた源田さんが私たちを迎えにやって来た。
「げ、源田さん、この間はどうもありがとうございました」
「ああ、冬城さん、来てくれたんだね? 是非君が合格するように祈っているよ」
「はい、頑張ります! でも源田さん、なんで女子プロレスのドラマか映画の役だって先に言ってくれなかったんですか?」
「あれ、何か勘違いしているみたいだね」
「どういうことですか?」
「これ、ドラマの役のオーディションじゃないんだ」
「えっ……」
「スガハラエンタープライズの『女子プロレスラープロジェクト』のオーディションなんだけど、渡した手紙読まなかったの?」
私、手紙なんて渡してもらって……いたわ。
すっかり忘れていた。
もー! なんでこうなっちゃうの?
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