第4話 プロ東の秘密兵器
「健五ぉ、お前が社長にしたことは、神様が赦しても俺は絶対に許さねえ。永遠にだ」
「人聞きの悪い。あれはルールに則って開かれた試合の中で起きた、不幸な事故だったんですよ」
「そんな事、信じられるか! 何だったらお前、ここで決着付けたっていいんだぜ?」
「声が大きいんだよ。この低能ゴリラは」
「なんだと、コラ! やってやんぞ? やってやんよ!」
「アシュラさん!」
私は咄嗟に割って入った。
「お、お嬢さん、いいんすか? こんなヤツがここにいて」
「いいも悪いもないわ。こんなところで騒ぎを起こさないでちょうだい」
「し、しかし」
私はアシュラさんを睨みつけた。
「うぐっ……」
「火浦さん、悪いですけど私たちの中にはまだ火浦さんに対するわだかまりは消えていなんです。あんな、あんな悪魔の所業のようなことを父にしておいて!」
「そうですか……それは申し訳ないですね」
「覚悟してください。来年のNGP、父が
ははっ、と短く笑った火浦は言った。
「不躾ながら、プロ東に、この私を倒せるレスラーがいるとでも?」
アシュラさんがここ三年間、NGPの決勝では火浦と対決を繰り返してきて、いずれも火浦の勝ち。
でも、アシュラさんも真剣勝負の試合をするには全盛期を過ぎているし、逆に火浦は脂の乗った三十二歳だ。NGPの初戴冠は二十六歳だった。
「俺が、と言いたいところだが、もう一人凄い奴がいるんだぜ。ここに!」
と、アシュラさんが指を差した向こうには、何故か練習生で、デビューを控えている悠馬くんがいたの。
意外な指名に驚いた顔をしたのは火浦だった。
「へえ、そんな若い子がいるんですね。楽しみだな。あれ、デビューしていたっけ?」
指名された当の悠馬くんは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「え、僕ですか? いいえ、デビューは来月の地方巡業ですけど」
「ははは。僕も随分と舐められたもんですね」
デビュー前の新人が自分より強いなど屈辱とばかりに火浦は苦笑して見せた。
「舐めているのはどちらか。まあそのうち分かるぜ、火浦」
「いいでしょう。僕にブラフは効きません、とだけ言っておきます」
そう言って火浦は、他の帝プロレスラー数人と本堂から出て行った。
「ちょ、ちょっとアシュラさん!」
「なんですか、お嬢さん」
「あんな出まかせ言っちゃってよかったの?」
私がそう言うと、アシュラさんは笑みを浮かべながら、
「安心してください、お嬢様。
そう言って私の肩をポン、と叩いた。
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