第3話 因縁の相手

「てめぇが何故ここにいる!」

 アシュラさんは、自分と同じくらいの体格の人を相手に、胸倉を掴んで怒鳴っていた。

 この人、サラサラとした金髪に染めた長髪に、礼服の上からもはっきりとわかる筋肉質。

 そしてリングから降りた時には必ず眼鏡を掛けている端正な顔つきはイケメンのベビーフェイス風だけど実際にはそうじゃない。


「七回忌の法要にお邪魔しただけですが。まずはこの手を放してもらえますか?」

 その人は、淡々とそう受け応えた。


 アシュラさんは一旦落ち着いて、胸倉を掴んでいた手を離した。


「俺が聞いているのはそういう事じゃねえ。何故ここにさも当然、みたいな顔で来ているのかを聞いている。健五」

 この人の名は、火浦 健五。


 日本最大のプロレス団体、帝国プロレスの実質のエースだ。


 お父さんはこの帝国プロレスに入門してから、数々の伝説を残してきた。


 でも、体を鍛え、観客にウケける技を生み出し、遺恨を作って煽り立てるいわゆるショー要素の強いプロレスを源流とする帝プロのスタイルを良しとしなかったお父さんは、ある日突然リングの上で、


「帝プロは死んだ」

 という言葉を残し、お父さんを諫めるために掴みかかったリング外で3人のメーンエベント級のレスラーをした後、賛同する六人のレスラーと共に「プロ東」を旗揚げして帝プロを離脱した。

 お父さんたちは実力主義、完全真剣勝負ガチを標榜し、ショープロレスとは一線を画したの。


 帝プロは最初の頃、プロ東を完全無視していたけど、お父さんたちのストロングスタイルが時代の要求にマッチしてお客さんの人気に火が付くと、無視もできなくなったのかプロ東に色々とちょっかいを掛けてきた。

 

 アシュラさんをはじめとした門下生は全員「これは罠」と言って取り合わないよう父に進言したけど、父は、

「プロ東最強。恐るるに足らず」

 といって聞く耳を持たなかった。


 そして、旗揚げ後一年後に実現したのが人呼んでNGP、国内最強王者決定戦だった。


 表向きはプロ東と帝プロの交流戦という位置づけだったけど、実際にはそうじゃなかった。


 帝プロの社長にしてレジェンドレスラー、ジャッキー本田さんがプロ東潰しにその大会を利用して次々にお父さんに刺客を送り込んできたの。


 普段はショープロレスに徹しているその人たちだって、何のために身体を鍛えて技を生み出してきたのか疑問に思っているはずだから、お父さんと真剣試合をやりたかったのはプロ東のレスラーだけじゃなかったの。


 そして、六年前のNGPの決勝戦。


 帝プロが送り込んできたのは、この火浦 健五だった。


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