【後記に代えて】エールンドレ設定の要約

 

 「異世界ファンタジー設定コンテスト」では、六つの部門が列挙されています。当初は、六つの部門に従ってエールンドレの設定を纏めようと思っていました。しかし、筆の勢いで六つの分類法を無視して書き上げてしまいました。その分類法では自分の考え方と合わなかった所為も有ります。

 自分の頭の中の分類法では、【神話・歴史・宗教】部門と【地理・国家・組織】部門が混然一体として世界設定の中核を為しております。そして、残りの【モンスター・種族】【職業・特技・技能】【魔法・異能】【武器・アイテム】四部門は、【神話・歴史・宗教】【地理・国家・組織】二つの中核部門の下位部門に当たると考えていました。


 拙稿の最後に、自分の頭の中の整理も兼ね、六つの部門に分けてエールンドレの設定を要約してみます。



【神話・歴史・宗教】


 エールンドレは無文字社会である。あらゆる記憶や知識は口承で伝えられる。伝えられる知識は、祝詞や呪文、禁忌や法律、天文や算術、本草や医術などに偏っている。歴史は重視されず、神話と混然一体化している。エールンドレの人間は、知識人である神官たちですら、時系列を以て歴史を語ることが出来ない。昔の出来事が、百年前のことか、千年前のことかも判らないのである。

 そもそもハルボルズの天険に護られ、気候も穏やかなエールンドレでは、記憶に値する様な歴史的事件も起こらないのである。ある意味、平和ボケの現れでも有る。


 エールンドレの宗教はアニミズムである。生物・非生物を問わず、万物に御霊、或いは奇しき御力が宿ると考えられている。最も力の強大な者は善き神々、それに次ぐのは悪魔や万物の精霊、その下に妖精や人間、鳥や獣、魔物が存在すると考えられている。祈祷や礼拝によって、善き力を引き出し、この世の秩序を守るものが、王や神官である。そして、悪しき力を引き出して呪詛を行う者が妖術師である。

 善き力は万物の法則だと考えられてる。法則は物質界のみならず、精神界にも作用する真理である。エールンドレの社会では、倫理や法律は自然科学の法則と同一視されている。故に、裁判官は神官から選任されるのである。

 言い方を変えると、善き力は此の世を成り立たせるプログラムの様なものである。悪しき力とは、プログラムへの不正アクセスの様なものと考えられている。王や神官、そして万民が善き力に従うことは、システムを管理するようなものなのである。



【地理・国家・組織】


 エールンドレはハルボルス山脈に囲まれた円形の盆地である。その直径は約二四粁である。面積は大阪府と東京都の間くらいである。

 ハルボルズ山脈の外への出入り口は一つだけである。関門要塞に護られた一本の洞窟街道だけである。それ故に外敵の脅威を心配する必要も無く、平和を享受している。

 エールンドレの中心には、四十の川が流れるロードバール平原が広がる。そこは豊かな穀倉地帯である。ロードバール平原の周りは、ウェーシャゲスターン森林に囲まれている。ウェーシャゲスターン森林の外側には、ハルボルズの山麓ラーグ高原が広がっている。そこは豊かな牧草地である。


 エールンドレは国王を戴いている。国王は神官と騎士の長であり、万民の主である。国権の最高機関は御前会議である。御前会議は、国王と神官と有力貴族から成り、行政、立法、司法の三権を掌握する。内閣が、国会と最高裁を兼ねたような組織である。


 王国の主な爵位と階層は次の通りである。

 シャフルダーラーンは王家、王族の爵位である。国王と家族、王位継承権者から成る。

 ダストワールは高位の神官の爵位である。特定の家系が、家元として神官たちを指導・監督している。神々を祭ることにより、王国の安寧と秩序を護っている。国王と民衆を繋ぐ存在でもある。

 ワースプラガーンは上位の騎士の爵位である。王国の重要な武官職に就く。

 ウズルガーンは郷村の豪族たちの爵位である。彼らは郷村の代表者であり、郷村の支配者である。国王と民衆の間に立つ存在である。国王から民衆を保護することも、国王の威を借り民衆を搾取することも有る。

 アーザーダーンは騎士たちの爵位である。騎士は郷村に頼らず、草原にて牧畜を行って生業とする。国王の直臣たちである。

 ハームハルザーンは爵位無き豪農である。王国の役人たちである。

 ワーストリョーシュは独立した農民である。年貢を納めることにより、王国を支えている。大抵の場合、核家族ではなく大家族を形成している。



【モンスター・種族】


 エールンドレの宗教的価値観では、生き物をゴスパンドとフラフスタルに分けて考えられている。

 ゴスパンドは益畜のことである。その筆頭は犬であり、他のゴスパンドとは別格である。犬に次ぐのは牛と馬である。その後に山羊や羊、鶏、豚、野獣や野鳥、魚などが続く。犬と馬以外は、食の対象である。しかし、ゴスパンドを妄りに殺すことは許されない。神ん恵に感謝を表して屠るのである。使役する家畜を酷使したり、虐待することは罪である。

 フラフスタルは魔物である。爬虫類、昆虫、害獣などである。自然界の生物を魔物と看做しているのである。これらを殺すことに容赦は要らない。またフラフスタルを食することは禁忌である。悪に染まると考えられている。


 エールンドレに住むヒューマノイドは人類だけである。エールンドレの住民は、エールザンドとアーネルザンドの二種類に分けられる。エールザンドは若干色白で背が高く、アーネルザンドは若干色黒で背が低い傾向が有るが、人種的差異と言う程では無い。日焼けの度合いや生活習慣の差であると考えられる。エールザンドとアーネルザンドの間の大きな違いは生活形態である。

 エールザンドは牧畜の民である。王族や騎士たちはエールザンドである。夏はラーグ高原の牧草地、冬はロードバール平原の冬営地で過ごす。馬術が巧みである。馬上から自在に矢を放ち、剣や槍を振るう。

 アーネルザンドは農耕の民である。一年をロードバール平原で過ごす。彼らの長がウズルガーンと呼ばれる貴族層である。

 神話によると、アーネルザンドは先住民である。エールザンドは後から移住して支配者になった。アーネルザンドに鉄と馬を齎した。


 エールザンドも、アーネルザンドも同じ言葉を話す。エールザンドの話し言葉が標準語と看做されている。アーネルザンドの上層であるウズルガーンたちも、エールザンドの様な話し方をする。エールザンドの話し方は雅やかと看做される。一方、アーネルザンドの民衆の言葉は、やや野卑で汚いと看做される。階層別の方言差であろう。言語としては大きな違いは無い。


 尚、もともと神官の制度を齎したのはエールザンドである。しかし、アーネルザンドの中にも神官になる者が続出した。神官はエールザンドの言葉で話し、エールザンドの様に振る舞う。アーネルザンド出身の神官たちは、エールザンドでもアーネルザンドでもない立場に立っている。

 エールザンドとアーネルザンドの間には、身分や風俗習慣の点で大きな断層が有る。しかし、明確な差別や断絶が有る訳では無い。エールザンド同士、アーネルザンド同士で結婚する傾向が強いが、互いに通婚できない訳では無い。その通婚が禁忌と看做されることも無い。



【職業・特技・技能】


 エールンドレの住民をRPGの職業クラスで分類するならば、以下の様に当てはまる。


 シャフルダーラーンやワースプラガーンを含むアーザーダーンたちは、悉くが騎士である。職業クラスは戦士系である。一部はレンジャー系の職業でも好いであろう。彼らに特筆すべき技能は乗馬系である。彼らは乗馬に長けている。Lv.1の駆け出しのキャラクターでも、高ランクの乗馬技能を持つ。馬上での戦闘行為には殆どペナルティーを課されない。またアマゾネスの様な女性戦士も存在する。この階層では、女性戦士は珍しくないのである。


 神官たちの職業クラスは勿論神官系である。その中で治療技術の高い者は治療師などの職業クラスに該当する。楽器や演奏に秀で、弾き語りで教えを説く者は吟遊詩人に該当する。彼らは基本的に記憶力が高い。Lv.1の駆け出しのキャラクターでも、高い記憶術を習得している。


 農民出身の若者の中には兵士になる者が居る。その様な者も戦士或いはレンジャー系の職業である。しかし、歩兵であり、騎馬技能ボーナスは無い。


 その他の住民については、魔法を使えたとしても、大した能力は無い。生業の為に役立つ技能を持っていても、冒険者としては無力な存在である。



【魔法・異能】


 エールンドレの魔法使いとは、要するに神官である。その魔力の源泉は神霊界に由来する。要するに神々や妖精、万物の精霊の力に依存するのである。悪しき呪術師も、悪魔などの悪しき精霊の力に依存するものと考えられている。

 鍛冶屋も錬金術師の様に考えられている。神官の魔法体系の範疇外にあるが、対立することも無く平穏に共存している。


 神官は毎日様々な神事を行う。一見、何の変哲もない宗教儀礼の様である。しかし、これこそが神官たちが日常的に行う魔法なのである。この魔法儀式によって、エールンドレの四季は恙無く巡り、地震や洪水、旱魃などの厄災を避け、五穀は稔り、五畜は肥えるのである。例えて言えば、神官たちは、エールンドレと言うVR空間の管理者の様な者なのである。


 エールンドレの神官たちは神霊魔法の使い手である。治癒や祝福、加護の術を得意とする。神霊魔法の中でも究極の技とされるのは、神との交信である。具体的には、身体から魂を分離して神霊界を旅することである。術者の能力次第で、地獄や天国を旅して、精霊や神々と交信することが出来る。そして奥義を極めた者は、最勝界ガロードマンに住まう最高神オフルマズドに見えることも出来る。オフルマズドは智慧の神である。オフルマズドに見えることは、アカシックレコードにアクセスする様なものなのである。究極の智慧とは、人智の及ばざる霊智であるという考え方なのである。



【武器・アイテム】


 エールンドレの職工たちは底底の腕を持っているが、大都市を抱える国々の職工とは比べるべくもない。異界の人間から見て、特筆すべきものは無い。王国の宝物庫に忍び込んだところで、金銀財宝や至宝の数々が呻っている訳では無いのである。

 もしも、神話級の至宝が有るとすれば、龍殺しの剣アズクシュくらいであろう。始祖サルマルドが大蛇の悪魔を倒したと云われる剣である。そんなものが実在するかどうかは不明である。


 もし、龍殺しの剣アズクシュが存在すれば、両刃の直刀である筈である。エールンドレでは剣のことをシャムシェールと呼ぶが、湾曲していない。シャムシェールは両刃の直刀である。

 湾刀の登場は、鐙の登場と時を同じくする。鐙の伝播と共に西漸したのである。鐙の発明により、騎者は馬上で脚を踏ん張って、力いっぱい剣を振り下ろせる様になった。それに適した剣として湾刀が生まれたのである。

 鐙を知らないエールンドレの騎士たちが湾刀を使う筈が無いのである。もし異界から湾刀が入って来たら、奇異に映ることであろう。


 エールンドレの騎士や徒士の軍装は如何なるものであろうか?

 はっきり言って、中世ヨーロッパなどと大差はない。鎧兜の意匠がスキタイ・イラン風なだけである。見た目は、西洋とは異なり、ビザンツに近いであろう。


 エーレンドレでは貨幣経済は未発達である。RPGの舞台として組み込むなら、ゲームシステムの物価表を其のまま援用したら好いと思う。その場合、金貨や銀貨は国際的な基軸通貨として使われるだろう。エールンドレが貨幣経済に巻き込まれていれば、ローカルな銅貨くらいは鋳造してるかもしれない。そうなると鍛冶屋の頭アーハンガラーン家が鋳造を請け負い、経済的に大きな影響力を有するであろう。


 エールンドレでは、家畜、穀物、葡萄酒、綿布、麻布などが通貨的な役割を果たして物々交換が行われる。その中で基軸通貨的な役割を果たすのが羊である。様々な物々交換が羊に換算して行われる。

 例えば、馬一頭は羊五頭から七頭分である。駿馬になると、この限りではない。並の馬十頭とか二十頭に匹敵する。エールンドレでは「一群れに馬に値する八脚の宝」と謡われている。疾走すると四脚ではなく、八脚に見える駿馬ということである。八脚の馬スレイプニルも同様な発想から来たレトリックであろう。

 牛一頭は羊七頭から十頭分である。並の馬よりも高い。エールンドレでの牛の飼育頭数は、馬を遥かに上回っている。牛が高価な原因は、郷村で耕牛、乳牛、駄牛、肉牛としての需要が高いからである。

 驢馬とか騾馬は飼育数は多くない。牛よりも扱いやすい駄獣として、並の馬並みの価格で取引される。異界から驢馬や騾馬を連れて行って売れば、好い小遣い稼ぎに成るであろう。駱駝は坂道に弱く、エールンドレに砂漠も無いので、ただ単に珍しい家畜として扱われる。あまり重宝されない。

 上の交換率は内陸アジア圏を参考にしている。もし中世ヨーロッパもどきの世界と隣接してるとしたら、馬の価格はかなり安くなる。外からの馬の需要が高まれば、エールンドレの馬の価格も一気に跳ね上がるであろう。エールンドレの馬はアラブやアハルテケの様に優美である。王侯たちの垂涎の的になるであろう。



 以上、まだまだ下記足りない事は有るでしょうが、此処で一旦筆をおくことにします。

 

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