第10話【社会・文化】四 エールンドレの気候・風土――ロードバール平原
【ロードバール平原――概説】
真夏アムルダード月の平均気温は26.7℃、真冬ダイ月では5.9℃である。夏の暑さは厳しいが、冬の寒さは穏やかである。日本に比べれば、雨量は少なく乾燥しているが、年間降水量は500mmほど有る。天水農業も可能である。天水農業では播種量一粒に対して収穫量五粒ほどである。適切な灌漑を行えば、播種量一粒に対して収穫量十粒が見込める。前近代農業の中では、比較的肥沃な部類に入る。
ロードバール平原は真っ平らの様であるが、実際には中央部に向けて3%の勾配で窪んでいる。中央にはズレーフ湖が位置する。ハルボルズ山脈の雪解け水はラーグ高原の地下を伏流する。その伏流水はウェーシャゲスターンの森から二十四の流れとなって地表に出でる。その二十四の流れは、ロードバール平原で十二の流れに合わさる。その十二の流れは六つの流れに纏まり、ズレーフ湖に流れ込む。
ズレーフ湖の大きさは直径4㎞ほどの円形である。最深部の深さは60mほどで、その面積は約12㎢である。水量は二億五千万立方米である。ズレーフ湖から流れる河川は無く、河水に含まれる塩分が太古より畜先されている。その為、ズレーフ湖は塩湖となっている。塩分濃度は海水よりも若干高い。ズレーフ湖の塩水を塩田にて天日に晒して製塩が行われる。ここで生成された塩は、エーレンドレの人々と家畜に塩分を供給する。
因みに、ハルボルズ山脈の岩肌には、若干乍ら岩塩が露出している。その様な岩石は、ラーグ草原やウェーシャゲスターン森林の中にも転がっている。天然岩塩は野生動物たちの塩分供給源となっている。
【ロードバール平原――水系】
ロードバール平原の水系は六つの流域から成る。これらの流域を全てまとめた水系がウェフロードである。六つの本流ロードはズレーフ湖に注いでいる。それぞれの流域の本流ロードは二つの支流アーブに分かれ、更に四つの支流アルバンドに分かれる。全て合わせて六つの本流と十二と二十四の支流がある。それぞれに川名が付けられている。その川名が村の地名になっているのである。
エーレンドレの民たちは、六つの河と六つの村を次の様に謡う。
ズレーフ湖の北西から注ぐ河はアースマンルードである。その畔の村は、ウィセェ・アースマニーガーン或いはアースマンウィスと呼ぶ。アースマン村はシャフルダーラーンの家に供御を捧げる。アースマン村の民はズレーフの水を干し、塩をシャーヒーガーンに捧げる。
ズレーフ湖の北東から注ぐ河はアバフタル(ル)ードである。その畔の村は、ウィセェ・アバフタリーガーン或いはアバフタルウィスと呼ぶ。アバフタル村はマウベドの家に供御を捧げる。ウズルグパラナーンの家のアースローンは祈り、北より来たる魔を退ける。
ズレーフ湖の東から注ぐ河はフワルルードである。その畔の村は、ウィセェ・フワリーガーン或いはフワルウィスと呼ぶ。フワル村はシャフルダーラーンの家に供御を捧げる。フワル村の民はズレーフの水を干し、塩を東の民に齎す。
ズレーフ湖の南西から注ぐ河はコーフルードである。その畔の村は、ウィセ・コーフィーガーン或いはコーフウィスと呼ぶ。コーフ村はシャフルダーラーンの家に供御を捧げる。コーフ村の民は巧みな匠アーハーンガラーンの家の者たちである。
ズレーフ湖の西から注ぐ河はマーフルードである。その畔の村は、ウィセ・マーフィーガーン或いはマーフウィスと呼ぶ。マーフ村はシャフルダーラーンの家に供御を捧げる。マーフ村の民はズレーフに舟を出し、魚を獲ってバンビシュンに捧げる。
ズレーフ湖の南東から注ぐ河はダルヤールードである。その畔の村は、ウィセェ・ダルヤーヤーン或いはダルヤーウィスと呼ぶ。ダルヤー村はシャフルダーラーンの家に供御を捧げる。ダルヤー村の民はズレーフの水を干し、塩を西の民に齎す。
上の歌は、ズレーフ湖の周囲、六つの本流沿いの六つの村は、王家の直轄領と譜代の近臣たちの所領であることを意味する。そして、アースマン村、フワル村、ダルヤー村では塩田で製塩を行っている。製塩業の御蔭で、エーレンドレの住民は異界に頼らず自給自足できるのである。
因みに王都ペイテフトは、ズレーフの北の湖畔、アースマンルード河とアバフタルード河の間に位置する。
エールンドレ人の地理概念では、ズレーフ湖から一フラサング離れた周囲に十二の川と十二の村が有ると考えられている。おおよそ実態を反映している。
アースマンルードに注ぐ流れはフローサーブとサガーブである。フローサーブから水を引く村はフロースウィス、サガーブから水を引く村はサグウィスである。
アバフタル(ル)ードに注ぐ流れはワラーザーブとムシュカーブである。ワラーザーブから水を引く村はワラーズウィス、ムシュカーブから水を引く村はムシュクウィスである。
フワル(ル)ードに注ぐ流れはガーワーブとバブラーブである。ガーワーブから水を引く村はガーウウィス、バブラーブから水を引く村はバブルウィスである。
コーフルードに注ぐ流れはハルゴーシャーブとアザーブである。ハルゴーシャーブから水を引く村はハルゴーシュウィス、アザーブから水を引く村はアズウィスである。
ダルヤールードに注ぐ流れはマーラーブとアスパーブである。マーラーブから水を引く村はマールウィス、アスパーブから水を引く村はアスプウィスである。
マーフルードに注ぐ流れはメーシャーブとカビーガーブである。メーシャーブから水を引く村はメーシュウィス、カビーガーブから水を引く村はカビーグウィスである。
以上は川と村の位置を示すとともに、其々の村の水利権を表している。
エールンドレ人は、ズレーフ湖から二フラサング離れた周囲に二十四の川と二十四の村が有ると考えられている。これらは実態とは必ずしも符合していない。中らずしも遠からずと言ったところである。
云われている通りに以下に列挙する。
アースマンルード水系:
フローサーブに注ぐせせらぎはカボーダーブとカラカーブである。カボーダーブから水を引く村はカボードウィス、カラカーブから水を引く村はカラクウィスである。
サガーブに注ぐせせらぎはグルガーブとルーバーハーブである。グルガーブから水を引く村はルグウィス、ルーバーハーブから水を引く村はルーバーフウィスである。
アバフタルード水系:
ワラーザーブに注ぐせせらぎはフーガーブとシフターラーブである。フーガーブから水を引く村はフーグウィス、シフターラーブから水を引く村はシフタールー(グ)ウィスである。
ムシュカーブに注ぐせせらぎはバブラガーブとガンドゥマーブである。バブラガーブから水を引く村はバブラグウィス、ガンドゥマーブから水を引く村はガンドゥムウィスである。
フワルルード水系:
ガーワーブに注ぐせせらぎはストーラーブとワフマナーブである。ストーラーブから水を引く村はスロールウィス、ワフマナーブから水を引く村はワフマンウィスである。
バブラーブに注ぐせせらぎはパランガーブとグルバガーブである。パランガーブから水を引く村はパラングウィス、グルバガーブから水を引く村はグルバグウィスである。
コーフルード水系:
ハルゴーシャーブに注ぐせせらぎはハルブザーブとガウズナーブである。ハルブザーブから水を引く村はハルブズウィス、ガウズナーブから水を引く村はガウズンウィスである。
アザーブに注ぐせせらぎはダハーガーブとマーヒーガーブである。ダハーガーブから水を引く村はダハーグウィス、マーヒーガーブから水を引く村はマーヒーグウィスである。
ダルヤールード水系:
マーラーブに注ぐせせらぎはカルバーシャーブとカルブナガーブである。カルバシャーブから水を引く村はカルバーシュウィス、カルブナガーブから水を引く村はカルブナグウィスである。
アスパーブに注ぐせせらぎはハラーブとゴーラーブである。ハラーブから水を引く村はハルウィス、ゴーラーブから水を引く村はゴールウィスである。
マーフルード水系:
メーシャーブに注ぐせせらぎはブザーブとアスパスターブである。ブザーブから水を引く村はブズウィス、アスパスターブから水を引く村はアスパストウィスである。
カビーガーブに注ぐせせらぎはヒルサーブとサルワーブである。ヒルサーブから水を引く村はヒルスウィス、サルワーブから水を引く村はサルウウィスである。
以上の村々の存在と名称は確実である。しかし、それらの支流から水を引いてるとは限らない。また謡われた川の名称が現地に存在しないことも有る。これらの村々は川ばかりではなく、森から湧き出てくる泉を水源としていることも有るのである。それが川の水利権と村名が一致しない理由である。
【ロードバール平原――郷村】
ロードバール平原は直径24㎞ほどの円形盆地である。その面積は452.16㎢である。ズレーフ湖の面積12㎢を差し引くと、約440㎢の面積である。その全てが可耕地という訳ではないが、未開墾の土地が大部分を占めている。農家は全部で約二一〇〇世帯と推定される。田畑や休耕地、果樹園を一世帯当たり5ha所有するとして、全農地は10,500haである。440㎢は44,000haなので、農地の占める割合は約24%である。44,000haの中、その75%が可耕地と仮定すると、現人口の二、三培を養う余力を持っていることになる。推定人口が一万以上二万未満なので、三万から六万程の人口増を見込めるのである。
ロードバール平原の真夏の平均気温は26.7℃、真冬は5.9℃である。また年間降水量は500mmほどである。休耕地を遊ばす余力も有るので、毎年二期作や二毛作が可能である。また村々には灌漑も行き届いているので、播種量一粒に対して収穫量十粒の収穫が見込める。
エールンドレの村落ウィスは円形集落である。直径150mほどで、平均して五〇世帯から成る。その周囲1㎞ほどに亘って田園が広がっている。つまり田園の面積は約300ha程である。一集落五〇世帯として、一世帯当たりの土地は6ha程あることになる。
平均的な世帯は牛二頭を持つ。夫婦や子供、下男下女から成る大家族である。牛一頭しか持たない世帯は、同じように牛一頭しか持たない世帯と合同でして耕作を行う。その様な世帯も、二世帯合同で平均的な一世帯と看做される。エールンドレの慣行では、その様に計算して租税を徴収するのである。
牛二頭を持つ世帯が耕作できる面積は2haである。1haの耕地に100kgの小麦を播くと、1,000kgの収穫が見込める。一世帯で2,000kgであり、二一〇〇世帯で4,200tである。二期作を行えば、小麦の年間生産量は8,200tに及ぶのである。小麦は主要な作物ではあるが、小麦ばかりを生産している訳ではない。一人当たりの小麦消費量が200kgと仮定すると、人口二万人を養うには小麦4,000tで十分である。耕地の余力を生かし、小麦の他に大麦や稗粟などの穀物、豆類、苜蓿の様な飼料も生産している。
穀物や豆類、飼料の耕地の他に、果樹園では梨や葡萄、杏やアーモンド、桃、石榴やハシバミなどが栽培されている。特に重視されているのは葡萄である。エールンドレで酒と言えば葡萄酒である。蜂蜜酒や大麦酒もあるが、葡萄酒に比べるべきもない。
食用の作物の他に重要なのは麻と綿花栽培である。エールンドレ人の衣服の原料である。日用品としての布は完全自給できている。
エールンドレで家畜を飼っているのは、エールザンドである士族アーザーダーンばかりではない。郷村に住むアーネルザンドの民も牧畜を行っている。一世帯当たりの飼育頭数は、アーザーダーンよりは遥かに小さい。しかし全体数としては、アーザーダーンよりも大規模になるのである。
アーザーダーンが飼育する家畜は、馬、牛、山羊、羊である。郷村の民は馬を飼育しない。飼育するのはウズルガーンと呼ばれるディフベド、ウィスベドのみであり。それは繁殖目的ではなく、自分たちの乗馬や馬車の牽引用に飼うだけである。全く繁殖させない訳ではないが、殆どはアーザーダーンから供給された馬を飼育しているだけである。
アーネルザンドの民は、馬を飼わないし馬に乗らない。馬丁をしてる者は馬に乗れるが、表立って馬に乗って外に出たりはしない。庶民が馬に乗ることは禁止されている訳ではない。その様な法慣習は、明確に存在しないのである。恐らく、庶民たちが無意識に乗馬を忌避しているだけの様である。
郷村で飼われている家畜は、牛、山羊、羊、その他に豚と鶏である。豚と鶏の飼育は郷村の特徴である。
ロードバールの郷村には農戸二一〇〇世帯があると云われる。各世帯が耕牛二頭を飼育する計算だと、計四二〇〇頭はいることになる。アーザーダーンの総頭数千数百程度であるから、ロードバールでの飼育数は数倍に昇る。しかし、各世帯やウィスベド層の飼育規模は大きくない。搾乳や繁殖は細々と為されているだけである。耕牛の補充や乳製品の提供は、アーザーダーンの牧畜業に頼る所が大きい。
山羊や羊の状況も牛と同じである。アーザーダーンと比べて飼育規模は小さい。各村落に数十から百匹ほどの群れが居るとすれば、ロードバール全体で二千から四千匹程度の規模である。
山羊の飼育目的は牧童犬と同じ羊群の管理にある。搾乳や食肉は副次的な産物である。郷村での牧羊は、各村落の牧童が村民の所有する羊を集め、数十頭の群れを管理してることが多い。貸してる羊が繁殖して増えれば、その取り分は牧童と所有者の物になる。牧羊の第一の目的は羊毛である。これは衣類や敷物の原料となる。その次は搾乳である。食肉は去勢牡から適宜選ばれる。食用にアーザーダーンから去勢牡を買い取ることも屡々である。
豚の飼育は郷村のみで行われ、郷村で地産地消される。恐らく、エールザンドがエーレンドレに来る前から、アーネルザンドたちが現地種の豚を飼育していたと推察される。エールザンドは豚を忌避する訳ではないが、積極的に食べようとはしない。豚を飼うのは裕福な世帯であり。数頭単位で飼って食肉にする。ウィスベドの中には専任の豚飼いを雇い群れ単位で飼育している。ロードバール全体での飼育数は数千匹と推察される。
鶏の飼育も郷村のみである。しかし、豚とは違って鶏卵や鶏肉は王都にも供給されている。各世帯ごとに数羽飼い、裕福なカダーグフワダーイの中には数十羽から百数十羽規模で養鶏業を行う者もいる。鶏卵は贅沢品であるが、庶民の生活にも欠かすことは出来ない。ノウルーズやメフラガーン及び其の他晴れの日には、鶏卵や鶏肉を使った御馳走に化けるのである。
尚、犬は家畜と看做されない。アーザーダーンの犬と同じく、何処からともなく人の傍に住み着いた四つ脚の仲間である。要するに地域犬である。これはエールザンドの風習が浸透した結果だと思われる。
神官たちの語る所に拠れば、犬は人と共に最初に現れた生き物である。犬が死ねば、人と同じ様に埋葬される。犬が人に危害を加えれば、人と同じ様に裁かれる。時には、犬にかまれる様な者が悪と看做されて刑罰を受けるのである。昔話では、犬を虐めて天罰を受ける人間が屡々登場する。恐らく、その様な輩が大昔には存在したのであろう。
【ロードバール平原――貴族と庶民】
郷村社会は次の四階層から成る。第一はディフベドやウィスベドなどの貴族ウズルガーンである。第二は裕福で有力な農民であるカダーグフワダーイである。第三は独立した生計を持つ農民ワーストリョーシュである。第四は、それらの階層に仕える下男下女バンダグである。それらに対して第三者的立場にあるのが神官アースローである。第三者乍ら、地位はウズルガーンやカダーグフワダーイに近い。そもそも、それらの階層の家か出ている者が圧倒的に多い。
ウズルガーンやカダーグフワダーイたちは、一般のワーストリョーシュに比べ、血縁者やバンダグを数多く抱えている。それ故に多くの耕地、果樹園、家畜を管理することが出来る。そのことによって富を得て、ますます一門を増やすのである。一般のワーストリョーシュに比べて経済力や権力が圧倒的に強い。ややもすれば、ワーストリョーシュは彼らに圧迫されて没落しかねないのである。
それらの緊張関係を緩和するのが、王権と神権なのである。要するに国王と神官である。神官たちは、祭祀と教育によって有力者たちを教え諭し、彼らが善き領主であるように導く。また司法権を握り、公正な裁きを下して、弱者を保護する。そして、その強制力を担保するのが王権なのである。
王権は、ウズルガーンやカダーグフワダーイに権力を握らせ取り込みつつ、且つ彼らを統御している。彼らに実務の裁量を任せているが、肝心な最終決定権はシャフルダーラーンとワースプラガーンで独占しているのである。権力バランスに腐心することにより、ワーストリョーシャーンを保護してウズルガーンを牽制するのである。或いは、郷村の貴族と庶民の間の分断を利用して、エールザンドへの叛旗を掲げさせないよう仕向けているのである。
下男下女バンダグは、ウズルガーンやカダーグフワダーイ、ワーストリョーシュの隷属民である。隷属していることは、保護されていることを意味する。自由民か奴隷なのか判別しがたい境遇である。人間として扱われるかどうかは主人の人格次第である。おおよそ代々その家に仕えているが、必ずそうとは限らない。彼らに独立して生業を営む才が有れば、主人の許可を得て独り立ちする。また主人同士の同意を得て鞍替えすることも可能である。主人が没落すれば、自然と独立するか、他の主人に仕えるのである。
【ロードバール平原――エールザンドの大移動】
春の始まりと秋の終わりは、家畜を連れたアーザーダーンたちがロードバール平原を闊歩する。この時期は、遊牧の民エールザンドと定住の民アーネルザンドとの間に緊張感が生まれる。大抵は恙無く済むが、この緊張感が解ける時、エールザンドに平穏な日々が戻るのである。
冬が終って春が近づくと、一年の始まりノウルーズが祝われる。それが終わると、王都ペイテフトで冬籠りしていたアーザーダーンたちはラーグ高原に向けて出発を始める。ペイテフトからラーグまで、独り身なら半日で辿り着く距離である。しかし、羊や牛に草を食ませ、水を飲ませながら進むので、ラーグに着くまで数日かかるのである。春の雪解け水は屡々洪水を起こす。その為、川沿いを避けながら進むと郷村を通らざるを得ない。裏作の収穫、或いは表作の播種を妨げない様に万全の注意を払いながら大移動が行われる。
その移動の職責を追うのが廿騎頭ウィスベド、伍騎頭グローフベドである。万一、ワーストリョーシュに損害を与えた場合、適切に賠償が為される。一方、手癖の悪い下民がアーザーダーンの家畜を盗むことが有る。その時は、ディフベドやウィスベドが責任を以て犯人を捕縛して厳正な裁きを下す。家畜を返すことが出来なければ、ディフベドやウィスベドたちが賠償する。
メフラガーンの大祭と共に、夏が終わり、秋がやって来る。そして冬が始まるまでに、王都ペイテフトまで戻るのである。この時期の川の氾濫は滅多に起こらない。アーザーダーンたちは川筋を通ってペイテフトに帰還する。
ズレーフ湖畔は冬の牧草地である。アーザーダーンは王都内の屋敷、或いはズレーフ湖畔の村々で冬を過ごす。湖畔の六箇村の住民も、ウィスベドも、王のバンダグみたいな者たちである。一般の郷村ほど気を遣わずに済むのである。
大移動の緊張を嫌ってラーグ草原に留まるアーザーダーンも居る。彼らはラーグ草原とウェーシャゲスターン森林の狭間にて冬営する。帳屋で冬を過ごす者も居るが、冬籠りの屋敷を建てる者も居る。彼らは単なる残留者ではなく、草原の留守番と森林の見張という役割も果たしているのである。
王も春と秋の大移動をするが、家畜の世話は家来たちに任せる。王は近親たちと共に一箇月くらい掛けて郷村を巡幸する。王は郷村に負担を書けない様、村の外に帳屋を張り、食料などの物資も自弁する。しかし、近隣のウィスベドやカダーグフワダーイたちが土産を持参して挨拶に来る。王は土産に見合った品を下賜する。この様にして君臣の関係を確認するのである。
巡幸では、王も気軽に庶民と顔を合わせることになる。王は寛容と慈愛を態度に示すことにより、庶民とも絆を深めるのである。この時期は、庶民が王に直訴する好機でもある。深刻な訴えには真摯に取り組み、些細な訴えも適切に受け流す。ウズルガーンやカダーグフワダーイたちにとっても、春と秋の大移動は非常に緊張する時期なのである。
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