第11話【社会・文化】五 エールンドレの気候・風土――王都ペイテフト

【王都ペイテフト――概況】


 ズレーフ湖畔の北側に直径1㎞ほどの円形の丘が座してる。緩やかな坂を150mほど登ると、丘の上は直径700mほどの平坦な土地である。川が氾濫してズレーフ湖の水位が上昇しても、水に浸かることは無い。その上に王都ペイテフトが建っている。

 その丘が自然に形成されたのか、人工的に造成したのかは定かではない。エールザンドがエールンドレに来る前から有ったようである。恐らく、先住民アーネルザンドたちの集落か、聖地であったのだろう。


 王都ペイテフトは石積みの城壁に囲まれた円形都市である。エールンドレでは都市や村落は円形に造られる。エールンドレ人の言い方を借りると、「ペイテフトの城壁の長さは三分の一パラサング」である。ペイテフト城壁の直径は350mなので、円周率を掛けると1,099mになる。三分の一パラサングは約2㎞なので、かなり大袈裟な表現である。

 城壁の高さは「大人の背丈二人分」約3m強で、厚さは「大人の背丈十三人分」で約20m弱である。高さに比べると、かなり分厚い。恐らく、王都ペイテフトの丘そのものが、もともと巨大な土塁であったのだろう。町を囲う凸状の部分の表面に石を積み上げたと推察される。

 ペイテフトの城壁は、デルベンドディズを越えてくるような外敵には無力であるが、賊徒や猛獣の侵入を防いだり、一揆や叛乱に対処するには十分である。


 石積みの円形城壁には四つの楼門が有る。ペイテフトの出入り口である。エールンドレには、戦乱の危機が無く、長らく平和が続いてきた。城壁も厳密に修繕されているとは限らない。楼門以外にも、王都内に出入りできる裂け目が有るかもしれない。

 楼門もまた石造りである。城壁よりも若干高く造られている。その高さは「大人の背丈二人半」約4m弱である。四つの楼門は、南東をフラダダフシュ門、南西をウィーダダフシュ門、北西をバルシュト門、北東をジャルシュト門と呼ぶ。楼門は門番たちの詰め所や武器庫にもなっている。


 円形城壁に囲まれた内側のこともエンデルーンと呼ぶ。一般的には「囲まれた所」ワルダーナという呼称の方が親しまれている。

 四つの楼門デルベンドから、町の中に向かって大通りが伸びている。通りの名前は楼門と同じである。それぞれ、南東のデルベンデェ・フラダダフシュ門からはスラテェ・フラダダフシュ通り、南西のデルベンデェ・ウィーダダフシュ門からはスラテェ・ウィーダダフシュ通り、北西のデルベンデェ・バルシュト門からはスラテェ・バルシュト通り、北東のデルベンデェ・ジャルシュト門からはスラテェ・ジャルシュト通りである。四つの通りは、町の中心の大広場メイダーンで交差する。其々の通りの幅は10mである。

 メイダーン広場の中心点から半径120mの所に、環状大通スラテェ・チャンバルが走っている。この通りは北で王宮に寸断されている。チャンバル通りを境に、町は内郭エンデルーンと外郭ビールーンに分かれる。


 メイダーン広場の大きさは、直径100mであり、面積は7,850㎡、約二三七〇坪である。丁度、野球場のグランドぐらいの広さである。その北には王宮の楼門アパダーナが臨んでいる。メイダーンは、公共の広場であり、王宮の外庭の様な機能も果たしている。また新年の時、王と貴族と庶民たちがメイダーン広場に集まり、ノウルーズを祝うのである。


 ペイテフト市街は、大通りを境にして四つに区分けされている。

 メイダーン広場を起点に、バルシュト通りとジャルシュト通りの間はシャフレスターンと呼ばれている。シャフレスターンは、王宮と近臣の住居、庭園や厩舎、穀蔵から成っている。

 ジャルシュト通りとフラダダフシュ通りの間はフワルサーンと呼ばれる。意訳すると東街である。チャンバル通りを挟んで、内郭はワースプラガーンなど高位の貴族の屋敷街である。外郭はアーザーダーンたちの屋敷と言うか長屋街である。

 フラダダフシュ通りとウィーダダフシュ通りの間はネームローズと呼ばれる。意訳すると南街である。チャンバル通りを挟んだ外郭は、フワルサーンと同じく、アーザーダーンたちの長屋街である。しかし、内郭は職人街である。他の地区に比べて、ウナギの寝床の様に狭い家々が犇めいている。職人たちの工房であり、常設の店舗である。

 ウィーダダフシュ通りとバルシュト通りの間はフワルバラーンと呼ばれる。意訳すると西街である。構成はフワルサーン街と同じである。


 尚、下記地図では均等に建物で埋まっているが、これは実態を表しているとは言い難い。実態は所々空き地に成っている。空き地は畑や放牧地に利用されている。また屋敷の区画も、数区画併せた大豪邸も存在する。シャフレスターン以外の実態は時代ごとに異なる様相を見せている。


  ※下記URLをご参照ください。

  https://novelup.plus/uploads/342582132/1623419025.jpg


【王都ペイテフト――楼門デルベンド】


 国境の関門のことをデルベンドと呼ぶが、王都の城門もデルベンドである。関門の方はデルベンドディズと呼び分けられている。


 王都の城門は、日が明けると開けられ、日が暮れると閉められる。夏の開門時間は長くなり、冬の開門時間は短くなるのである。開門中は門番二名が常時歩哨に立っている。

 エーレンドレの住民ならば、顔パスで城門を通行できる。名前は知らなくても、何となく見知った顔ばかりなのである。記憶力の好い門番ならば、一人一人の名前や素性まで知っている。無文字社会のエールンドレには、物凄く記憶力の好い人間が少なくないのである。

 城門の通交に関し、例外は素行の悪い前科者である。評判が悪ければ悪いほど多くの人から覚えられる。そういう者が城門を通行しようとすると、根掘り葉掘り尋問を受ける。しぶしぶ通行許可されることもあれば、問答無用で門前払いされることも有る。エールンドレの様な狭い社会は、悪人にとって肩身が狭いのである。


 異界人の場合、国境の関門デルベンドディズの通交を許可された時点で、滞在許可を得たようなものである。無文字社会なので、許可証の様な文書など有り得る訳は無い。しかし、重要な異界人の場合、割符の様なものを渡されるかもしれない。

 異界人が王都の城門を潜ると、門番から注目されるのは当然である。王都に入ることは、郷村を徘徊するよりも自然なことである。人好きがする異界人なら、好奇の目で見られ、色々と話し掛けられるかもしれない。

 万が一、関所を通らず、ハルボルスの万年雪を越えて入国する者がいたとしたら、その反応は想像を超えるであろう。それが発覚した時点で、王に報告され、御前会議で討議されることであろう。関所破りなどは、前代未聞の珍事なのである。

 その様な人間は、王都の城門に達する以前に、草原の騎士や郷村の住民たちに見つけられて通報されるであろう。その場で拘束されることも、自然な対応である。



【王都ペイテフト――シャフレスターン】


 王都ペイテフトの中で最も目立つ建築物は、メイダーン広場の北に聳え立つ円形宮殿である。直径60mの円形で、その面積は2,826㎡、つまり約850坪である。基壇から屋根の頂上までの高さは7mである。ペイテフトばかりでなく、エールンドレの中でも最も大きく、最も高い建物である。

基壇の部分は高さ2mであり、切り込まれた石で積まれている。基壇の上は高さ4mに亘って白壁が輝いている。そして銅葺きの屋根は青く変色してる。

 エーレンドレの中では最も豪華絢爛な建築である。しかし、異界の王宮に比べたら、質素過ぎて見劣りするであろう。


 メイダーン広場、チャンバル通り、バルシュト通り、ジャルシュト通りに囲まれた扇型の空間の中心に円形宮殿が建つ。扇形の部分は高さ2m強の石壁に囲まれている。円形宮殿の両翼には、従士団ジャウェーダナガーンの宿舎や下僕や婢女の住居などが林立している。

 円形宮殿の背後、つまり北側には、600坪ほどの広さの庭園が有る。様々な樹木が植えられた果樹園でもある。王と妃、王族たちの憩いの場である。この庭園も高さ2m強の石垣で囲まれている。そして、その石壁はチャンバル通りを寸断している。


 庭園の西側には10m四方程の大きな土蔵が六棟並んでいる。土蔵には、王に納められた穀物や綿布、麻布、毛織物などが保管されている。そして、其の西端には民部卿ワーストリョーシャーン・サーラールの屋敷と其の属僚や下働きたちの宿舎が立っている。この区画はエーレンドレの官庁街である。


 庭園の東側には長さ40-50m程の細長い扇形の長屋がある。ここは王の厩舎である。主馬頭アーフワッル・サーラールの管轄下にある。厩舎と小路を挟んだ四軒の屋敷は、王族や近臣に宛がわれる。通例として、軍務卿アルテーシュターラーン・サーラール、執事ダル・ハンダルスベド、主馬頭アーフワッル・サーラール、鷹匠頭バーズベダーン・サーラールの役宅となることが多い。



【王都ペイテフト――円形宮殿アパダーナ】


 円形宮殿の正門はアパダーナと呼ばれる。円形宮殿そのものもアパダーナと呼ばれることも屡々である。王都ペイテフトの中で、最も重要な儀礼的空間である。

 アパダーナの下には、幅15m、奥行き10m、高さ2mの階段が広がり、メイダーン広場に接している。その階段は二十段で、歩幅の小さい者でも、楽に上がれるようになっている。

 その階段を上の15m奥に宮殿の正門が有る。階段から正門までの空間は高さ3mの玄関口になっている。天井は鍾乳洞の様な凝った造りになっている。この空間こそが王権の象徴アパダーナなのである。

 メイダーン広場で儀式が行われる際、アパダーナに玉座が運ばれ、国王は貴族や民衆に向かって臨席するのである。新年を祝うノウルーズ、騎士たちの馬揃え、外交使節との顔合わせ、王自ら民衆に布告する場合などの行事に使われる。アパダーナは、俗なる空間である広場と聖なる空間である宮廷を繋ぐ役割を持っているのである。


 アパダーナの奥の正門を潜ると、円形の中庭に出る。直径22mで、面積380㎡、115坪の広さである。ここは露天の大広間の様な役割を果たす。

その周囲に、謁見室、王の居室、妃の居室などが並んでいる。宮殿内の各部屋は広く、異様に天井が高い。冬の寒い日には隙間風が入り、実用性には欠ける様である。

 もし、異界人が王の知遇を得られた場合、円形の中庭と謁見室まで通されることであろう。それ以外の場所は、王と妃の私的な空間である。


 円形宮殿の基壇部分は半地下の階層になっている筈である。しかし、詳細は不明である。宮廷に仕える下僕や婢女たちの仕事の場であろう。従士や侍女たちは把握していても、王や妃などは立ち入ったことの無い空間である。



【王都ペイテフト――フワルサーン街とフワルバラーン街】


 フワルサーン街とフワルバラーン街は似たような所である。東か西かの違いしかない。チャンバル通りを挟んで、内側にはワースプラガーンの屋敷、外側にはアーザーダーンの長屋が軒を連ねている。

 これらの屋敷は、主人一家と使用人が生活するだけなら、広さは十分である。しかし、遊牧民と言うか牧畜民であるエールザンドにとって、家畜を収める広さは全く足りていない。せいぜい馬と番犬と当座の乳牛や羊などに限られる。

 ペイテフト城内の屋敷は、王の急用に応える為の控えの間の様な性格を持っている。無役のアーザーダーンの中には、狭苦しい城内を嫌い、ペイテフト郊外の牧草地やラーグ高原に留まる者も少なくない。特に、昔気質の者ほど其の様である。

 城内生活を嫌う者は、屋敷の管理用に下男下女を置くだけか、或いは完全に空き家や更地のまま放置する者も居る。もし、異界から商人や旅人が大勢来訪する様な事態が有れば、自分の屋敷を賃貸に出す者まで出るであろう。ただ、王から下賜された屋敷の貸し出しは、御前会議の議題として紛糾するであろう。



【王都ペイテフト――ネームローズ街】


 王都ペイテフトの中では、シャフレスターンと並んで特徴的な区域である。チャンバル通りの外側は、アーザーダーンの屋敷街である。状況は、フワルサーン街とフワルバラーン街は似ており、改めて特筆すべき点は無い。チャンバル通りとメイダーン広場に挟まれた扇形の一角は、職人街である。


 フラダダフシュ通りとチャンバル通りの交差点の一角に、アーハーンガラーン家の屋敷が有る。職人たちの頭カーリーグベドの役宅でもある。エールンドレの社会にギルドなど無いが、敢えて言うなら、職人ギルドの長の様な役職である。

 この職人街には、鍛冶屋、金銀細工師、石工、大工、家具職人、食器職人、土師、皮革職人、馬具職人などが属している。それらの職人の第一の職務は、宮廷に様々な調度や器具を提供したり、宮殿や楼門、城壁などの営繕を行うことにある。王への奉仕を済ませた余暇で、貴族や騎士、庶民たちの注文に応じて様々な製品を制作・販売する。


 地図の上では小さ目な区画が十八個並んでいるが、実際は、もっと細分化されている。殆どが店舗兼工房である。中には、職人街に店舗兼事務所を置くだけで、城外のコーフウィス村に工房を置く者も居る。

 職人街全体の推定人口は、女性や子供も含めて三百人ほどである。ここには、パン焼き職人や居酒屋を兼ねた飯屋も数軒存在する。それらの店は、職人たちの需要に応じた者である。屋敷の使用人や郊外から遊びに来た農民たちも、屡々利用する。ここは細やかな歓楽街とも言える。

 穀物や果物、野菜、肉や魚などを扱う常設店舗は存在しない。職人たちは、小麦や大麦、麻布や綿布、毛織物などは、俸給代わりに王から配給される。しかし、近在の村から農民が果物や野菜、肉や魚などの食料品を売りに来る。また注文すれば、穀物や酒も生地の手に入るのである。



【王都ペイテフト――補足:歓楽街】


 上記ネームローズ街の説明は、異界から孤立した状態での基本設定である。人口一万か二万程度の孤立した社会に、華やかな歓楽街が存在するのは不自然である。

 エーレンドレは国全体はド田舎である。王都ペイテフトは郷村よりも開けているとはいえ、郷村と隔絶したほど華やかな場所ではない。農村に毛の生えたような町なのである。


 エールンドレの社会に、姦婦間男その他私通は有っても、娼婦も男娼も存在しない。しかし、身寄りのない未亡人が娼婦まがいのことはするかもしれない。有っても其の程度であろう。

 もし、エールンドレに遊郭などが存在するならば、異界との通交が盛んな場合である。その場合、関門要塞デルベンドディズ近辺の異界人居留地に存在するであろう。娼婦はエールンドレの女かもしれないし、異界からの出稼ぎや奴隷かもしれない。



【王都ペイテフト――ギルド】


 自立した商工業が未発達なエールンドレにギルドなど有る筈がない。王都ペイテフトは、民衆の為の町ではなく、貴族や騎士たちの為の城なのである。まして冒険者ギルドなど有る訳が無い。 

 もし、冒険者ギルドが存在するとしたら、その様な風習を持つ異界人が居留している場合であろう。冒険者専用のギルドと言うよりは、居留民団の様な組織であろう。有力な異界商人が、エーレンドレの官憲に頼れない様なことを依頼するであろう。エーレンドレの住民からすれば、冒険者と言うのは、他所から来たならず者にしか見えないに違いない。



【王都ペイテフト――娯楽・文化】


 王や貴族の巻き狩りも娯楽に違いないが、本項では扱わない。貴賤貧富を問わない娯楽文化について紹介する。

 エールンドレのマツリゴトはマツリゴトの為に行われる。要するに政治は祭事を実行するために行われている。王朝の財政でも、庶民の家計でも、祭事が占める割合は極めて高い。ノウルーズやメフラガーンの祭りを、君臣ともに祝うことが最重要課題なのである。この時ばかりは、貧しい者たちも、たらふく飲み食いして鼓腹撃壌する。そうして現世での憂いを忘れるのである。


 エールンドレでは視覚芸術は未発達である。せいぜい、刺繍や絨毯の柄くらいである。それも極めて素朴なものである。偶像崇拝が無いので、絵画や彫刻などの技術も無い。絵を描いたとしても、子供が描いた記号の様なものである。丁度、刺繍や絨毯の柄である。ただ、目に見える美を軽視してる訳ではない。エールンドレの人間が最も愛する美しいものとは、少女や少年の美しい顔、緑豊かな景色である。どれも人の手に拠るものではなく、神の御技である。

 もしも、異世界から絵心のあるオタクが転位・転生して来たら、神、或いは悪魔の様な扱いを受けるであろう。似顔絵を見たら、現代人が写真を見る様な感覚である。しかし、無文字社会なので、羊の鞣し皮は有っても羊皮紙など無い。植物繊維の紙など有り得ようもない。当然、筆記用具すらないだろう。


 エールンドレで唯一発達している娯楽・文化は歌舞音曲である。しかし、専任の芸能者が存在する訳ではない。専任の芸能者に近い者は神官である。神官の唱える祝詞は神に捧げる歌なのである。神官の中には、楽器を得意とする者もいる。ダストワールと呼ばれる高位の神官は、趣味や教養として楽器に秀でている者が多い。一方、下級の神官の中にも、歌唱と楽器を得意とする者がいる。

 エールンドレでは、身体に欠損のある者、つまり障碍者は神官に成れない。それは、神官は完璧な宇宙を体現する者だからである。しかし、例外はある。盲目の子供は神官に引き取られ、歌や楽器を仕込まれ、伝承を覚えさせられるのである。彼らは正規の神官ではないが、神官に準じる存在と看做される。琵琶の様な楽器バルバットを奏で乍ら、弾き語りをするのである。家々を回り、お布施を出した者には祝福の歌を送るのである。小さな宴の余興として呼ばれ、叙事詩を歌ったりする。彼らにお布施をすることは、善い功徳だと考えられている。この様な制度を定めたのは、ウズルグパランと伝えられている。

 エーレンドレでは、指で引く弦楽器は全てバルバットと呼ばれる。弦の数が違うことが有っても、どれも琵琶の様な形状をしている。また大きな竪琴はチャングと呼ばれる。弓で弾く弦楽器はカマンチェである。笛はナーイ、太鼓はトゥムバグである。

 王族や貴族は楽器に秀でていることが多い。その近習たちも、楽器の腕前で選ばれているきらいがある。また、楽器を入手できるほど裕福であれば、庶民でも嗜む者は少なくない。弾き語りの神官は師匠にうってつけである。



【王都ペイテフト――夏の風景】


 新春ノウルーズが盛大に祝われた後、ペイテフト城内の人口は徐々に減っていく。王や貴族、騎士たちが夏営地ラーグ高原に向かうからである。王都ペイテフトの中に残るのは、留守居役を命じられた貴族や騎士、職人街の住民たちだけである。冬に比べ人口は半分以下になる。


 真夏になると、暑いことは暑いが、暑さには我慢できる。マラリアの様な疫病こそ媒介しないが、城内にも蚊や蠅が入ってくることが有る。それでも郷村よりはマシである。エールザンドが好んで夏営地に赴くのは、牧畜や避暑の為だけでなく、虫を避ける為でもある。そのような害虫は魔物フラフスタルとして忌み嫌われている。

 因みに、エールンドレにはオークやゴブリンは居なくても、魔物フラフスタルは存在するのである。昆虫や爬虫類は魔物として認識されているのである。



【王都ペイテフト――冬の風景】


 ラーグ高原で秋分メフラガーンが盛大に祝われた後、徐々にペイテフトの人口が増えて来る。冬には、王や貴族、騎士たちが城内に戻るのである。夏に比べると活気が有るが、所詮は田舎町なので、たかが知れている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る