第3話【言語・民族】エールンドレに住まう民たち

【言語】


 エーレンドレの住民たちの言語は、征服者エールザンドたちの言葉である。先住民たちは、元々異なる言語を話していた可能性もある。しかし、現在では殆ど同化して忘れ去られてしまった。

 エールザンドたちも、古い言葉を忘れてしまっている。今では、神官たちは意味の分からぬまま古い祝詞を唱えている。恐らく、先住民の言葉と融合して簡略化してしまったのであろう。

 取りあえず、エーレンドレの住民たちの言語をエーレンドレ語と呼ぶことにする。

 

 エーレンドレ語には、実は文字が無い。約束は言葉を以て交わす。言葉には魂が宿っていると考えらている。言霊によって交わされた誓いは重い。その誓いを破れば、魂が腐り、そのうち自らに災いが齎されると信じている。嘘を付かないこと、正直であることはエーレンドレ人にとって最も重い倫理なのである。それ故、エーレンドレで人々から尊敬される立場にある者は、交わした約束を一言一句まで覚えて、決して忘れることは無い。逆に、約束を忘れて破る者は軽蔑嫌悪されるのである。また契約と言えるような重要な約束は、覚えやすい様に韻文にされる。大勢の証人の前で、誓いの言霊を歌うのである。


 この世界に魔法が実在するかどうかは別として、エーレンドレ人たちは確実に魔法や呪術の存在を信じて疑わない。先ずは、言霊により誓いを立てること自体が、誰でも使える魔法なのである。また、神官の祝詞や一般人の祈りも言霊を用いた魔法なのである。言霊を用いず、道具や魔法陣に拠る魔法や呪術は無いことは無い。しかし、言葉を用いる呪文こそが典型的な魔法なのである。


 無文字社会と言いながら、文字的役割を果たすものが全く無い訳ではない。行政に於いて、アーマールガルという役人が、結縄や木に刻んで数を数えることにより、収穫の計算や倉庫の管理を行う。また家畜に烙印を押すことも、ある種の文字的なものである。


 エーレンドレの社会に文字は有り得るのだろうか?

 有るとすると、異界のリンガフランカである。異国の証人と交わす契約書、異国の王に奉る国書で使われる。もし、街中に文字で書かれた看板が有ったとしたら、異国人向けの掲示であろう。



【エールザンドとアネールザンド】


 始祖サルマルド一行は、ハルボルズに囲まれた地に住まいエールザンドと呼ばれるようになった。アネールザンドとはエールザンドに非ざる者という意味である。異界人のこともアネールザンドと呼べなくもないが、専らエールンドレの先住民を指す。

 元々は異民族同士だったと考えらるが、民族は融合し、民俗は習合して殆ど同化してしまった。もはや民族・種族の区別ではなく、身分の区分と化している。

 日本史で例えるなら、エールザンドは譜代の士分であり、アネールザンドは外様の士分と庶民の様なものである。他の例え方をすると、エールザンドは御目見えの家臣である。大身の家老級から、庶民と大差ない者までいる。アネールザンドの上層は、庄屋や名主を偉くしたようなものである。爵位を持つ者は、エールザンドと変わらぬ権威と権力を持っている。戦国時代の国人領主みたいな存在かも知れない。


 エールザンドの諸家は同族の中の身分の上下にしか過ぎない。その詳細については、王朝の制度・組織に言及する際に改めて詳述する。アネールザンドとの間には端的な違いがある。それは、エールザンドの悉くが騎士アスワーラーンであることである。エールザンドでは、女性ですらも騎乗や騎射を嗜む者が少なくない。アネールザンドの者は、身分の高い者しか馬に乗らない。エールザンド並みに手綱捌きに巧みな者は少ない。身分の低い者は先ず馬に乗ることが無い。アネールザンドで兵士になる者は、悉くが歩兵である。


 建国神話の中で、アネールザンドは、アーフーグ、ヒルシーグ、ゴルギーグの三部族に分かれている。アーフーグは羚羊人、ヒルシーグは熊人、ゴルギーグは狼人という意味である。

 アーフーグには、部族としての実態は殆どない。ロードバールに住む民を漠然と指す概念である。始祖シャー・サルマルドの妃になったアーバーンドフトのことを羚羊の様なつぶらな瞳を持った乙女と例えることが有る。それに因んでいるのであろう。

 それに比べ、ヒルシーグとゴルギーグは、アーフーグとは異なる面が有る。民間伝承の中には、人に化ける熊や狼に化ける人の話が伝わっている。森の中に其の様な獣人が存在すると信じる者も少なくない。また現代でも、樵をする者は熊の神に祈り、狩りする者は狼の神に祈る。

 しかし現代では、アーフーグ、ヒルシーグ、ゴルギーグの区別は、家柄を誇る者が祖先を示すくらいの意味しかない。素性のしれない庶民には全く意味が無い。



【異界人】


 アネールザンドという言葉には、本来異国人という意味が有るが、その様な意味でつかわれることはない。アネールザンド自身が堂々と自称する。ハルボルズの外から来た者は、ビールーンの人とかビールーニーグと呼ばれている。

 本設定集では異界人の設定は扱いません。その代わり、異界人が訪問した時の反応を想定してみます。


――異界人が似たような文化圏の者なら?

 山奥の山村に余所者がやってきたくらいにしか思わないでしょう。


――異界人が異なる文化圏の者なら?

 それは設定次第です。


――エルフとかドワーフやハーフリングなら?

 ペリーやガンダルヴァと看做されるでしょう。


――獣人なら?

 獣人信仰みたいなものがあるので、エルフなどと同様な扱いになります。


――ゴブリンやオークなら?

 悪魔デーウの手先の魔物フラフスタルと看做され、撃退や討伐の対象になるでしょう。


 取りあえず、そんなところでしょうか?

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