第7話 JKと初夜1

 かわりばんこで僕が風呂を入り終わると、美玲は今日買い揃えたばかりのパックを顔に貼り付けていた。

 まるで同棲二年目の彼女みたく思えて、クスッと笑いが漏れる。


「む、どうして笑うんですか」


「いや、能面みたいだなって」


「……包丁で刺しますよ?」


 美玲が口元だけ笑わせる。

 僕は急な寒心に苛まされ、口を閉ざした。

 彼女の対面の席に腰を下ろし、机の上のスマホに手を伸ばす。


「そういえば夜ご飯まだだったよね。何か食べたい物ある?」


「瑞季さんが何か作ってくれるんですか?」


「いや、ウーバーイーツだけど」


「……だと思いました。先ほど軽くキッチンを覗きましたけど、調理器具は揃ってるのに調味料が一切なかったので」


「僕は食が多い方じゃないし、自炊より外食や弁当の方が安上がりなんだよ。……料理ができないとか、そういうのじゃないから」


 小声で付け足すように言うと、美玲はジト目で僕を見据える。


 とは言え流石に二人分を毎日頼むとなれば、食費に掛かる額も決して安くは済まない。それこそ、宝くじに当せんしなければ僕と彼女が同棲することも難しかっただろう。

 誇張した表現かもしれないが、宝くじが僕と美玲の運命を引き合わせたのだ。


「……はぁ、別にいいですよ。瑞季さんにできないことは私がやるので。それで、ウーバーイーツは何を頼めるんですか?」


「ん、これ」


 美玲にスマホを差し出すと、彼女は神妙な顔で画面をスクロールしていく。


「私、初めてウーバーイーツ使いました……でも、思っていたよりお店の種類が少ないんですね」


「この時間だと閉店してる店も多いだろうしね」


 リビングの壁掛け時計が示す時刻は22時半。

 宅配を頼める店が少ないのは自明の理だ。


「……よし、これにします」


 そう言って、美玲はスマホを返却した。

 僕も自分が好きな物をカートに追加して、そのまま注文する。

 決済が完了する頃には、美玲はパックを外して残った美容液を顔になじませていた。綺麗な肌が照明の光を反射する。瑞々しいほっぺたに視線が吸い込まれた。


「そこの女子高生を視姦する瑞季さん」


「おい、誤解を招くような言い方はやめろ」


「明日、スーパーに行きませんか?」


「僕の発言はスルーですか……いや、まぁいいけど」


「あれですよ、犯人は必ず現場に戻ってくるってやつです」


「いや、どれだよ。少しも文脈が繋がってない上に、なんで僕が犯罪を犯した前提なのかな?」


 僕が呆れた口調で言い返す。


「まあまあ、気にしたら負けですよ」


 彼女はスキンケアが終わったのか、「よしっ!」と声を立てて、グンと背伸びした。

 ありありと胸が強調され、思わず目を背ける。

 薄いTシャツにブラの紐が浮かび上がっていた。


 にたり、と。

 美玲が小悪魔的な笑みを浮かべていたが、顔を背けた僕には知る由もなかった――。





_________


3話ぶりにあとがき失礼します。

ここまでお読み頂いた読者の皆さま、並びにフォローやレビュー、コメントなどで応援して頂いている皆さま、ありがとうございます(。_。*)

おかげさまで日間、週間ともに好調で、過去最高の新記録となっています……嬉しい……。1桁台も入り込めたらなぁ、なんて淡い期待を抱いています。


さて、今回は文字数が多くなってしまい、2話に分割して投稿することにしました。文字数が少なくなってしまい申し訳ありません。7話は2人の距離感を楽しんでもらえたら嬉しいです。

明日も投稿予定ですので、引き続き楽しんで頂けたらなと思います(。_。*)

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