ドラマ『沿線地図』の志郎は、なんで『うっせえわ』と言えなかったのか?

2021年は、Adoの歌で『うっせえわ』がブレイクしている。


街のあちらこちらのユーセンから、おきまりのフレーズが流れている。


あのフレーズを聴くたびに、ぼくは『令和の若者たちは、どんな不満を抱えているのか?』と考えている。


その時にぼくは、1979年夏に山陽放送で放送された金曜日22時のドラマ『沿線地図』を思い出した。


書かずにはいられないから、筆を取る。


脚本は、『岸辺のアルバム』・『ふぞろいの林檎たち』シリーズの山田太一先生…


出演は、真行寺君枝さん・岸恵子さん・河原崎長一郎さん・広岡瞬さん・児玉清さん・河内桃子さん…である。


主人公は、電気屋の娘・道子とサラリーマンの息子・志郎とふたりの両親二組である。


今回は、志郎の方にスポットを当てて話をする。


志郎(広岡瞬)は高校3年生…


志郎の父親・誠治(児玉清)は、一ツ橋大学卒業のエリート銀行員である。


志郎は、誠治から『トーダイへ進学しろ!!』とクドクドクドクド言われつづけながら高校3年間を過ごした。


同級生たちが体育祭だの文化祭だのとはしゃぎまくっている中で、志郎は参考書を開いて受験勉強をしていた。


そんな時に、志郎は電気屋の娘・道子(真行寺君枝)と出会った。


道子を好きになった志郎は、家出を決行した。


同時に、高校中退した。


同時に、ドーセイ(同棲)を始めた。


でも、これ以上書くと、気持ちがやむのでやめとこわい…


それでは、志郎はなぜ『うっせえわ』と言えなかったのか?


その答えは、その当時女性が求めていた理想の結婚相手像にある。


『高学歴・高収入・背が高い』の三高嗜好(さんこうしこう)…


誠治は『一流大学卒業で一流企業に就職すれば、結婚できる。』と言うて、志郎に『一流大学へ進学しろ。』と強要した。


一流大学卒業で一流企業に就職するのは、なんでだろうか?


そのようにぼくが言うと、誠治は『一流企業は正社員で登用されるから…』と決めつけ言葉で言い返した。


誠治は銀行員だが、正社員だと言えるコンキョはどこにあるのか?


理解できん!!


正社員で昇給で終身雇用で安定した年金で、定年後はユウユウジテキの暮らしができるからと誠治は言うけど、それがぼくには理解できん…


それじゃ誠治に聞くけど、あんたの職場にいる行員の中で正社員は何人いてはりまっか!?


今の世の中は、一流企業でも契約社員や人材派遣会社に登録している社員が大多数を占めている。


…と言うことは、正社員で働いている人たちの割合がそう多くないと言うことや。


この前(『5月28日放送分の『リコカツ』はふざけとんか(大激怒)で書いたこと)も書いたけど、2021年4月からは定年制がなくなったことに伴って70歳以降の働き方を選べるようになったことと働きながら年金をもらう人のルールが変更になったと話した。


つまり、誠治が思うような老後なんてあるわけないと言うことや。


それでは、誠治はなんで銀行員になったんやろねぇ…


答えは、『ダイリシューカツ』である。


ほんなら、誠治は大学でなんしよったんぞ…


周囲の学生さんたちは、バイトしながら勉学にはげんでいる…


世に認められるために寝る間をおしんで熱心に研究に没頭している…


3回生の学生さんたちは、大学卒業後にすぐに就職できるようにするためにインターンでがんばっている…


卒業後も『マクド』や『スタバ』などでバイトをつづけるのもよいことである。


そのまま大学院~大学教授を目指すのもよいことである。


手に職をつけるために専門学校へ行くのもよいことである。


なのに、誠治はそれがいかんといよるから話にならん…


ほやけん、親きょうだいを利用してダイリシューカツしたんやね…


誠治は、同期をけ散らして一番乗りで昇進しないと気が済まないタイプだから、知らないうちに家族を傷つけていると言うことに気がついていない…


…と思う。


話を変えるけど、父親のエリートが原因で凶悪事件が実際に発生したことをご存じでしょうか?


かれこれ三十数年以上前のことだと思うけど、ローニン生の男の子が金属バットで両親を殴り殺したあの事件である。


容疑者の男の父親は、誠治と同じ一流大学をトップの成績で卒業~一流大学に就職~同期をけ散らして一番乗りで昇進…と、誠治と同じタイプの父親だった。


ローニン生の男の子は、エリート志向の父親にし烈な怒りを抱えた。


その末に、両親は命を落とした。


容疑者の男は逮捕起訴後どうなったかは知らんけど、塀の外へ出ても迎えてくださる人はひとりもいないだろう…


なので、塀の中でさびしく人生を終えるまたは終えたと思っている。


1992年の山陽放送のドラマ『ずっとあなたがた好きだった』の冬彦(佐野史郎さん)も最終回の手前でオカンを刺してケーサツに逮捕された。


冬彦も、塀の中でさびしく人生を終えたと思う。


オカンは、親類たちが申し込んだローケン施設でさびしい余生を過ごしているだろう…


以上で話を終えるけど、最後にぼくが志郎に代わって誠治に『うっせえわ』と言うて筆を置く。


ああ、しんどかった…

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