第200話 ソラ
戦いが終わってから半年が経つ。
季節は冬になり、すっかり寒くなった。
ピース村は雪で一面白く染まっている。
外ではミライとジュンが楽しそうに雪遊びをしていた。
「おねーちゃん、まってー」
「えへへ、こっちなのー。ほら、頑張ってなのー」
ジュンは一歳にもなっていないのにもう歩いてるし、言葉も話せるように。
ミライの成長も早かったが、異世界の子って成長が早いのかな?
「そんなことはありません。おそらくはライト殿の力のおかげなのでしょう」
とシャニが言う。
彼女は我が子の成長が嬉しいのか、尻尾をパタパタ振り続けていた。
そういえば感度調整・改を発動すれば丈夫で可愛い赤ちゃんが出来るって書いてあったな。
成長が早いのもその恩恵だろうか?
「ミライー。ジュンー。そろそろ帰るわよー」
「はいなのー」
「リディアママ、まだあそびたいよ……」
ジュンは寂しそうに大きな獣耳をへたらせる。
はは、元気な子だ。
また明日遊んであげるからな。
「ジュン、おいで」
「ちちー」
「パパな」
「ちちがいいのー」
ジュン、お前もか……。
なぜかミライもジュンも俺をパパと呼んでくれない。
まぁ可愛いからいいんだけどね。
ジュンを抱っこして自宅に戻ると、お腹の大きくなったアーニャとリリが出迎えてくれた。
「お帰り、二人とも。あはは、ジュンの耳に雪が積もってるよ。取ってあげるね」
「リリママ、ありがと。好きー」
「ミライちゃん、いっぱい遊んでもらいましたか?」
「うん、今度はアーニャママと遊びたいのー。ソラちゃんにはもうすぐ会えるの?」
「えぇ、きっともうすぐですよ」
アーニャは大きくなったお腹を撫でる。
本当にもうすぐ産まれそうだな。
ちなみにアーニャにも聞いたのだがラミアは卵は産まないらしい。
普通に人間と同じように赤ちゃんを出産するんだとか。
尻尾が蛇だから当初は卵を産むのかと思ってたよ。
ふふ、あの頃が懐かしい。
そしていつも通りみんなで夕食を食べていると……。
――カタンッ
アーニャがスプーンを落とした。
そして美しいその顔が苦痛で歪む。
「う……。き、来ました。陣痛です……」
「分かった。みんな、準備を頼む」
「はい!」
「アーニャ姉、安心して産んでください」
「そばにいるからね!」
リディア達はテキパキと準備を進める。
俺はアーニャを寝室に連れていった。
彼女を静かにベッドに寝かせると、冷や汗をかきながらも笑顔を向けてくれる。
「ふふ……。嬉しいです。ようやくソラに会えます……」
「そうだな。俺も早くソラに会いたいよ。アーニャ、ソラは人とラミアのどっちで産まれてくるかな?」
「愛しいあなたとの子ですもの……。どちらでも構いません……。ライト様、私は幸せです。素敵な恋人に出会えて、そして結ばれて……。そしてあなたとの子供にまで会えるなんて……。私以上に幸せな者がいるのでしょうか?」
そう言って涙を流すアーニャ。
そうかな? 俺はまだまだ彼女を幸せにしきれてないと思うぞ。
「泣かないで。アーニャはこれからもっと幸せになる……いや、してみせる。こんなところで満足してたら次に幸せになった時にびっくりしちゃうぞ」
「ふふ、そうですね……。ライト様、私頑張ります……。頑張ってソラを産んでみせますから……」
「あぁ。待ってるよ」
最後に優しく抱きしめてキスをした。
そしていつもの如く部屋を追い出される。
シャニの時はあっさり産まれたが、アーニャは少し難産のようだ。
部屋の外まで聞こえてくるアーニャの叫び声。
『あぁぁぁぁぁっ!? も、もう駄目!』
『アーニャ、しっかり!』
『頑張るのです。頭が見えてきました』
『はぁ……。はぁ……。んんんんんんっ!?』
『そう! もっといきんで!』
アーニャを励ます声、アーニャの痛みに耐える声。
その声を聞くだけで涙が出てくる。
頑張れアーニャ。
俺は心の中で応援することしか出来なかった。
『んんんんんんっ! んんんんんんっ! んぁーーーーー!』
アーニャの叫びが聞こえる。
そしてその声が小さくなっていき、違う声が聞こえてきた。
『フニャー……』
産まれたんだ……。
俺はその場で膝をついて泣き出してしまった。
――ガチャッ
「ふぅ、ようやく産まれ……。ライト? 大丈夫?」
「リリ……。アーニャは無事か……?」
「あはは、泣かないの。大丈夫だよ。疲れてるけど、今ソラにおっぱいをあげてる。ほら、入ってあげて」
足が震えてうまく歩けないのでリリに肩を貸してもらった。
ベッドでは疲れた顔をしたアーニャが微笑みながら産まれたばかりのソラにおっぱいを飲ませている。
「アーニャ……。お疲れ様……」
「はい、疲れました……。ふふ、ライト様、この子がソラですよ」
アーニャにソラの姿を見せてもらった。
髪はアーニャと同じ紫がかった黒髪。
可愛い蛇の尻尾。
そして女の子だった。
「可愛いね。きっとママに似て美人になるな」
「ふふ、ありがとうございます」
「それではライト殿。親子の時間を楽しんでください」
――バタンッ
リディア達は部屋を出ていった。
ありがとな、気を遣ってくれて。
「抱いてみますか?」
「あぁ」
アーニャから産まれたばかりのソラを受けとる。
この子が三人目の我が子か。
ソラ、産まれてきてくれてありがとう。
愛しいソラのおでこにキスをすると……。
「フニャー」
「あらら、泣いちゃったよ」
「ふふ、大丈夫ですよ。ライト様、そのまま抱いていてあげてください」
その後はアーニャと一緒にソラにおっぱいをあげたり、疲れたアーニャを眠らせたり、そしたらソラが泣き始めたりと忙しくも楽しい時間を過ごす。
ようやくソラも寝てくれたので、俺もアーニャの隣で眠ることにした。
「アーニャ……。もっと幸せになろうな……」
「はい……」
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