第199話 平和な朝

「ママー。会いたかったのー」

「ミライ……。ママも寂しかった……。無事で本当に良かった……」


「ジュン、美味しいですか? たくさん飲みなさい」

「んあー」


 二組の母子の会話を聞いて目が覚めた。

 リディアはしっかりとミライを抱きしめて。

 

 シャニは愛しい我が子におっぱいを飲ませている。


 そしてアーニャとリリは微笑みながら俺の両隣りで横になっていた。

 

「ソラ、お父さんが帰ってきましたよ」

「ヒカリだって待ってたんだよ」


 彼女達は俺の手を取ってお腹に当てる。

 そして思う。

 ようやく帰ってきたんだなって。


 さて、積もる話はあるが……。

 

「君達、ちょっとリビングに来なさい」

「「「「はい……」」」」


 俺が言おうとしていることが分かっているのだろう。

 元気無く返事をした。


 妻達を対面に座らせる。

 コーヒーを淹れたので飲みながら話すことにした。

 ちょっと気分を落ち着かせたくてね。


「ふぅ、美味いな。先に伝えておくよ。もう大丈夫だ。アーネンエルベの王、ヨーゼフは俺が倒した。今後北に住む連中は俺達の敵にはならないだろう」


 しかし指導者を失った今、このまま人間達を放ってはおけないだろ。

 北の大陸はあまり作物が育たないらしい。

 食糧や資源の援助は必要になってくるはずだ。

 それはめんどいのでセタに任せよう。


「で、でもどうやって倒したんですか? 無事なのは嬉しいですけど、やっぱり怪我でもしてるんじゃないかって心配してたんですけど……」


 無傷だからねぇ。

 でも時空の壁が使えるようになったって、どう説明したらいいんだろ? 

 それも後で言えばいいか。


「大丈夫だよ、リディア。俺は何ともないから。それに約束しただろ? ミライを絶対に助けてみせるって。もちろんジュンもな」

「はい。感謝しています。ライト殿には返せない恩がまた出来てしまいました」


 とシャニは言うが、愛する嫁さんに恩を売ったつもりはないよ。

 夫として当たり前のことをしただけだ。


 しかしだな、彼女達は妻として約束したことを破ったのだ。

 俺の帰りを待っててくれと約束したのだ。

 しかし俺がこの家に戻った時には彼女達はいなかった。

 三日前から行方不明だったらしい。


「あのさ……。北に向かおうとしたろ?」

「「「「…………」」」」


 俺の問いにみんな黙ってしまう。

 

「ちちー、駄目なのー。ママ達をいじめちゃいやなのー」

「んあー」


 うーん、困ったな。

 なんか俺が悪いみたいじゃないか。

 しかしだな! ここは夫としてビシッと言っておかなくてはならないのだ!


「ご、ごめんなさい。実は私から言い出したことなの」


 とリリが謝ってくる。

 

「あのね、ライトの助けになるかと思って研究を進めてた武器が完成してね」

「へぇ? どんな武器なの?」


「小型マナブレイカー。カタパルト砲の技術も流用してあるから遠距離攻撃が出来るの。液体オリハルコンの反応も安定してるから衝撃にも強いんだよ!」

「リリ、そんなのすぐに捨ててきなさい」


 もう戦いは必要無いのに物騒なものを作りよって。

 

 しかし新兵器があれば俺の助けになると思ったリディア達はリリの提案に賛成して魔導車に乗って北に向かったらしい。


 だがテオの報告を受けたセタが第一次アシカ調教作戦で占拠した新たなる拠点でリディア達を確保してくれた。

 そしてリディア達はピース村に戻ってきたと。


 危ねえ、一足遅かったらリディア達が人間達を攻撃していたかもしれん。

 妻達の過激な一面を知った瞬間だった。


「と、とにかく今後は約束を守ること。分かった?」

「はい……」

「申し訳ございません……」

「お許しを」

「ごめんなさい……」


 シャニだけいつものテンションに思えるが、獣耳は髪の毛に隠れるくらい伏せており、尻尾はしょんぼりしている。

 うーん、これ以上言ってもかわいそうだな。

 まぁ反省してくれればいいさ。

 それでは今後のことを話すとしようか。


「みんな、聞いて欲しい。戦いはもう終わりだ。この大陸からは異形は消え去った。北の大陸からの脅威も無くなった。ならさ、俺達はこれからどうすればいいと思う?」


 以前伝えてあることだ。

 俺はこれでもピース村の村長でもある。

 ラベレ村、ラカン村も作ってきた。

 村民達は今でも俺を村長と慕ってくれている。

 だが俺程度の知識と経験では、今まで以上に発展することはないだろう。

 国として機能させるにはセタを始めとする経験豊富な人材が必要になってくるんだ。


 だから俺は今日をもって村長を止めようと思う。

 これからはこの世界の住人達で村を発展させていって欲しい。


 これはリディア達も知っていることだ。

 問題はこれからどう俺達が生きていくかだ。


「それについては私から説明しよう」


 ん? この声は……。

 振り向くとセタとテオがいた。

 かつてこの大陸でエテメンアンキという国を治めていた魔王セタ。

 そして猫人の王であるテオだ。


「邪魔するぞ」

「ニャー」


 二人は椅子に腰をかけ話し出す。


「まずは自分から話すニャ。猫島の住人は大陸に移り住むことに決定したニャ。そこで自分の代で廃位することにしたニャ」

「廃位って……。猫人は納得してるのか?」


「してなかったら言わないニャ。とにかくこれは決定事項ニャ」


 テオは王様ではなくなるのか。

 ちょっと意外な展開になったぞ。


「次だ。北の脅威が無くなった今、やることは一つ。ここに新たなる国を建国することだ。ライトが持つ全ての権利は私がもらうことになる。それに異論はないか?」

「あぁ。むしろ俺から言い始めたことだからな」


「よろしい。ではしばらくは私が指揮を取って新国家樹立の準備を進める。しかし私もいい歳でな。そろそろ引退を考えているのだ。だが残念ながら世継ぎがいなくてな」


 そうだった。セタは独身で子供がいないんだよな。

 

「そこでだ。私が引退したら次の王は国民選挙で決めようと思う。国民の中から王を選ぶのだ」

「みんな、ちょっと散歩にでもいかない? あー、なんか外の空気が吸いたくなっちゃったなー」


 これってある意味罠だろ? 

 出来レースじゃねえか。

 国民選挙だなんて、俺でも分かるぞ。 

 おそらく新国家の民は俺に投票するだろ。

 そんなめんどくさいのはごめんだ。


 俺は席を立とうとするが……。


 ――ガシッ ガシッ ガシッ ガシッ


 リディア達に捕まってしまった。


「ふふ、駄目ですよ」

「そうです。皆を導けるのはライト様だけですから」

「ライト殿が王になるのです」

「すごいね、村長からずいぶん出世しちゃうね」

「君達ねぇ……」


 むむむ……。これは逃げられそうにないぞ。


「ははは、心配するな。国家が安定するまで50年はかかるさ。それまでゆっくり楽しんでおいてくれ」

「くそ、分かったよ! でもどうなっても知らないからな! 責任はそっちがとってくれよ!」


 俺は諦めたように席に戻る。

 突然変な神様に呼び出されてさ。

 壁しか作れない意味の分からないチートをもらった。

 そのおかげで愛する家族を手にいれた。


 でも今度は王様やれっての?

 ふふ、こうなったら乗り掛かった船だ。


 何でもやってやるさ!


 でも今日くらい全てが終わったことのお祝いをしてもいいよな?

 いや、お祝いだけじゃ駄目だな!


「みんな! 今日は祭りを開こう! 戦いが終わったことを祝う祭りだ!」

「ははは、そう言うと思って準備はしてある。酒に料理、全部揃ってるぞ」


 ははは、お見通しでしたか。

 外からは歓声が沸き上がり、賑やかな笛の音や太鼓を叩く音が聞こえてくる。


 これが新国家、エテメンアンキ建国の記念日となるのだった。


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