第198話 再会

「ちちー。怖かったのー。会いたかったのー」

「パパな。俺もだよ、ミライ」

「んあー。んあー」


 子供達を抱っこしてリビングに向かう。

 俺はピース村には戻ってきた。

 最後の最後で壁の力が覚醒し、新たなる壁を手にいれた。

 時空の壁だってさ。

 時と空間を自由に操れるらしい。

 最初は使えないチートだと思っていたが、とんでもない力だったみたいだな。

 

 だがその力のおかげで子供達は助けられたし、世界は救われた。

 壁様々だな。


 さて、リディア達を安心させてあげないと。

 しかし彼女達はリビングにはいなかった。

 二階の部屋にいるのかな?

 

 ちょっと部屋を覗いてみたが、残念ながらいなかった。

 むむ、せっかく感動の再会を果たしたかったのに。


「ごめんくださいニャー」


 ん? 下から声がするぞ。

 考えなくても分かる。猫人の王テオだ。


「猫ちゃんの声がするのー」

「こら、待ちなさい」


 ミライは俺の手から飛び降りて一階に向かう。

 俺も一階に降りるとミライはテオの耳を裏返して遊んでいた。

 それ、猫が嫌うやつだから。


「ニャニャ。止めるのニャ。シャーッて怒っちゃうニャ。でもなんでミライがここにいるのニャ?」

「それは俺から説明するよ」


 テオはミライにもみくちゃにされつつも俺の帰還を驚いていた。


「ヨーゼフはどうしたのニャ!?」

「んー、倒した……っていうか一年前に死んだかな?」


「意味が分からないニャ」

「まぁ、とにかくもう平和になるってこと。もうアーネンエルベには敵はいないよ」


 話せば長くなるからな。

 ものすごく簡単に説明しておいた。

 で、テオはなんでここにいるんだ?


「実はリディア達が行方不明なのニャ。もしかしたら戻ってるかもと思って定期的に訪ねているのニャ……」

「行方不明!? ちょっとジュンを頼む!」


「おお、よしよし。こらジュンちゃん。鼻を吸っちゃ駄目なのニャ。おっぱいは出ないのニャ」


 テオはジュンをあやしてくれているようだ。

 俺は急いでリディア達の部屋に駆け込む。

 まずはリディアの部屋だ。


「無い……」


 壁にかけてある彼女の弓が無くなっている。

 アーニャの部屋からも槍が無くなっていた。

 シャニ、リリの部屋にも得意の武器が無くなっていたのだ。

 ま、まさか俺を心配して北に向かったとか?


 もう! あれだけ待っててくれって言ったのに!

 どうする? 俺もリディア達を追うか? 

 時空の壁があれば彼女達を探せなくはない。

 それに時を戻して彼女達が失踪した時が分かれば簡単に見つけられるだろう。

 

(時空の壁を発動! 時を戻してくれ! 三日前!)

【ネガティブ。これ以上の使用は危険です。脳が焼き切れる可能性があります。クールタイムを置くことをお勧めします】


 こわっ!? 脳が焼き切れるって何よ!?

 うーむ、困ったぞ。

 時空の壁は強すぎる力のせいか、ある程度使用制限があるみたいだ。

 まぁ普通に暮らしてたら多用するもんじゃないしな。


 仕方ないか。彼女達が帰ってくるのを待つしかないな。

 俺はテオからジュンを受け取り自分が経営する何でも屋に向かう。

 そこに粉ミルクも売ってるからな。

 

「グルルッ。らっしゃーい……。って、ライトではないか!?」

「お前、適当に接客してたろ」


 デュパが店番をしていた。

 全く態度の悪い店員さんだ。

 後でクレーム入れるぞ。

 俺の店だけど。


「帰ってきたのだな……」

「あぁ、とりあえず全て終わったよ。でもリディア達がいなくてさ……」


「その話は知っている。今セタがそこら中を探している最中だ。見つかると良いのだが」

「あぁ、帰ってくるのを待ってるよ。それとさ、粉ミルクとオムツを頼む」


「毎度ありー」


 俺は赤ちゃん用品を購入して自宅に戻る。

 ミルクを作ってジュンに飲ませると美味しそうに飲んでくれた。


 ふふ、そういえばこうしてジュンと触れあうのは久しぶりだな。

 ジュンは哺乳瓶を咥えたまま、小さな獣耳をピコピコ動かす。

 尻尾もパタパタ振っているのでご機嫌なのだろう。


「ジュンちゃん、可愛いのー。ママがいないから私がママになってあげるのー」

「ははは、ミライはいい子だな。それじゃちょっとジュンを頼むよ。俺はごはんを作ってくるから」


 キッチンに向かい夕食を作り始める。

 リディア達も心配だが、今はミライにもちゃんとごはんを食べさせなくちゃ。

 簡単で悪いがカレーを作ることにした。


 カレーを作り終え、ミライと一緒にごはんを食べる。


「辛いのー。美味しいのー」

「ははは、それは良かったよ。お代わりはたくさんあるからな」

「んあー」


 ジュンもお腹が空いたようだ。

 俺はスプーンを置いてジュンにミルクをあげることに。

 うーん、大変。

 一人で子育ては中々難しいぞ。

 みんな、早く帰ってきてくれー。


 夕食を終え三人で風呂に入るが妻達は一向に帰ってこない。

 仕方ない、今日はもう寝るとしよう。


 ジュンは夜泣きが酷いのか中々寝てくれなかった。

 ミライもママがいないのが寂しいのだろう。

 スンスンと泣き始める。


「ママ……。会いたいの……」

「大丈夫だよ、きっとすぐに帰ってくるから……。だから今日はもう寝ような……?」


「うん……。ちち、お休みなさいなの……」

「パパな……。お休み、ミライ……」


 こうしてようやく眠ることが出来た……と思ってたんだけどなぁ。


 ――バンッ!!!!


 こういうところのタイミングが悪いんだよなぁ。


「ライトさーん!」

「ライト様ー!」

「ライト殿、お帰りなさい」

「ライトー! 会いたかったー!」

「しー! せっかく寝たんだから!」


 全くもう。リディア達の話も聞きたいし、俺も積もる話はある。

 でもそれは明日でいいよな?


「ほら、みんなも一緒に寝よ。ベッドに入って……」


 彼女達は笑顔だがその目には涙が。

 俺と子供達に一度だけキスをしてからベッドに入った。


 ふぅ、久しぶりに平和な気持ちで寝られるな。

 でも最後に一言だけ言っておこう。


「みんな、ただいま……」

 

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