第193話 北に向けて

 自宅の前。

 そこにはすでにリリが作ってくれた魔導車が駐車してある。

 昨日のうちに用意してくれたんだ。

 

 見送りとしてリディア達だけではなく魔王セタ、猫王テオ、蜥蜴人のデュパ、そしてラベレ村の初期メンバーが集まってくれた。


「行くのだな……。ライトよ、南の大陸の平和はお前の手にかかっている。すまん、お前一人に責を背負わせてしまって……」


 セタは申し訳なさそうに言ってくる。

 平和ねぇ、そこまでご大層なものを守るつもりはないんだけどな。


「いいよ。乗り掛かった船だ。どっちにしろミライとジュンに会うためにはアーネンエルベってところに行かなくちゃいけないからな。だからあんまり気にしないでくれ」

「そうか……。お前が留守の間、ここの守りは任せろ。私が命に代えても守ってみせる」


 そうだな、南の大陸は未だにアーネンエルベの兵士達が駐屯しているはず。

 先日北の拠点は俺が潰したが、まだ東に二つの部隊がいるんだよな。


「いや、その心配はない。ラカンが潰してくれたよ」

「ラカンが? 無事なのか?」


 俺の問いにセタは顔を横に振る。


「いいや、死んでいたと報告を受けた。酷い傷だったが、倒れることなく事切れていたらしい。ふふ、あの男らしい……」


 そうか。最後は華々しく散ったということか。

 セタと別れの挨拶を終え、デュパが前に出てくる。

 

「グルル。ライトよ、お前には感謝してもしきれん。森の中で死ぬまで隠れるように生きていくしかない我らを受け入れてくれた。その恩はまだ返せていないのだ。生きて帰ってこい」

「あぁ。分かってるさ」


 その後も親しい村民達は次々に挨拶をしてくる。


「気をつけるニャー」

「村長、行ってらっしゃい!」

「絶対に帰ってきてくれよ!」

「あんたにはまだ抱かれてないんだよ! あたしを寂しいままにしないでおくれよ!」


 時折下ネタを言ってくる者もいる。

 ははは、こんな時に何言ってんだよ。

 でも俺にとってはこれくらいがちょうどいいのかもな。


「みんな、行ってくる」


 最後に一言だけ伝える。

 さぁ次だ。

 目に涙を浮かべる愛しい妻達に挨拶をしなくちゃ。


「ライトさん、ミライを助けてあげて……」

「ソラを一緒に育てていきましょう。絶対に帰ってきて……」

「ライト殿の帰りを待っています。ジュンをよろしくお願いします」

「ヒカリにお姉ちゃん達を会わせてあげて。この子に寂しい想いはさせないで……」

「ははは! 分かってるよ! もう、そんな顔するな!」


 突然俺が笑ったので、みんなが驚く。

 最後にリディア達を安心させてあげないとな。


「言っただろ? 俺は絶対に帰ってくる。ミライ、ジュンと一緒にな。何も心配いらない。君達はただ俺の帰りを待っていればいいさ。気楽にお茶でも飲んでゆっくりしててくれ。そうそう、しばらくみんなと離れることになるだろ? 帰ってきたらいっぱいエッチしような」

「うふふ、分かりました」

「たくさん可愛いがって下さいね」

「待っています」

「ふふ、ライトは変わらないね。安心したよ」


 みんな泣き顔から笑顔に変わった。 

 そうそう、そっちの方が可愛いよ。

 俺の嫁さん達に涙は似合わないからね。


 さぁ、名残惜しいが行かなくちゃ。

 俺は魔導車に乗り込みエンジンをかける。


 アクセルを踏もうとした時、最後にリディアが話しかけてきた。


「どうした? 言い忘れたことでもあるのか?」

「はい。一度聞いておきたいことがあって。ライトさんってどうしてそんなに強いんですか?」


 強い? 確かにレベルアップを繰り返したから肉体的に強くなったとは思う。

 だがリディアの求めている答えはそういうことではないと思った。

 んー、でも自己分析は苦手なんだよなー。

 考えても自分の強さなんか分からんぞ。


 ちょっと困っていたらアーニャが助け船を出してくれた。

 

「ふふ、実は私達は分かって質問したんです」

「そうなの? ならみんなが考える俺の強さって何?」

  

「ライト様の強さは受け入れる力にあると思うんです。私達はこの世界では受け入れ難い姿をしています。でもライト様はそんなこと気にすることなく私達を愛してくれました」


 受け入れる力か。

 確かにそうかもな。


「それだけではありません」


 今度はシャニが前に出てくる。

 

「受け入れる力、言い方を変えれば他者と壁を作らないという力だと思います。それがライト殿の力の本質」

「そうだよ、ライトは誰にも平等で優しくしてくれるじゃん。それが壁を作らないって意味だと思うよ」


 壁を作らない? 

 ははは、壁を作るのが俺の力なんだぜ。

 でも彼女達が言っていることが正しいのかもな。

 ざっくばらんで適当で、でも相手が困ってるなら全力で力になってあげる。

 日本でもそういう生き方をしてきたつもりだ。

 それを異世界でも続けただけだよ。


「ありがとな。なんか勇気をもらった気分だよ。壁を作らない力か。だから壁っていう能力をもらったのかもな」


 最初は俺を呼んだ神を憎んだもんだが、俺の力は壁で良かったんだろう。

 感謝しておかないとな。

 

 さぁ、いつまでも話してる暇は無いぞ。

 可愛い娘達が俺を待ってるからな!


 ――ドルンッ!


 アクセルを踏み込むと魔導車はゆっくり走り出した。


「行ってくる!」


 俺はそう言い残してピース村を出発した。

 向かうはひたすらに北だ。

 俺は車を走らせ続ける。

 途中でポータルを作れば帰れるのだが、そんな気にはなれなかった。

 娘が俺の助けを待っている。

 休んでる暇などなかった。


 疲れが限界に来たら車の中で仮眠を取る。

 起きたらすぐに車を走らせる。

 こうして大陸を北上し続けること三日。


 目の前には俺を出迎えるために集まった人間達がいた。

 数千人単位でな。

 しかもご丁寧に全員武装しているときたもんだ。

 

 あまり歓迎されているようには思えないな。


 俺は車を止める。

 すると男が一人近づいてきた。

 この顔には見覚えがある。


「良く来たな」

「あぁ、招待状を受け取ったからな。案内してくれるのか? ヴィルヘルム」


 彼に会うのは三回目……いや三人目と言った方がいいかな。

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