第192話 リリと過ごす一日

 いつものように目覚める。

 ミライとジュンのことを思うと未だに胸が痛むが今は少し落ち着いてきた。

 

「今日はどうするのですか?」

「起きたのか。おはよシャニ」


 隣で寝ていたシャニも目を覚ましたようだ。

 おはようのキスをすると毛布の中で尻尾が元気良く動く。

 ふふ、もうシャニは大丈夫そうだな。

 

「今日はリリと過ごすよ」

「そうですか。リリには世話になりました。後でお礼を言わないと」


 リリはシャニが落ち込んでいる間ずっとそばにいてくれた。

 この三日間、リリもほとんど寝てないみたいだったしな。

 でも昨日からシャニも立ち直ったし、しっかり睡眠も取れただろう。


 寝室を出て二階のリリの部屋に向かう。 

 きっと寝ているだろうと、静かにノックをして部屋に入ると……。


「ぐー……」


 うん、しっかり寝てるな。

 ベッドに腰かけ優しくリリの頭を撫でる。


「うふふ、もっと撫でて……」

「ごめん、起こしちゃったか」


「いいよ。だって今日は私の日でしょ?」

「分かる?」


「それぐらい分かるよ。だって恋人にした順番でデートしてるじゃん」


 ははは、ばれちゃったか。

 なら話は早い。

 リリは嬉しそうにベッドを出る。


 一階に降りるとリディア達が元気良く俺達を見送ってくれた。

 

「今日はどこに連れてってくれるの? 釣りでもする?」

「しない」


「ふふ、からかっただけ。ライトは釣りが下手っぴだもんね」


 くそ、夫をからかいおって。

 後で分からせてやらないとな。

 しかし今回はどこに行くとかは特に決めていない。

 リリには特別にしてあげたいことがあるからだ。


「だったら少しお茶でもするか?」

「うん!」


 二人で手を繋いでマーケットに向かう。

 そこにはいつもお世話になっておる食堂があるのだ。

 ここはラベレ村の初期メンバーであるミァンが営む食堂である。

 俺達家族も良く利用させてもらっている。

 ここの料理は何でも美味い。

 だがせっかくのデートだし、おしゃれに紅茶とケーキでも……と思ったのだが。


 食堂に入るや否や、リリは醤油ラーメンを二つオーダーしやがった。


「おい、ムードが無いぞ」

「ムードじゃお腹は膨れないんだもん。一緒にラーメン食べよ」


 はは、まぁいいか。

 そういえばまだリリが子供のふりをしてる時にだが、二人でよくラーメンを食べにきたっけな。

 その時にリリは俺にプロポーズしたんだった。

 あの時は子供の戯れ言だと思っていたんだが、リリは本気だったらしい。


「もう、その話はしないでよ。恥ずかしいんだから」

「ははは、さっきのお返しだ」


 なんて会話をしながらラーメンを食べる。

 リリは体が小さいながらもしっかり食べるからな。

 ラーメン一杯では物足りなかったらしい。


「次は何を食べようかなー?」

「今日は炒飯がお勧めよ」


 と話しかけてくる店員がいる。

 食堂の店主であるエルフのミァンだ。

 だが彼女は子供を抱っこしている。

 男の子か。ミァンによく似ている可愛い男の子だ。

 へぇ、ずいぶん大きくなったな。


「お邪魔してるよ」

「村長、リリ。ゆっくりしていってね。ほらグウィン、挨拶なさい」

「うん。こんにちは……」


 いい子だな。でも恥ずかしいのかグウィンをするとママの胸に顔を埋めてしまう。


「あはは、可愛い。照れてるんだね。グウィン君、よろしくね」

「うん……」

「あら珍しい。グウィンは恥ずかしがり屋でほとんど話さないのに。ちょっとお姉さんとお話してみる?」


 ミァンはグウィンをリリの横に座らせる。

 すぐにリリに懐いたようだがやっぱり恥ずかしいみたいで顔を赤くしていた。

 

「ねぇ村長、少しだけグウィンを見ててくれない? 他の人と話すいい機会だから」

「もちろん。いいよな、リリ?」

「うん!」

「ありがとう! なら今日のお会計は私が持つから!」


 おお、奢ってくれるのか。

 ミァンの申し出をありがたく受け取っておいた。

 リリはグウィンと色んなことを話す。

 どんな遊びが好きかとか、どんな食べ物が好きかとか。

 グウィンもすっかり打ち解けたようで楽しそうにリリの質問に答えている。


「ふふ、グウィン君は可愛いね。でもそろそろ行かなくちゃ。ママのところに戻ろうか」

「うん」


 リリはグウィンを抱っこしてミァンのもとに。

 グウィンは少し寂しそうな顔をしてリリにバイバイをしていた。

 やはり会計はしなくて良いと言われたので礼を言って食堂を出る。


「ふふ、子供って可愛いね。あーぁ、やっぱり私も欲しくなっちゃった」


 ――チラッ


 リリがいつものようにアピールしてくる。

 妻の中でリリだけなんだよな。まだ子供がいないのって。

 リディアはミライを。シャニはジュンを。

 そしてアーニャのお腹の中にはソラがいる。


 別に彼女との子供を避けていたわけではない。 

 タイミング悪くアーネンエルベが攻めてきたりと子作りどころではなくなってしまったのだ。

 

「そうだよな。ならさ、今から作ろっか」

「うふふ、冗談だよ。今は大変な時期だから。全部終わらせてからでいいよ」


 とリリは言ってくれる。

 でもな、実は今の俺の言葉は本気なんだ。

 その場でリリを抱きしめる。


「え? ラ、ライト?」

「今から作ろう。俺達の可愛い子供をさ」


「そんな……。でもどうして?」

「俺のためなんだ。俺はもうすぐ北の大陸に行く。一人でな。どんな危険な目に会うか分からない。死ぬつもりはないが、覚悟はしなくちゃいけないと思うんだ。でもリリが俺の子を宿してくれたら……。俺はその子に会うために絶対に帰ってくるって思えるはずなんだ」


 俺のわがままかもしれない。  

 でもそれが俺の正直な気持ちなんだ。

 

「いいの……?」

「あぁ」


 答えるとリリの目から涙が溢れてくる。

 リリはずっと子供が欲しいって言ってたもんな。

 先延ばしにしてごめんな。

 リリは嬉し過ぎるのか、しばらく俺に抱かれたまま泣き続けた。


「ぐすん……。これで夢が叶ったよ……。こんな体だから一生結婚出来ないと思った……。だから子供なんか夢のまた夢だって……。私、ライトに出会えて本当に幸せだよ……」

「俺もだよ。それじゃそろそろ帰るか?」


「え? う、家でするの?」


 とリリは驚く。

 違うの?


「な、なんか恥ずかしいよ。だって家にはみんながいるし」

「今さら何を言ってんの」


 彼女達と暮らしてそれなりに長い。

 もちろん彼女達の睦事に関してもみんな理解してくれている。

 っていうかみんなでする時だってあるじゃん。

 恥ずかしがる理由なんかないだろ。


「で、でも今日は特別な日だから……。二人っきりになれるところがいいな」

「二人っきりかー。そんなところ……」


 いや、あったな。

 俺はリリの手を引いて村の端に向かう。

 最近建てられた新しい商業区だ。

 この中にひっそりと建てられたとある建物に二人で入る。


「え? ここってなんなの?」

「まぁまぁ、いいからいいから」


 建物の中に入るとカーテンで仕切られた受け付けから声がしてくる。


「癒しの空間にようこそ……。宿泊ですか?」

「休憩で。一番いい部屋空いてる?」


「5000エンになります……」


 よかった。部屋は空いていたか。

 支払いを済ませると受け付けは鍵を渡してくれる。

 そういえばリリをここに連れてきたことは無かったか。


 ここはいわゆるラブホテルなのだ。

 エッチを楽しむだけの癒しの空間なのである。

 鍵を開け部屋に入ると、大きなベッドと鏡張りの大きなお風呂。

 俺考案のアダルトグッズも多数置かれている。


 まぁ、その後は特に語ることはあるまい。

 リリとしっかり楽しんでおく。

 リリも普段と違う場所でするのに興奮したのか、まぁ乱れた乱れた。

 

 もちろん感度調整・改は発動しておいた。

 

 ――ピコーンッ


【着床完了。おめでとうございます】


 いつもの天の声が聞こえてきた。

 これでリリのお腹の中にも新しい命が産まれたのか。


「はぁはぁ……。ライト、好きぃ……」

「俺もだよ……」


 息が整うまでしっかり抱き合って時を過ごす。

 ようやく回復したので楽しくピロートークに移行した。


「もう、出しすぎだよ。お腹タプタプになっちゃった」

「ははは、ごめんな。リリが可愛かったからさ」


「ふふ、ありがとね。ねぇ、ライト。この子はどっちかな?」

「うーん、それは神様が決めることだからね。でも女の子のような気がする」


「ふふ、私もそう思うよ。でね、やっぱりこの子の名前はライトに決めて欲しい。ミライ、ジュン、ソラ。全部ライトが決めてくれたでしょ? だからこの子の名前もライトが決めて」


 名前か……。一応考えていた名はある。

 リリは気にいってくれるかな?


「ヒカリ。これでどうかな?」

「ヒカリ? 光りってこと?」


 ヒカリという名を考えた理由は俺達の希望の光りになって欲しいということだ。

 そしてリリはこの世界では天才と呼ばれる優れた頭脳を持つ。

 その知識を以て俺達の村に数々の恩恵をもたらしてくれた。

 産まれてくる我が子も皆のための希望の光りとなって欲しい。


「ヒカリ……。すごくいい名前。ヒカリ、良かったね。お父さんが名前をつけてくれたよ」


 リリは嬉しそうに自分のお腹を撫でた。

 俺もヒカリに会うために必ず帰ってこなくちゃ。


 最後に少しだけイチャイチャしてから俺達は家に戻る。  

 そしてみんなでご飯を食べて。

 みんなでお風呂に入って。


 その次の日は彼女達とずっと一緒に過ごした。

 そして……。


 俺がアーネンエルベに旅立つ日がやってきた。

 


 

 

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