第189話 リディアと過ごす一日
「んん……。ライトォ……」
リリの寝言で目が覚めた。
彼女に慰められたことで昨日よりは心が軽くなった。
「リリ、ありがとな……」
まだ目覚めぬリリを撫で、俺はベッドを出る。
浴室に向かい熱いシャワーを浴びて気持ちを切り替えた。
俺は一つ決めたことがある。
それをみんなに伝えないとな。
浴室を出るとみんなも起きていたようでリビングに集まっている。
リディアとシャニは不安からか眠れていないようだ。
「リディアさん、シャニ……。少しでも食べてね」
「うん……」
「はい」
アーニャは消化の良いものを作ってくれたようだが、二人は食べようとしなかった。
このままじゃ駄目だな。
俺はキッチンに向かいおにぎりを作る。
他にも簡単に摘まめるおかずを適当に弁当箱に摘めておいた。
リビングに戻り、リディアの肩に手を置く。
「ライトさん?」
「あのさ、今日はリディアと一日過ごしたいんだ。ちょっと付き合ってくれないか?」
「え? そ、そんな気分じゃ……」
彼女の言葉を無視して、俺はちょっと強引にリディアの手を引いた。
そのまま家を出るとリディアは焦ったように。
「ど、どこに行くんですか?」
「いいからいいから」
俺はそのままリディアの手を引いて村を出る。
そして森の中に向かった。
森を歩くこと数十分。確かここら辺だったような……。
おぉ、あったあった。
「ライトさん、これって……」
俺達の目の前には木の壁で出来た小さな家……と呼べるものじゃないな。
四方を壁で囲んだだけの簡素な小屋があった。
これは俺が森の中で最初に建てたものだ。
特に壊れている様子はないな。
「ここから始まったんだよ。俺のこの世界での生活がね。この近くでリディアを見つけたんだ」
「そうだったんですか……。でもなんでここに?」
「もうちょっと歩こうか」
次に向かうのは森の外。
異世界とはいえ、それなりに住んで長いからな。
場所は分かっている。
そのまま平原を北に向かうと川が見えてきた。
「あれ? ここって……」
「そうだよ。リディアと最初に建てた拠点があった場所だ。お? まだ風呂は残ってるな」
ここはもう壁を消したので俺の拠点ではなくなっている。
しかし風呂として掘った穴はまだ残っていた。
中は雨水がたまってどろどろになってたけどね。
「ふふ、懐かしいですね」
「だな。リディアと初めてエッチしたのもここだったもんな」
そう、俺達の村作りはここから始まったんだ。
俺はそこで火を起こしお茶を淹れる。
何もかも全てが懐かしい。
初めての拠点では何を植えるかリディアと相談したんだった。
「リディアはどうしてもお茶を植えたいって言っただろ?」
「はい。ふふ、あの時はわがまま言ってごめんなさい」
「いいさ。ほら、お茶を淹れたからさ。少しでも食べようか」
「はい!」
リディアは少し元気が出たようだ。
ゆっくりだがおにぎりを齧り始める。
「ふふ、美味しいです」
「それは良かった。まだあるからな。いっぱい食べてくれ」
「そんなに食べられません」
「嘘だぁ。リディアは食いしん坊だろ? いつもだったら10個は軽いだろ」
なんて会話をしながら俺達はピクニックを楽しんだ。
しかしリディアもまだ完全に立ち直ったわけではない。
愛する我が子が拐われてしまい、気が気じゃないのだろう。
だから俺はリディアをここに連れてきたんだ。
俺はリディアの肩を抱く。
そして彼女に伝える。
俺の本当の気持ちを。
「リディア……。何も心配しないでくれ。絶対にミライは助けてみせる。俺は五日後に北に向かう。俺とミライ、そしてジュンの帰りを待っててくれないか?」
「はい……。でも本当は私だってライトさんについて行きたいんです。みんなであの子達を助けたいって……」
それは駄目なんだよ。
ヨーゼフは言ったからな。
俺一人を招待するって。
もしリディア達がついてくるならばミライ達の身の安全は保証出来ない。
我が子が傷つかないよう、最も安全に助け出すのは俺一人がアーネンエルベに行くことだけだろう。
「分かりました……。でもライトさんなら勝てますよね? あの子達を助けられますよね?」
「…………」
今度は俺が言葉に詰まってしまう。
恐らくヨーゼフには心の壁は効かないだろう。
奴の心は壊れているはずだから。
そうでなくては、あんなに残酷なことをやれるはずはない。
「もちろんだよ。リディアは俺が強いのは知ってるだろ? あんな卑怯な男はクシャクシャに丸めてポイっだ!」
「ふふ……。嘘つき……」
リディアはそう言って笑いながら涙を流した。
そして俺に抱きついてくる。
「お願い……。絶対にミライとジュンをつれて無事で帰ってきて……。ライトさんまでいなくなったら私……」
「約束する。だから待っててくれ」
俺はリディアが泣き止むまで抱きしめる。
彼女が泣き止んでから楽しい思い出の話をたくさんした。
「リディアを見つけた時は、すごい美人だなって思ってさ」
「リディアが妊娠したって聞いた時は死ぬほど驚いたよ」
「産まれた時のミライは可愛いかったなぁ」
「今からもう一人作らない?」
「んふふ、ライトさんのエッチ」
次第とリディアの表情が明るくなっていく。
大分時間が経っていたみたいだ。
リディアの顔が夕陽に照らされている。
最後に彼女をしっかりと抱きしめてから。
「リディア……。愛してる……」
「私もです……」
抱き合った後は二人で手を繋いでピース村に戻る。
家に帰ってからみんなでご飯を食べて、みんなでお風呂に入って。
そして今日はリディアと眠ることにした。
「リディア……」
「ライトさん……」
何度もリディアと愛し合う。
果てを迎えたリディアはそのまま意識を失うように眠ってしまった。
「ミライ……」
寝言かな。愛しい我が子の名を呼んだリディアを撫でながら俺も眠る。
絶対にミライを助けだしてみせる。
だから……。
待っててくれるよな。
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