第181話 アシカ調教作戦 其の一
ピース村にある俺の自宅にて。
妻達全員とセタを代表とする主要メンバーに集まってもらった。
さらにここにいるのは村民だけではない。
「…………」
「え、怨嗟が渦巻いているように思うのですが」
と人族のヨハンとロニは怖がっている。
目の前にいるセタとテオ、そしてデュパがめっちゃ睨んでいるからだ。
ちなみに妻であるリディア達は心の壁を消したせいか二人を何とも思っていないらしい。
むしろお客さんが来たといった感じで二人の前にお茶やお菓子を出している。
あちゃー、しまったな。
心の壁を消せたのはピース村にいる村民達だけだったようだ。
ラカン村にいたセタ達はまだ彼らを敵として認識しているんだ。
「まぁまぁ、そんなに睨むなって」
「グルルル……。ライトよ、そいつらは人間だぞ。我らの憎むべき相手ではないか。何故こいつらがここにいるのだ」
彼らを呼んだ理由か。
それは今後の戦い方についてヒントをもらうためだ。
本当はヴィルヘルムに聞きたかったんだが、あいにくもう喋れなくなっちまったからな。
「何故ヴィルヘルムは自ら命を絶ったのだ?」
とセタが聞いてくる。
詳しくは知らん。だが何となく想像が付く。
恐らくは自分がしてきたことの罪の重さに耐えきれなくなったのだろう。
俺は奴から心の壁を消し去った。
そうすることでヴィルヘルムから有益な情報を聞き出せると思ったのだが、それが良くなかった。
彼はとある組織に所属してきた。
そして語ることも出来ないほど残酷な手口で多くの人の命を奪ってきたんだ。
まともな精神であったら耐えられることではない。
つまり心に壁があったからこそ、自分達のやっていることに疑問を持たずに任務を遂行していったのだろう。
だが心の壁が無くなったらどうだ?
まぁそれは長くなるので今彼らに話すことではないな。
それよりもこれからのことを話さないと。
「あのさ……。どうやら俺はまた新しい壁を建てられるようになったみたいなんだ」
「さすがは壁職人ニャー」
左官屋さんみたいに言うんじゃない。
テオのことは無視しつつ話を続ける。
恐らくだが心の壁とは心の中にある差別意識、敵意なんかを表しているんだと思う。
壁があれば相手を嫌い、そして壁が無くなれば受け入れられる。
要は心の中にある敵意を自由にコントロール出来るわけだ。
「それってすごくずるくない? ある意味最強じゃない」
そんなことをリリが言ってくる。
彼女の言う通りかもな。
俺も心の壁が最強の力だと思っている。
だって心の壁さえ無くせば敵意が消えるんだ。
「だが発動には条件がある。心の壁を消せるのは敷地内にいる者だけらしい」
俺はピース村の村民の心の壁を消去することは成功した。
だが俺は発動する時にこう念じた。
敷地内の村民全員の心の壁を消去ってな。
しかしセタ達は未だに人を敵として認識している。
「つまりお前と同じ敷地にいる者が対象ということか」
「そういうこと。だから遠くにいる相手には通用しないってことだ」
「グルルル。なら人間がここに来るまで待っていなくてはいけないのか?」
「そうなのニャ。それでは結局防戦一方で戦いが長引くことになるニャ」
そういうこと。だからこそ人族の二人を家に呼んだんだ。
どうやら二人はそれなりに高い地位にいる兵士だったらしい。
ヴィルヘルム直属の部下だったそうで戦闘力も高く、万が一の時はヴィルヘルムから部隊を引き継ぎ俺達を攻撃するように言われていたと。
つまり彼らは敵軍の中の動き、配置なんかをある程度だが知っている立場だということだ。
――バサッ
俺はテーブルの上に地図を置く。
そしてヨハンとロニに尋ねる。
「教えてくれ。君達の仲間がどこにいるかをな」
「わ、私はもうあなたと争うつもりはありません。しかし仲間を売ることなど……」
んー、中々義理堅いのね。
立派な態度ではあるが、ここは話して欲しいなぁ。
そっちの方がお互い傷付かなくて済むしね。
「ふふ、心配ありませんよ。ライト様なら悪いようにはしませんから」
アーニャはお茶のお代わりを二人の前に出す。
もう彼女からは人に対する敵意は全く感じられない。
いつもの優しい笑顔を二人に向けた。
そして今度は俺に向かってこんなことを。
「ライト様、駄目ですよ。二人が心配しています。先にどうするかを教えてあげないと」
「だな。ヨハン、ロニ、悪かった。俺の考えていることを教えるよ。みんなも聞いてくれ」
俺の考えていることはこうだ。
何とかして敵の陣地に潜入する。
そこで可能な限り広い壁で四方を囲う。
さらにその後に人族の心の壁を消去する。
こうすることで敵の敵意を消し去り戦いを終わらせる。
「うふふ、すごく単純な作戦ですね。でもライトさんらしいです」
「ははは、リディアもそう思うか。でもさ、物事ってのは出来る限り単純にすべきなんだよ。俺の世界の偉い人もそう言ってたからね」
説明を終え、俺は改めてヨハン達に問う。
「頼む。どこに君達の部隊がいるか教えてくれ。俺の力があれば誰も傷付かずに戦いを終わらせることが出来る。そのためには君達の協力が必要なんだ」
「…………」
「分かりました……」
二人はお互いに頷き、地図に丸を書いていく。
まずは北、ここはピース村からも見えたな。
そして東と北東の全部で三ヶ所か。
「アシカは全部で三匹いるのか」
「はい。しかし北の部隊は囮です。北に気を取られている間に本隊である二部隊がここを攻める手はずになっています……」
北にいる奴らは囮とは言ったがオリハルコンの壁を突破出来る程に強い。
油断は出来ないだろう。
だが俺の考えている通りなら間違いなく勝てるはずだ。
――バンッ!
「よし! これから作戦を話す! そして本作戦をアシカ調教作戦と命名する!」
「ふざけてんのかニャ?」
「ぷ……。うふふ……」
あれ? アシカ作戦に対抗するための作戦だったのに。
テオとセタは呆れ顔をしており、妻達は笑っているんだが。
「いや、いたって真面目なんだが」
「もういい……。ほら、さっさと話さんか」
ちょっと納得出来なかったが、アシカ調教作戦について話し出す。
すると次第と皆の顔に笑顔が浮かんできた。
「ははは、なるほど。そこで私の薬が役に立つというわけか」
「グルルル。面白そうだ。ライトよ、私も連れていくのだぞ」
「あんまり危なくないなら私も行きたいのですが……」
「アーニャ姉は駄目だよ、ソラちゃんがお腹の中にいるんだから」
「お腹が空きましたね。二人も食べていきますか?」
「「は、はい……」」
作戦会議が一転、楽しい夕食会になってしまった。
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