第177話 捕虜
「うぅ……」
「ぐはっ……」
「ば、化物めが……」
いえ人間です。
俺の目の前には人族の兵士が倒れている。
こいつらは北の大陸にある国アーネンエルベから来た奴らだ。
ラカン村にいた奴らは囮であり、本当の狙いはピース村だったわけだ。
ふぅ、ギリギリ間に合ったみたいだな。
兵士達は俺のパンチやらキックを受けてダウンしている。
改めて俺って強くなったんだなぁと思う。
だが殴った時の手応えだが、こいつら異形並みに強いぞ。
人間なのにモンスター級に強い奴らか。やはり油断は出来ないな。
だが今回は敵も味方も死人は出ていないようで一安心。
っていうか倒れてる兵士の中に見たことがある顔が。
こいつはヴィルヘルムだろ? こいつはラカン村で自軍の砲撃を受けて死んだはずだ。
色々と気になることはあるが……。
「ライトさん、アーニャを出してあげないと」
「あ、そうだった」
しまった、すっかり忘れてたよ。
兵士に囲まれたアーニャを守るために彼女を壁で囲ったんだった。
それにしてもアーニャめ、万が一の時は無理はしちゃ駄目だって言ったのに。
後でお尻ペンペンだな。
そんなことを思いつつ、壁を消して愛する妻の一人との対面を果たす。
だがアーニャの様子を見ると、とても注意出来るような雰囲気ではなかった。
だって俺を見る目がハートなんだもん。
「ラ、ライト様。やっぱりライト様は私の救世主様なのですね……」
「う、うん。そう思ってくれるのは嬉しいけど……。とりあえず無事で良かったよ。怪我は無いか?」
見たところ傷は無いようだし、大丈夫だろう。
やはり夫として少し怒っておくことにした。
「アーニャ……。なんでこんな無茶なことをしたんだ。もう一人の体じゃないんだぞ」
「も、申し訳ありません……。しかしここはライト様と私達が作った我が家なんです。そう思うと体が勝手に動いてしまって」
うーん、気持ちは分かるけどなぁ。
まぁ終わってしまったことをクドクド言っても仕方ないか。
最後にアーニャには駄目だぞってことで可愛い鼻を「めっ!」ってしておいた。
「あー、いいなー。私にもして下さい!」
「ライトー。私も怒ってー」
「ならば私は荒縄で縛られるのをリクエストします。あれは良いものです」
シャニさん、ここで自分の性癖を暴露しないように。
しっかし、まさかオリハルコンの壁を粉々にするとは。
恐らくヴィルヘルムが使っているのは現代兵器に近いものだろう。
いやそれ以上の威力だな。
さて、そろそろヴィルヘルムにお話でも聞いてみるか。
俺の膝蹴りを鳩尾に受けて悶絶しているヴィルヘルムを見下ろす。
「ごほ……。な、何故お前はここにいるのだ……」
と苦しそうに聞いてくる。
どうやらポータルについては知られていないようだ。
壁の派生効果の一つ、ポータル作成。
ポータルを作れば村と村の間であれば瞬間移動が可能となる。
俺はラカン村の襲撃が罠であったことに気付き、即ピース村に戻って来たというわけだ。
だが敵に手の内を明かすわけにはいかないので適当に答えておく。
「まぁ神様からもらった力ってとこ。今度は俺が質問する。答えてもらうぞ」
まぁ答えてくれなくてもステータスは勝手に見ちゃうけどね。
俺も迂闊だった。先にステータスを見ておけばこいつの能力を把握することが出来たのに。
ラカン村では顎に大怪我を負ったヴィルヘルムは瞬く間に怪我を治していた。
それがこいつの力だと思ったのだが、恐らく違うのだろう。
まずはヴィルヘルムのステータスを確認してみる。
名前:ヴィルヘルム
年齢:???
種族:ヒューマン(遺伝子組み換え済み)
力:160 魔力:210
能力:
状態:心の壁
なるほど、分身を作れる能力だったか。
そして傷がすぐに治ったのは能力ではなく種族……いや遺伝子組み換えによって異常に早い回復速度を得たのだろう。
そしてこの高いステータス。うちの村民よりも高い。
これはまともにぶつかれば苦戦することになるだろう。
だがもっと気になることがある。
状態の欄に【心の壁】というものが存在しているのだ。
そういえば俺の力である壁なんだが、先日最後のレベルアップを果たした。
それが心の壁だった……んだが、物理的な壁ではなく、さらに天の声に聞いても何故か文字化けしてしまいどんな壁なのか分からず終いだった。
そしてヴィルヘルムはステータスに心の壁を持っている。
こいつに向かって発動したのはラカン村でオリハルコンの壁で閉じ込めた時だ。
心の壁を発動した覚えはない。
気になったので他の倒れている人間のステータスを見てみたが、やはり状態という項目には【心の壁】というものがあった。
分からないことだらけだが、まずはヴィルヘルムに質問するところから始めよう。
まぁこいつの正体は分かってはいるんだけどね。
「あんたさ、ドイツの人だろ?」
「…………」
答えなかった。だがその胸元についているカギ十字の勲章は間違えるはずはないよ。
それにラカン村でこいつが言った言葉にヒントがあった。
かつてのよしみ、それは恐らく日独伊三国同盟のことを言っているのだろう。
そしてヴィルヘルムの分身が死ぬ前に言った言葉。アシカは一頭ではない。
これはドイツがイギリス本土に上陸し攻撃するというアシカ作戦のことを言っているのだと気付いた。
まぁ全てはカギ十字を見て気付いたことなんだけどね。
ヴィルヘルムの正体。それは言うまでもなく第二次世界大戦の頃のドイツの人間であり、恐怖政治をしていた悪名高きあの組織に属する者だろう。
たしか親衛隊にヴィルヘルムという名前があったような気がする。
「何も言うつもりはない……。別に殺しても構わんぞ。私は所詮分体だ。死んだとしても本体が生きていれさえすれば何の問題も無い」
と強がりを言う。
でも知ってるんだよね。分体とはいえ感情は人間そのものであり、恐怖だって感じる。
ラカン村では漏らしてたじゃん。しかも今もちょっと震えてるし。
俺はあんたらがしたみたいに敵側の人間に酷いことをするつもりはないよ。もちろん抵抗しないってのが前提だけどな。
「別に言わなくてもいいさ。だがこのままあんたらを逃がす程俺はお人好しじゃない。少し反省してもらうぞ」
俺はその場で壁を発動し、簡素な建物……っていうか牢屋を建てる。
その中に入っててもらうことにした。
「この人達をどうするんですか?」
とリディアが聞いてくる。
うーん、実はちょっと迷ってる。
なるべく情報とかを聞き出したいんだけど、話してくれるか微妙だな。
「とりあえず捕虜として大人しくしててもらおう」
「捕虜ですか。拷問で口を割らせる技術ならありますが、やりましょうか?」
「私も得意だよー」
こらシャニとリリ、怖いこと言うんじゃないよ。
二人は暗殺部隊の出身だから拷問とかも慣れてるんだろうなぁ。
一先ずはヴィルヘルム達百人近い人間は牢屋で反省してもらうことに。
その後、一度ラカン村に戻り村民に指示を出してからピース村で過ごすことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます