第171話 ラカン村へ

 家族と一日過ごし、しっかりと愛を充電出来た翌日。

 俺達はこれからラカン村に向かう。

 準備はもう終わっているので最後に留守番をするアーニャに伝えておいた。


「すまん。時々ここには戻ってくるつもりだが、何かあったらすぐに人を寄越してくれ」

「はい……。寂しいですけど私も頑張ります……」


 こら、泣かないでくれよ。

 行くのが辛くなるだろ。

 彼女の目元を拭いてからキスをしておいた。


 次はシャニが胸に抱く我が子をアーニャに渡す。

 

「私は授乳のために戻ってきますが、この子の世話はあまり出来ません。申し訳ないのですが」

「ふふ、気にしないで。ジュンちゃん、ママが帰ってくるまで遊んであげるからね」

「んあー」


 シャニは夜だけは自宅に戻るつもりだ。

 やはり産まれたばかりの我が子と過ごしたいだろうに。

 俺もシャニに残るよう言ったのだが、相手は訓練された人間の兵士だ。

 異形とは違う戦い方が必要であり、そのためには自分が行くべきと俺達とラカン村に出向くことにした。


「ママ、さみしいのー」

「ミライ、アーニャママの言うことを聞いていい子にしてるのよ」


 ミライも連れてはいけないのでかわいそうだがお留守番だ。

 リディアも折を見てピース村に戻るそうだ。

 

 俺もミライとジュンに会いたいのだが、帰る時間はあるだろうか?

 最後にジュンを抱かせてもらった。

 

「んあー。あぶー」

「ジュン。ごめんな、そばにいてあげられなくて」


 ジュンを抱きながら頭や頬を撫でる。

 可愛いなぁ。ずっと抱いていたい気分だよ。

 でもな、父ちゃんはジュンが安心して暮らせるように頑張ってくるから。

 帰ってきたらたくさん遊んであげるからな。


 ジュンのおでこにキスをしてからアーニャに渡す。

 そしてアーニャはこんなことを言ってきた。


「あ、あの……。まだ早いとは思うのですが、この子に名前をつけてはくれないでしょうか?」


 名前かー。実は流れでそうなるんじゃないかと思って前もって考えてたんだよな。

 まだ性別は分からないので、男女両方で使える名前にしたんだ。


「ソラ……。これでいいかな?」


 空ってことだ。

 アーニャのように透き通った美しい心を持ってもらいたい。

 晴れた日の青空みたいにね。


「ソラですか? ふふ、可愛い名前ですね。ソラ、良かったですね。お父さんが名前をつけてくれましたよ」


 と言ってアーニャは少しだけ大きくなったお腹を撫でていた。

 最後にしっかりとアーニャを抱きしめる。


「行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 そして家を出てラカン村に繋がるポータルを潜る。


 ――ブゥンッ


 いつものように一瞬でラカン村に到着した。

 だがラカン村は既に厳戒態勢といった雰囲気で商売をしている村民はおらず、代わりに武装した者が村を歩いている。

 つい最近までは観光をメインにした村だったのになぁ。

 こんなことになるとは思ってもみなかったよ。


「グルル、遅いぞ」

「デュパか。もう来てたんだな」


 デュパも槍を持って立っていた。

 彼も今回の防衛に参加すると昨日言ってきてな。


「セタも来ている。案内しよう」


 デュパはとある建物に向かう。

 ここは……。宿だな。

 先日海水浴を楽しむために旅行に来た時に泊まった宿だ。

 今は指令本部として使われているのか。


 一番大きな部屋にセタはいると店主は言う。

 彼も残っていたんだな。

 俺は礼を言ってセタがいる部屋に向かった。


「来たか。まぁ座れ」

「おはようニャ」

「テオ? もう傷は大丈夫なのか?」


 結構重症だと思ってたんだが、今は元気そうだ。 

 毛の艶もいい。


「心配ないニャ」

「そういうことだ。それでは現状を説明する」


 セタが話し出す。

 今ラカン村には2000人近くの村民が集まっている。

 しかし彼らはセタが選び抜いた特に戦いに特化した者達だ。

 加えてシャニが鍛えた猫人の若者が500人、テオの配下の兵士が500人と総勢3000名の兵士が配備されていると。


「数は少ないが個々が一騎当千の強者達だ。私が所有していたエメンアンキ王国軍より強大な力を持つ最強の部隊となろう」

「確かにあの強さはインチキニャ」


 とテオは言う。

 まぁ村が大きくなる度に村民もレベルアップしてたからな。

 

「他にもカタパルト砲を100基配備してあるよ」

「いつの間に……。さすがはリリだ。助かるよ」


 リリが言うには兵器廠担当の村民に頼み込んで、急ピッチで仕上げてもらったそうだ。

 カタパルト砲の有効範囲は1㎞を超えるからな。

 魔法でも届かない位置から一方的に攻撃出来る。

 敵が目視出来たらバンバンカタパルト砲を撃てば上陸は防げるかもな。

 唯一の弱点は連射が出来ないことくらいだ。


「大まかな作戦としてはこれでいいかな?」


 特に軍略とかに精通しているわけではないが、俺だって異形との戦いでそれなりに経験はしてきたからな。

 身を守りつつ遠距離から攻撃するのが一番良い方法だと思っている。


 作戦を説明すると皆頷いてくれた。

 つまり敵が異形だろうが人だろうが今まで通り戦えばいいってことさ。


 ――スッ


 ん? セタが手を上げたぞ。

 質問でもあるのかな?


「だが相手は人間だ。話は通じるだろう。まずは交渉をしてみたい」

「交渉? でも猫島を無差別に支配した奴らだぞ。話を聞いてくれるのか?」


「ははは、それはやってみないと分からん。だがいきなり攻撃するのは愚策だぞ。交渉で軍を引いてくれれば戦わずに勝つことも出来る」


 へー、セタも戦慣れしてるのかも。

 孫子も同じことを言ってたような気がする。

 確かに相手は人だもんな。

 異形と違い理性はあるはずだし。  


「それに猫島にいる者だが恐らくは顔見知りだ。昔話の一つでもしてやろうと思ってな」

「多分ヴィルヘルムニャ」


 テオも知ってる相手なのか?

 ヴィルヘルムか、中々カッコいい名前だな。

 ヨーロッパ系の名前かな?


 とりあえず今はセタの提案を受けることにした。

 話し合いは終わり、俺達は用意された部屋に荷物を置く。

 いつもだったらここで妻達とイチャイチャ始めるのだが、さすがに戦いの前なのでそんな気分にはなれなかった。


 しかし世界が変わっても戦争ってのは無くならないもんだなぁ。


「はぁ……」

「あれ? ため息なんてついちゃって。ライトさんらしくありませんよ」


 とリディアは笑顔で俺の頬を撫でてくれた。


「ごめんな。なんで戦争が無くならないのか考えるとね」

「ライトさんの世界でも戦争があったんですか?」


 あったどころか地球では毎日のように争ってるよ。

 人の歴史は戦いの歴史だからね。


 そして日本は唯一、核という人が産み出した最も強力で、最も愚かな兵器の犠牲者でもある。

 子供の時にじいさんからその話を聞かされね。

 ガキではあったが戦争の愚かさを深く考えるようになった。


「このまま平和な時がずっと続けばいいんだけど」

「ライト殿ならその世界を作り出せます」


 とシャニが言ってくれた。

 俺が? 壁しか作れないエッチなおじさんだぞ?

 俺はそんな御大層な男じゃないよ。


「いいえ、ライト殿はこの世界に蔓延る忌まわしき偏見を無くしてくれました。私達がその証拠です」

「そうだよ! 分からない? ライトがいてくれるからみんなは仲良く暮らしていけるの。元々王都は表面上は争いは無かったけど、私達のような者は基本的に無視されて生きてきたの。でも今はそんなこと関係無いってみんな思ってくれてる。それを作り出したのはライトなの」


 リリも思っていることを伝えてくれた。

 ははは、妻達がそう思ってくれてるなら、期待に応えるのが旦那の役目なのかもな!

 

「分かったよ。俺にどこまで出来るか分からないけど争いの無い世の中を作ってみせる。でもな、やっぱりそれはついでだな。俺がやりたいのはリディア、アーニャ、シャニ、リリとそして子供達。いつまでも仲良く暮らしていけるようにするのが一番の目的だからね」

「ライトさーん!」

「ライト殿、抱いて下さい」

「今すぐ孕ましてー!」


 なんか妻達に襲われてしまった。

 そしてその翌日……。


 海の向こうから大船団がやってくるのだった。

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