第168話 防衛計画
シャニがジュンを産んでくれた翌日。
俺は魔王セタの声で目を覚ました。
リビングに出ると、そこにいたのはセタだけではなく、全身傷だらけの猫人の王テオも立っていた。
その姿から只事ではないと思った。
「ライトよ、猫島が壊滅した」
「え? い、一体何が……?」
テオは悲しげな目をして言った。
「人間ニャ。ヨーゼフが攻めてきたニャ」
人間が……。
とうとう動きだしたのか。
しかし俺の予想とは違っていた。
てっきり北から攻めてくると思ったのだが、まさか海路を使ってくるとは。
テオが住む猫島が襲われた。ならばラカン村が危ない。
第三の村であるラカン村は猫島から船で一日で着く距離にあるのだ。
「その心配は無い。村民は全て避難させた。代わりに腕の立つ村民と猫人の兵士を配置してある」
「それと猫島にあるポータルは破壊してきたニャ」
そ、そうだった。
村民以外がポータルを使えるかは謎だが、万が一人間達がポータルを使えばピース村は一瞬で戦場になってしまうからな。
「テオよ、とにかく今は休め。その傷ではまともに立つことも出来ぬであろう。アーニャよ、テオの手当てを頼む」
「すまんニャ……」
テオはアーニャに抱っこされ空き部屋に運ばれていった。
アーニャの作る薬は効果が高いからすぐに良くなるだろう。
アーニャが戻ってきたところでリディアとリリも買い物から帰ってきた。
彼女達にも伝えなくちゃいけないな。
リディア達がソファーに座ったところで俺は口を開く。
「アーニャは知っていると思うが説明させてくれ」
「は、はい」
リディアは只事ではないことを察したようだ。
張りつめた空気がリビングに漂う。
「人族が攻めてきた。奴らテオの国を壊滅させたそうだ」
「そ、そんな……」
今度はリリが言葉を詰まらせる。
そうだよな。俺達は北から来るであろうヨーゼフ達に警戒していたんだ。
だがまさか海路を使って攻めてくるとは考えもしなかったよ。
今のところラカン村の村民は避難させてある。
そしてセタが機転をきかせてくれたようで猫人の兵士とピース村からは腕の立つ者を配備させている。
「こ、これからどうなるのでしょう……。で、でも私も戦います! みんなを守らなければ!」
とアーニャは不安そうにだが勇敢に俺に話しかけてきた。
気持ちは嬉しいがアーニャは参加させられない。
なぜならアーニャは俺の子を妊娠しているからだ。
今の彼女に無理はさせられないさ。
だが俺が言う前にリディア達がアーニャを止めてくれた。
「駄目よ。アーニャはお腹の中に赤ちゃんがいるのよ。この子はあなただけじゃなくて私の子でもあるの。だから私達に任せて欲しいの」
「リディア
「で、でも……」
やはり納得は出来ないか。
アーニャはこう見えても勇敢だし、なにより俺達の中でも最強の一角だ。
実際異形殲滅作戦の時は大活躍してくれたしな。
「アーニャ姉、心配しないで下さい。私が代わりに行きます」
ん? この声はシャニ?
振り向くとシャニはジュンを抱いて二階から降りてきた。
タ、タフだなぁ。昨日ジュンを産んだばかりなのに、もう動けるとは。
「おぉ、シャニではないか。その子がお前の子か? どれ、抱かせてもらおうか」
セタはシャニからジュンを受け取り、優しく抱いてくれた。
「これはまた愛らしい子だな。ジュンよ、私のことを祖母と思ってくれて良いのだぞ」
「んあー。んあー」
あらら、泣き出しちゃったよ。
シャニはジュンにおっぱいをあげながらアーニャに話す。
「私はもう動けます。後二日もすれば以前と同じように戦えるでしょう。ですがその間だけジュンの世話を任せたいのです」
「えぇ、それは問題無いけど……。ふふ、分かりました」
アーニャは諦めたように笑う。
そうそう、俺達は家族なんだからさ。
産まれてくる我が子のためにも今は大人しくしててくれ。
さてと、それではラカン村をどう守るか考えないとな。
詳しい話はテオから説明を受けたセタが答えてくれた。
人族の国アーネンエルベは強大な軍事力を誇るそうだ。
なんでも魔力を動力源とする船を扱っているらしく、高い波をものともせずに攻めてきたらしい。
「それだけではない。私も聞いた話なので未だに信じられぬのだが……。人族の強さたるや、以前のものとは比べ物にならぬらしい」
セタが言うにはこの世界の人間はそこまで強い種族ではないとのことだ。
しかし人の強さの本質は個人の力によるものではなかったそうで。
とにかく数が多く、圧倒的な物量で相手を食らい尽くすのが人族の戦い方だったそうだ。
だが今回攻めてきた人族はうちの村民レベルに強かったらしい。
高いステータスを誇る猫人でさて歯が立たなかったそうだ。
実際テオも戦ったが、その体には大きな傷を負ってしまうほどに。
「此度は私も行くぞ」
「あんたが? しかし……」
セタは共にラカン村に向かうことを提案してきた。
彼女の力は理解している。
異形討伐の時もお得意の闇魔法で俺達と共に戦ってくれた。
おそらく遠距離ならば彼女に敵う者はいないだろう。
しかしだな、今の彼女は俺に代わってラベレ村を治める役目をしてもらっている。
村民も彼女を統治者として慕っているし、その彼女が自ら危ない役を買って出るのはどうかと……。
「ははは、そんな顔をするな。人族に出会ってもいきなりは戦わぬさ。それに奴らは戦慣れをしている。ラカン村の海岸に上陸した時はまずは交渉に持ち込んでくるはずだ。その時は私もいたほうがいいだろう」
「なるほど、交渉か」
そういえば一番良い戦争ってのは戦わずに勝つことらしいからな。
そんなことを孫子の兵法でも書いてあったような気がする。
「だがその交渉ってのが決裂したら?」
「その時は戦うだけだ」
ですよねー。結局はそうなるよなぁ。
まぁ戦う相手が異形から人族に変わっただけだ。
俺達がやることは変わらんよ。
「ライト様、一つお聞きします」
ん? 今度はアーニャが話しかけてきたぞ。
やっぱり行きたいとか言わないよな?
「相手はライト様と同じ種族です。彼らを相手に戦うのはお辛くないでしょうか?」
同じ種族ねぇ。
そりゃ相手が人間ならば確かに思うところはある。
これまでは異形っていう化物が相手だったから遠慮なく戦ってこられた。
平和な日本で産まれ育ってきた俺に人を殺せるのだろうか?
いや出来るな。
「辛いと言ったら嘘になるかもしれない。だが俺が守るべきは家族、そして村民達だ。だからそんな心配はしなくていいよ」
「ライト様……」
俺の決意を聞いてみんな安心してくれたようだ。
――ピコーンッ
ん? 久々にこの音を聞いたな。
アーニャが妊娠した時以来だ。
しばらくレベルアップもしてないし、新しい力とかゲット出来るのかな?
【村民満足度、配偶者満足度がカウンターストップしました。心の壁が限界突破します】
心の壁? 確かに以前そんな壁をゲットしてたかな。
でも物理的なものではないし、特に使ったことはなかった。
どういう効果があるのだろうか?
天の声さん、心の壁って何?
【菴墓η腐ε縺薙l縺ξ瑚ェュ繧√k】
文字化けしてるんですけど。
結局どんな効果なのかは分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます