第164話 猫ニート

 ――ザザーン ザザーン


 俺は今海を渡っている。

 ここは猫人の王テオ所有の帆船の中だ。


 これから猫人が住む島に行ってポータルを作るという仕事があるからだ。

 だがやはりといったところ。

 酷い船酔いになってしまい、ベッドから出られないのだ。


「だらしないニャ。これしきの波で船酔いになるなんて」

「うるせえよ……。オ、オロロロロ……」


 何度バケツに吐いたことだろうか。

 もう胃液しか出てこないんですけど。

 くそ、まだ着かないのかよ。

 このままじゃ吐きすぎて体中の水分が……。


 なんて死を覚悟したところで甲板から声が聞こえてきた。


「もうすぐ着きますニャー」


 マ、マジか。

 早く陸に上がりたい。

 もう二度と船には乗らんぞ。


 なんて決意をしつつ、さらにもう二回吐いたところでようやく島に到着した。

 船を降りて地面に立つ。

 おぉ、揺れてないことがこんなに嬉しいとは。


 なんてことを思いつつ辺りを眺める。

 見た目は南国の島みたいな感じだな。

 白い砂浜にヤシみたいな木が生えており、それには大きな木の実が生っている。


「土地は肥えてるみたいだな」

「とりあえず食うには困っていないのニャ。さぁライトよ、ついてくるのニャ!」


 テオは先導して歩き出す。

 彼についていくと、深い森に入りしばらく歩いていると木々の密度が薄くなってきた。

 そして見えてきたのは……。


「へぇ、結構栄えてるんだな」


 石造りの家屋に整備された道。

 家屋、商店は整然と並び、どこぞのヨーロッパを思い起こさせる風景だ。

 よくナー◯ッパなんて造語を聞くが猫の国だしニャーロッパとでも言うべきだろうか。


 だが少し違和感を感じる。

 商店で働いている者、買い物に来ている者、道を歩いている者、全ての者は毛の艶が無く、元気が無い。

 飼ってた猫が死んでしまう前、こんな姿だったのを思い出した。


「テオ、この人達って……」

「そうだニャ。ここにいるほとんどの者が老人だニャ」


 やっぱり。ならテオの言ってた通り、かなり高齢化が進んでいるんだな。

 なら国を支える若い衆はどこにいるんだろうか?

 テオの話では若い衆は働かずにほとんどニートみたいな生活をしていると言っていたのだが。


「こっちニャ」


 テオはまた歩き出す。

 彼についていくと日当たりの良い広場があり、そこで多くの猫人が横になっていた。

 これが若い猫人達なのか。テオは働かない怠け者だと言ったが、猫としてはこれがある意味正しい姿なのかなぁなんて思ってみたり。

 猫って一日のほとんどを寝て過ごすもんね。

 寝る子がネコという名前の語源になったなんて説もあるくらいだし。


「恥ずかしいことだが、彼らが働けるようにならなければ我が国は終わりニャ……。ライトよ、頼むニャ。こいつらをやる気にさせて欲しいのニャ」

「分かった。とりあえず今日はポータルだけ作ってから一旦帰るよ。あんたは若い衆を連れてきてくれればいい。彼らが住む家も作らなくちゃいけないからな。そうだな……。三日後にピース村に来てくれ」


 俺は村の静かな一画で壁を発動。

 10m×10m程度の土地を壁で囲う。

 

 ――ピコーンッ


【未所有の土地が一定時間壁で囲まれました。これらの土地を敷地にしますか?】

(YES。敷地内にポータルを作成。行き先はピース村に設定)


【受け付け完了】


 ――ブゥンッ


 音を立ててポータルが現れる。

 これで猫島と大陸が繋がったというわけだ。


「こ、これが異邦人の力……。この渦に入ればライトの村に行けるのかニャ?」

「あぁ。これからは気軽に遊びに来てくれ。ミライはあんたのことが好きみたいだからな」


「承知した。では三日後に伺うニャ」


 俺はテオに別れを告げてからポータルを潜る。

 リディア達から一日遅れでピース村に帰ってきた。

 ふぅ、何気に疲れたな。やはり慣れない船に乗ったせいか、普段とは違う疲れ方をしたようだ。


 自宅に戻るとミライが嬉しそうに出迎えてくれた。


「ちちー。お帰りなさいなのー」

「パパな。ごめんな、遅くなって」


 ミライを抱っこしてソファーに座るとキッチンからシャニがコーヒーを持ってきてくれた。


「お帰りなさい、ライト殿。猫人はどうなりましたか?」

「あぁ、三日後には若い衆を連れてこっちに来るってさ。そうだ、相談に乗ってくれるか? 猫人にも仕事をしてもらおうと思うんだが、どんな仕事がいいと思う?」


「ならばピース村の守備隊として動いてもらうのが最善かと」

「守備隊? 猫だぞ。そんなこと出来るの?」


 猫人は体が小さくとても強いようには見えない。

 見た目はほとんど猫なのだ。

 そんな彼らに防衛など務まるのだろうか?


「彼らの力は私が率いていた暗殺部隊と同じくらいの戦闘力を誇ります」

「マジかよ。ま、まぁシャニが言うんだから本当なんだろうな……」


 そういえばテオのステータスを確認していなかったな。

 今度来た時に見てみるとするか。



◇◆◇



 そして三日後。俺はピース村の壁を増設する仕事を終え家路に着く。

 だが中央にある商店街には多くの村民達が集まっていた。

 

「ニャー。この魚美味しそうだニャー」

「こっちのパンも食べたいニャー」

「こら、お前達、道草を食っている暇は無いのニャー」


 ――ニャーニャーニャー


 なんかニャーニャーうるさいんですけど。

 そうか、猫人が来たんだな。

 その中に一際艶やかな毛をした猫人がいる。

 ロシアンブルーが立って歩いている姿。

 猫人の王、テオが来たんだ。


「テオ、よく来たな」

「出迎えに感謝するニャ。若者を1000人程連れて来たニャ。彼らの世話を頼むニャ」


「あぁ。家はもう作ってある。とりあえず今はゆっくりさせてあげてくれ」


 新たに作った住居に案内する。

 家具なんかも最低限用意しておいた。

 猫人は尻尾をフリフリさせながら自分達が住む家へと入って……でもすぐに横になる姿が見えたんだが。


「やっぱり猫だなぁ」

「寝るのが三度の飯より好きだからニャ」


 とりあえず責任者同士話をしないと。

 テオには俺の家に来てもらうことにした。


 家に着くなりテオはミライからの熱烈な歓迎を受けることに。


「ネコちゃんなのー。かわいいのー」

「こ、こら、止めるのニャ。シャーってするのニャ」


 困りながらも戯れるテオのステータスをこっそり見てみることに。

 本当に強いのかなぁ。



名前:テオ

年齢:???

種族:カジート

力:120 魔力:200

能力:火魔法 



 うぉ……。本当に強かった。

 ちなみにシャニのステータスと比べてみるとこんな感じだ。



名前:シャニ

年齢:???

種族:コボルト(亜種)

力:250 魔力:150

能力:隠密

配偶者満足度:カウンターストップ



 シャニは最強の一角なのでさすがといったところだが、猫人はピース村の一般的な村民よりも遥かに強い力を持つ。

 これは戦力になるな。


 俺はテオにコーヒーを出し、これから猫人に何をしてもらうかを話すことに。


「熱くて飲めニャい」

「猫舌だもんな。冷めるまで待っててくれ。でさ、猫人にはピース村で何をしてもらうか考えたんだ。北の大陸のことは知ってるか?」


「もちろん。ヨーゼフだニャ?」


 知ってたのか。

 いや、むしろテオもかつてセタと共に魔王ハーンとの戦いに参加していたらしい。

 しかしセタと同じようにヨーゼフという男の力を見抜けなかったそうだ。


「未だに信じられニャいが、南の大陸を狙っているとは……。しかし友の過ちを正すのもかつての仲間の仕事ニャ。我らの力を使って欲しいニャ」

「そうか、ありがとな」


 その後シャニを交え、防衛隊の設立の話を進め、さらに国交の樹立を約束した。

 まぁ商売をするだけなんだけどな。

 猫島には大陸で採れないような果物があるらしく、こちらからは穀物なんかを売ることになる。


 こうして俺達は新しい仲間を得ることが出来たのだった。

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