第163話 猫人

「おぉ、久しいな、テオ。猫人の王よ」

「あんたも生きたのニャ。相変わらず魔族はしぶといニャ」


 突如現れた猫人……。俺達は釣り大会を終え、浜辺でお魚バーベキューを楽しんでいた。

 そしたらいつの間にか彼……いや彼女なのかもしれないが、猫人が横にいたんだ。

 種族としてはカジートのようだが、俺にはちょっと大きい猫にしか見えない。

 初めて見る種族だな。


 それにしてもこの猫人はセタと面識があり、さらには王と呼ばれた。

 このロシアンブルーみたいな猫が王様なの?


「わーい、フワフワでかわいいのー」


 ミライは初めて見る猫に興奮してしまいテオに抱きついた。


「ニャニャ。止めるのニャ。シャーって怒っちゃうニャ」

「いいではないか。少しくらい触らせてやれ」


 テオはちょっと嫌そうだったが、セタにお願いされたので仕方なくミライにもみくちゃにされていた。

 でも顎を撫でられるのは気持ちよさそうにも見えなくはない。


「ゴロゴロ……。な、中々のテクニシャンだニャ」

「それはそうと、一体どうしたのだ。今になって現れよって」


「それはこっちの台詞ニャ!」


 とテオは怒る。あ、ミライが驚いて泣き始めてしまった。

 

「な、泣かないで欲しいのニャ。ほら、肉球でプニプニしてあげるのニャ」

「やわらかいのー。きもちいいのー」


 意外と面倒見の良い王様だな。

 テオはミライをあやした後、セタに文句を言い始める。

 かつてテオはセタが治める王都エテメンアンキと商売をしていた。

 だが異形が現れたことにより、身の安全を守るため国交は断絶。

 もちろんテオはセタを助けようとはしたが一族を守るため、泣く泣く自分達が住む島に引きこもるしか術が無かったらしい。

 

「だが最近になって異形がいなくなったニャ。それだけじゃなくて、海岸にも村が出来たニャ」

「それで偵察に来たというわけか」


「そういうことニャ。みんなー、出てきてもいいニャー」

「「「ニャー」」」


 なんか岩陰から猫がたくさん出てきたんだけど。

 お付きの兵士とかなのだろうか?

 器用に槍なんか持ってたりするしな。


「お前は異邦人なのかニャ?」

「あ、あぁ。俺は来人という。よろしくな」


「やはり……。そこでお前に頼みたいことがあるニャ」


 頼みだって?

 まぁセタとも面識があるようだし、ミライにも良くしてくれたし。

 俺はこいつを嫌いじゃない。

 あまり無理なことは出来ないが話を聞いてやることぐらいは出来るかな。


「だけど俺の力って大したことないぞ。壁を作ることだけだしさ」

「充分凄いと思うぞ。テオよ、ライトは伝承に聞く異邦人より強い力を持つ。お前の助けになってくれるはずだ」


 セタはこんなことを言ってハードルを上げるんですけど。

 テオのお願いが実現不可能ならどうするつもりなんだよ。


「うーん、とにかく俺に出来ることなら力になるよ」

「そうかニャ。実は……」


 ポツポツとテオは話し出す。

 それは結構ヤバい問題だった。

 彼の話では今猫人の島では人口……いや、この場合猫口になるのか?

 いや、それはどうでもいい。

 とにかく人口が減ってしまい、働き手がおらずに困っているそうで。

 要は少子高齢化だ。島で生産作業をしている多くは老人であり、ここままでは後100年も経たない内に猫人はほとんどが死んでしまうと。


 しかし何でまたそんな状況になってしまったのだろうか?


「新しい文化が入ってこなかったからニャ」

「文化が? どういうこと?」


「我ら猫人は自分達で新しい物を産み出すのが苦手なのニャ。昔はセタと商いをすることで書や歌、娯楽なんかの新しい文化を吸収出来たのニャ。しかし王都がなくなり我らは島に閉ざされたニャ。要はみんな退屈しちゃったのニャ」

「へぇー、それでみんなやる気がなくなっちゃったと」


 でも分からなくはないかな。

 文化が発展しなければ国の成長は止まる、その逆もまた然り。

 国が栄えれば文化も発展していくってどこかで聞いたことがある。

 要はつまらない日常を送る中で人口は徐々に減っていき、若い衆はほとんどニートと化しているそうだ。

 

「そりゃヤバいな」

「それだけじゃないのニャ」


「まだあんのかよ」

「そ、そんなこと言わないで欲しいニャ。しばらく若い衆をお前の村で預かって欲しいのニャ。この村を見れば分かるニャ。ここは新しい文化で満ち溢れているニャ」

  

 なんかニャーニャーうるさいので要約する。

 つまりは若者を一旦移住させてやる気にさせろってことだろ?


「そんな感じニャ」

「分かった。それなら別にいいぞ。でも言っておいてくれよ。俺の村に無駄飯食らいはいらないって。住むなら死ぬ気で働いてもらうってな」


 とりあえず若い猫人を預かることで話が決まった。

 他にも働き手を確保するために一度島に来て欲しいとも言ってたな。

 それについては俺が猫人の島に着いてからポータルを作れば瞬間移動は可能だから問題無い。

 ピース村に戻る前に一度島に寄ってから帰ることになった。


 でも海を渡るのかー。

 別に泳げないわけではないがちょっと心配だな。

 俺の心配を他所に、急遽バーベキュー大会に参加する猫人達は美味しそうに魚を食べていた。



◇◆◇



「ライトさーん、早く戻ってきて下さいねー」

「はいよ。それじゃ気をつけてな」


 その翌日、リディア達は先にピース村に帰る。

 俺はこれから猫人が住む島に向かい、ポータルを作りに行くのだ。


「それでは行くのニャ」

「あぁ。でもさ、俺は船が苦手でさ。酔ったりしないかな?」


 学生時代フェリーに乗って北海道に行ったことがあるんだが、その時は酷い船酔いに襲われてね。

 一日中トイレから出られなかった覚えがある。


「大丈夫ニャ。船には揺れを抑えるよう魔法陣を組み込んであるニャ」

「へー、さすが異世界。なら安心かな」


「でも海が荒れてたら全く役に立たないニャ」

「やっぱり帰っていいかな?」


 しかし俺は強引に船に乗せられてしまい、早々に船酔いでダウンすることとなり、もう船には乗らないと固く決心するのだった。

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