第161話 チキチキ! チーム対抗釣り大会ー!

 宿で昼食を食べた後、俺達は店主に教えられた岩場へと向かう。

 ここはビーチとは違い観光客もいない岩だらけの海岸だ。


 へー、ラカン村の近くにこんなところもあったんだな。

 

「ミライね、おおきなお魚をつるのー」

「ふふ、期待してるわね」


 なんてリディア達は楽しそうに話している。

 うーん、俺は魚は食べるのが専門でねぇ。

 釣りは得意じゃないんだ。


「ねぇライト、せっかくだから勝負しない?」


 なんてことを言いやがる。

 くそ、リリめ。俺が釣りが下手くそなことを知ってて勝負を挑んできやがった。

 しかし俺は大和男児。挑まれた勝負から背を向けるわけにはいかん!


「いいだろう。俺の本当の実力を……」

「よし! 言質とった! みんなー、後で何をしてもらおっかー」


 っておい!? 俺が負ける前提で話を進めるんじゃないよ!


 妻達は集まってゴニョゴニョと話をしている。

 どうやらやって欲しいことがまとまったようだ。


「グルル、睦まじい夫婦だと思ったが、意外と舐められているのだな」

「うるせえよ」


 と釣り大会に参加することになったデュパは言う。

 ちなみにセタは午後はナンパしたメンズ達とイチャイチャ楽しむらしく不参加となった。

 あの魔王様、本当に自由だな。


 むむむ、これは不味い。

 このままでは俺の一人負けが決定してしまう。

 ならばこんなのはどうだ!?


「あ、あのさ。せっかくだから人数がいるんだからチーム対抗戦にしないか?」

「チーム戦ですか? いいですよ!」

「ライト殿のことは愛していますが、釣りに関してはチームメイトに加えたくありません」


 ちょっとシャニさん? なんてこと言うの!

 ここは公平にグーパーでチーム決めをすることにした。


「よし、準備はいいか……?」

「はい! せーの!」


 アーニャが掛け声を出す!

 どっちを出すべきだ!? ええい、グーだ!


「「グー!」」

「「「「パーッ!」」」」


 ん? グーを出したのは俺と……。


「グルル。足を引っ張るなよ」


 蜥蜴のおっさんだった。

 俺の相棒はデュパになった。

 その後リディア、アーニャペア。

 シャニ、リリペアが決まり、ミライはリディア達と一緒に釣りをすることになる。


 ここで簡単にはルールを決めておく。

 制限時間は三時間。勝敗は二つの部門別で決めることになった。

 一つは大物部門。数ではなく、単純に大きな魚を釣ったチームが勝つ。

 そして釣果数部門だ。とにかく多く釣ったチームの勝利とした。


「……以上がルールとなる。何か質問は?」

「特には。それでは始めましょう」


 各自釣竿を持って、狙ったポイントへと散っていった。

 さぁ、それでは俺達も釣るかな。

 いや、釣るのはデュパだけなんだが。


「どうして竿を持たん?」

「必要無いだろ? だってデュパは水産関係のプロなんだからさ。魚の百匹や二百匹軽いもんだろ?」


 こいつはラベレ村、そしてピース村にある養殖場を運営してもらっている。

 それ以前に滝の湖で長年住んでいた。

 魚については彼以上に詳しい者はいないだろう。

 だと思ったんだけどねぇ……。


「グルル、忘れたか。私達は釣りなどしたことがないぞ。魚は銛で突くものだ」

「デスヨネー」


 そういえばそんなことも言ってたわ。

 リザードマンは泳ぎが達者で、強靭な肺活量で長いこと水に潜っていられるんだった。

 こうなりゃデュパには海に潜ってきてもらうか?


「それは釣りではなかろう」

「だよなぁ。はぁ、仕方ないか……」


 俺は諦めつつ、蜥蜴のおっさんと共に釣糸を垂らすのだった。


 ――二時間後。


「なんだ、ここには魚はいないのではないか?」

「だなぁ……」


 一向に当たりが来ない。 

 俺達はただ波の音を聞きつつ、釣糸を垂らし続けていた。

 まぁ魚がいないってことはないな。

 だってさっきから俺達を馬鹿にするように竿の先で魚が跳ねてるし。


 ヤバいぞ、このまま何も釣れなかったら父として、夫としての面子が……。

 

 ――ビンッ!


「グルル! フイッーシュ!」


 おいデュパ、どこでそんな言葉を覚えてきたんだよ。

 しかしデュパの竿は大きくしなっている。

 これは大物だ! 


「デュパ! 絶対に釣ってくれ! そしてその魚は俺が釣ったことにしてくれ!」

「グルル! アホか! いいからお前も手伝え!」

    

 ――グググッ…… グイィッ!


 よっしゃー! 釣れた……んだけど、思ったより小さかったな。

 デュパは釣れた魚の口から糸を外す。

 えーっとこの魚は……。


「アジだね」

「グルル。私はフライが好きだ」


 うん、アジフライは美味しいよね。

 って違うから! こんな小さなアジじゃ勝てないって!

 しかもこの二時間で釣れた魚はアジ一匹ときたもんだ。

  

「どうする? もう諦めるか?」

「デュパ君。俺の世界ではな、こんな諺があるんだ。諦めたらそこで試合終了だってな……」


 俺の脳裏には太った丸顔、眼鏡をかけた白髪の先生の顔が思い浮かぶ。

 まだ時間はある。戦い方を変えよう。


「まずは情報収集からだ。リディア達を偵察に行くぞ」

「グルル」


 デュパと共にリディア達がいる浜に向かう。

 岩場からこっそりと彼女達を見てみると……。


「やったー! また釣れたわー!」

「リディアさん、すごいです!」

「ママ、すごいのー」


 なんかマグロみたいな魚釣ってるんですけど。

 300キロくらいある大物なんですけど。


「負けたな」

「ま、まだだ。シャニ達がボウズならワンチャン二位になれるかも」


 俺は諦めない。

 きっとシャニ達も苦戦しているはず。

 彼女達の釣果を確認してから釣りを続ければまだ勝てるかも……。


 今度はシャニ達を偵察に行くのだが。


 ――ブンッ パシャッ


「ふぅ、さすがに飽きてきました」

「だよねー。釣り糸を投げる度に釣れるんだもん。シャニ姉って何匹釣ったの?」 


「これでちょうど三百匹です」

「私も同じくらいかな」


 二人で六百匹ですね。

 うん、無理だわ。


「よし、諦めるか」

「グルル、さっきと言っていることが違うぞ」


 いやいや、これはどうやっても逆転は無理だって。

 もう釣りは諦めた俺はデュパと二人で浜の砂を掘ってアサリや牡蠣なんかを獲るのだった。

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