第159話 海水浴 其の一

 アーニャが妊娠してしまった翌日、俺達は全ての予定をキャンセルしてラカン村にあるビーチに遊びにきた。

 今日から一泊二日の予定で海を楽しもうと思う。


「ねぇライト?」

「ん? なんだ?」


「ポータルを使えば家に帰れるじゃん。泊まる理由ってあるの?」


 とリリは言う。

 それを言っちゃならねえよ。

 こういうのはだな、やはり海に近い宿に泊まってこそ風情があるというものだ。


 しかしそんなリリも終始笑顔なので楽しみにしているのであろう。

 実際ラカン村には観光客を泊めるために多くの旅館を建設したのだが、夏の間はほぼ満室になるほどの盛況ぶりだ。

 ちなみに俺のアダルトショップもかなり儲かっている。

 お土産物として販売しているラカン村限定の水着とセクシーランジェリーの売れ行きが良くてねぇ。

 恋人達に夜も楽しんでもらうために異世界TE◯GAも販売しているのだが、こちらも好調のようだ。


「グルル、宿には行かぬのか?」

「そうだ、せっかくの海に来たのに無駄に道端で話している場合ではあるまい」


 今回の旅行にはデュパ夫婦とセタも同行することになった。

 昨日飲んだ時に一緒にどうかって誘ってね。

 セタはリディア達に誘われた。

 何気に仲が良いのである。

 たまにだがミライの面倒を見ててくれるので、ある意味家族の一員みたいなものだ。


 みんなで一緒に旅館に向かう。 

 そこはラカン村で一番大きな宿であり、一番の人気を誇っていた。


「ここか。ふむ、中々趣があるではないか。竹をふんだんに使っているな」


 セタが感心してくれた。

 まぁ、外観とかは俺が考えたんだけどね。

 っていうか俺の壁を利用した建物なので建築費はゼロなのだ。

 旅館を運営する村民は家賃としての金を税金の代わりにセタに納めている。


「あ、村長! いらっしゃいませー!」


 と店主の犬人の男性が出迎えてくれた。

 尻尾をパタパタと振ってとても可愛い。

 中身はおじさんのようだが。

 まぁ見た目は二足歩行の柴犬なのだが、これがこの世界の一般的な獣人の姿なのだ。


「シャニ様、お荷物をお持ちします」

「ありがとう」


 と店主はシャニから荷物を受け取った。

 どうやら亜種であるシャニへの偏見は薄れつつあるようだな。

 セタから聞いたのだが、犬人は力のある者に従う傾向があるらしい。 

 これは地球の犬と同じだな。

 つまりシャニは村長の俺の妻になったことでヒエラルキーが一気に上がったということだ。

 亜種への偏見が完全に無くなったとは言い難いが、それでも無用な差別が減ったのは喜ぶべきことだろう。


 店主の案内で予約した部屋に通された。

 そこの部屋だが……。

 

「うわぁ、なんだかすごく珍しい部屋ですね。これってカーペットですか?」


 とリディアは不思議そうに畳を見つめる。

 これは試験的に俺が製作班にお願いして作ってもらったものだ。

 本来なら井草を使うのだが、さすがに井草は見つからずに藁を代用品として使っているけどね。

 そして部屋の造りも純和風の内装に拘ってみた。

 障子なんかも見事に再現されている。


「わーい、きれいなのー」


 ――プスッ


 あ、ミライが障子に穴を開けた。


「ミライちゃん、イタズラしちゃ駄目ですよ。メッ!」


 ――ペシッ


 アーニャはミライの手を持ってあまり痛くないように叩く。

 ちょっとミライは悲しそうな顔をして泣き出してしまった。


「えーん、アーニャママ、ごめんなさいなのー」

「こらアーニャよ。子供のしたことだ。大目に見て……」

「そういう訳にはいきません。叱るのも親として大切なことですから」


 セタはミライに甘いからなぁ。

 しかしアーニャは親の一人としてミライを叱ったのだ。

 彼女の言う通り、叱るのも教育の一つだろう。

 ミライはリディアの足にしがみついてビービー泣いている。


「ちゃんと宿のおじさんに謝るのよ」

「はいなのー。おじさん、ごめんなさいなのー」


 俺も店主に障子を壊してしまったことを謝り、料金として追加してもらうように言ったのだが。

 受け取れないと断られてしまった。


「グルル、それでは私達は自分の部屋でゆっくりさせてもらおう」


 とデュパは奥さんと一緒に去っていく。

 セタも一旦自室に向かうそうだ。


 それじゃ俺達も海に向かうかな……と思ったんだが。

 

「ライトさん、悪いんですけど先にミライを連れて海に行っててくれませんか?」

「あれ? 一緒に行かないのか?」

「もう、やっぱりライトはそういうところが鈍感だよね。可愛い水着を見てもらいたいの!」


 なるほど、そういうことね。

 シャニはお腹が大きいので今回は水着は着ないようだ。

 なので俺達と先に海に向かうことにした。


 宿を出て浜に向かう道中、多くの出店が軒を連ねている。

 売られているものは焼きそばだったりイカ焼きだったり焼きとうもろこしだったりと日本の海岸と大差無いのが面白いところだ。

 

「ちちー、あれおいしそうなのー」

「後で買ってあげます。先に海に行きますよ」


 俺とシャニはミライの手を引いて浜に到着。

 そこには多くの海水浴客が楽しそうに海で泳いだり海岸で寝そべったりしている。

 

 さて、まずはビーチに敷布を敷いてっと。

 次にパラソルを借りてきた。

 今のシャニは泳げないからな。

 強い日差しから守ってやらねば。


「ライト殿、私はここで待っていますので。ミライを遊ばせてきて下さい」

「ちちー、海に入りたいのー」

「あぁ、暑いからしっかり水分を摂ってな。辛かったら先に宿に戻ってていいから」


 そう言ってミライを連れて海に向かう。

 初めは興奮していたミライだが、やはりまだ怖いようで俺の足にしがみついてきた。


「大丈夫だよ。抱っこしてあげるから」

「はいなのー」


 ――チャプッ


 ミライを抱いて海に入る。

 うん、少し水温は低いが日差しが強い分、心地よく感じるね。


「ちちー、なみが来るのー。にげるのー」

「よし、目を閉じて息を止めるんだぞ」


 ――ザバーッ


 こういうのも経験だ。

 あえておもいっきり波をかぶってみる。

 ミライはしっかり目を閉じていたが、すぐに楽しそうに笑いだした。


「もう一回するのー」

「はいよ。鼻に水が入らないようにするんだぞ」


 なんて感じで海を楽しむ。

 ミライはとても喜んでいたが、少し体が冷えたかな。

 

「ちょっとシャニママのところに戻ろうか」

「また後で遊んでくれるの?」


「もちろん」

「ならいいのー」


 俺達は海を出てシャニのもとに向かう……のだが。

 そこには水着姿の美女が三人集まっていた。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る