第157話 足が欲しいの 其の三 アーニャの気持ち☆

 ラベレ村のセタの自宅にて。

 

 ――グツグツ……


 魔王セタは地下にある研究施設にいる。

 大釜に様々な素材を入れ、そして最後に蓮の花から採った特殊なエキスを投入する。

 彼女は大きなヘラで大釜の中をかき混ぜた。

 ここで「いーひっひっひっ!」みたいに笑いながらかき混ぜていたら魔女そのものなのだが、セタはクスリとも笑わなかった。

 なぜなら……。


「く、臭い……」

「吐きそうですぅ……」


 同室にいたアーニャも鼻を押さえていた。

 彼女達は何を作っているのだろうか?

 

「あ、あの、本当にこれを飲むんですか?」

「無論だ。飲まなくては真・変化の術はかけられんぞ」


 セタは大釜に入ったヤバ汁をカップに注ぐ。

 アーニャはその香りに胃液が上がってくるのを感じた。


(うぅ、飲みたくないよぅ。でもこの薬を飲めば……)


 アーニャは決意する。

 この薬さえ飲み干せば一定時間とはいえ二本の足が生えてくるのだ。

 足があれば可愛い下着、水着が着られる。

 それだけではない。彼女が最も望んでいた来人と前を向き合って可愛がってもらえることだって出来るようになるのだ。

 そして彼女が望んで止まなかっただいしゅきホールドが出来るのだ!

 彼女は決心した!


「の、飲みます!」

「うむ!」


 ――クイッ ゴクッ


「…………!?」


 薬を口に入れた瞬間、この世のものとは思えない程の苦味が口いっぱいに広がる。

 日本では芸人の罰ゲームでせんぶり茶なんかがよく飲まれるが、この薬はせんぶり茶の比ではなかった。

 

 アーニャは流しに走る!

 そして!


「オロロロロロッ……」

「えぇい、吐くな吐くな。それでは術は完成せぬぞ」


 決して来人には見せられない姿であった。

 ひとしきり吐いて少しすっきりしたアーニャ。

 彼女は諦めることなく……いや、本当はちょっと諦めたんだけど。


「シロップで割るとか水で薄めるとかしても大丈夫ですか?」

「駄目だ。他の素材を入れたら違う薬に変化してしまう。足が欲しかったら飲むのだ!」


 そのまま飲むしかなかった。

 彼女は死を覚悟しつつグラスに口をつけ……。


 ――グビグビッ! ゴクンッ!


「んー!!!!!」

「吐くなよ!? 耐えるのだ!」


 一瞬で意識が遠のく。もうセタの言葉など聞こえてはいなかった。

 アーニャは来人に足のある自分を可愛がって欲しい一心でヤバ汁を飲み込む、そして……。


 ――バタッ


「ア、アーニャよ、しっかりするのだ!」

「きゅう……」


 気絶するのだった。


 次にアーニャが目を覚ましたのはセタの寝室のベッドの上だった。


「知らない天井……」


 アーニャさん、どこで覚えてきたの?

 なんてことを呟いたアーニャだが、自分の体に違和感を覚える。

 もしかして……。


 アーニャは期待と不安、その二つが入り交じった複雑な気持ちのまま毛布をどかす。

 するとそこにあったのは……。


「あ、足がある……」


 蛇の下半身は消え失せ、リディア達同様二本の足があった。

 ちなみにあそこには毛は生えていなかった。

 もともと蛇だった時のなごりからだろう。


「起きたか。術は完成した。魔導書によると効果は24時間、もしくはそれ以下だ」


 それだけでも充分。

 アーニャは急ぎベッドを出ようとするが……。


「わわっ!?」


 上手く歩けない。

 やはり長年ラミアとして生きてきたので、二本の足で歩くことに慣れていないのだ。

 

「まずは歩く練習からだな。それに下着も着けずに出ていくつもりだったのか?」

「え? ご、ごめんなさい……」


 アーニャは女の子座りをしてお股に手を置いた。

 とてもエロい光景である!

 ちなみに来人はリディア達にこの格好をさせるのが大好きだった。


 セタはタンスから自分の下着を数枚取り出しアーニャの前に。

 Tバックに紐パン、縞パンなんかもある。

 可愛い猫のアップリケがついたものもあり、アーニャはちょっと引いた。


「好きなものを穿くのだ」

「うわぁ……。セタ様ってこんなの穿くんですね」


「ええぃ、私のことはどうでもいい。いいからさっさと選ばんか」

「は、はい。ではこれを……」


 アーニャが手にしたのは紐パンだった。

 これは自宅にも置いておらず、リディア達が持っていないものだった。


 ちなみにリディアはスケスケのストリングショーツを好む。

 リリはフリフリのベビードールを。

 シャニはTバックを好んで穿いていた。

 なのでアーニャは考えた。

 リディア達が穿かないデザインだからこそ差別化がはかれるのではないだろうかと。


 アーニャは慣れない手つきで紐パンを穿く。

 そして歩行訓練を開始した。


 セタの手を借りてアーニャは歩きだす。


「それ、あんよは上手、あんよは上手」


 あんた、本当に魔王様か?

 なんて思えるほど、ほのぼのした光景であった。


 そしてようやく歩くことに慣れてきた頃……。


「も、もう大丈夫そうです」

「そうだな。しかしこうして見ると人族と変わらんな」


 そう、ラミアは下半身こそ蛇なのだが、上半身は人間と同じなのだ。

 今のアーニャは人と同じ姿をしている。

 

「村民が混乱するかもしれん。私がライトの家まで送っていこう」

「は、はい! お願いします!」


「その前に服を着ないとな。下着一枚では出歩けないだろう」

「ですねぇ」


 アーニャはセタからスカートを借りた。

 フリフリの可愛いスカートだった。

 もうおばあちゃんという歳であるのに、セタはプライベートではこんなに可愛い服を着ていることにアーニャは驚いた。


「村民には言うでないぞ」

「はい……」


 ちょっと睨まれて怖かった。

 セタの自宅を出ると、やはり村民からは奇異の目で見られた。

 村長の嫁ということで顔は知られていたが、ラミアなのにどうして足があるのか不審がっているのだ。


 セタは村民達に向かって……。


「気にするな。新しい魔術の実験だ」


 そう言うと村民は納得した顔をして仕事に戻っていった。


「行くぞ」

「はい!」


 二人はポータルに向かう。

 そこを潜れば自宅があるピース村に繋がっているのだ。

 そしてピース村に到着して、二人は来人の家に向かう。

 時刻は昼前。来人には暇をもらい、ラカン村にあるアダルトショップはリディアとリリが代理として働いているはずだ。


 二人は家の前に着き、そしてドアを開ける。

 リビングでは来人が娘であるミライと積み木で遊んでいた。


「ん? アーニャママ、おかえりなさいなのー。あれー? その足どうしたのー?」


 とミライが走り寄ってきた。

 夫である来人もミライの言葉を聞いて……。


「ど、どうしたんだ、その足……」

「そ、その……。似合いますか?」


 急に不安になった。

 来人はアーニャがラミアだからこそ受け入れてくれてたのではないかと思ってしまったから。


 しかし来人はセタの元に行き……。


「す、すまん。ちょっとミライと遊んでてくれないか?」

「うむ。お前達も楽しむのだぞ。ミライー。ばぁばと公園に行こうかー?」

「いくのー」


 二人は家を出ていった。

 シャニも散歩に出ているようで、家にはアーニャと来人しかいない。


「え? ラ、ライト様? きゃあんっ」

 

 ――ガバッ! ダダダダッ!


 来人はアーニャを抱きかかえ、寝室に向かう!

 そして!


 ――ボフゥッ!

 

 アーニャをベッドに投げ落とす!


「そ、そんな、まだお風呂に入って……。あぁんっ」


 まぁ、その後は言う必要はないだろう。

 もうめちゃくちゃに可愛がられてしまった。


 良かったね、アーニャ。

 念願のだいしゅきホールドも出来たし、前を向いてしっかり可愛がってもらえたぞ。


 しかしだな、来人は感度調整・改はしばらく封印していたのだが、興奮するあまり無意識に発動してしまったのだ。

 感度調整・改の効果は着床率アップ。

 何度も愛された結果、アーニャのお腹の中には……。


 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る