第156話 足が欲しいの 其の二 アーニャの気持ち

 来人が作った第三の村、ラカン村。

 その一角にあるとあるオシャレなバーで魔王セタとアーニャは酒を飲んでいた。


 酒も進んできたので、アーニャはようやく自分の悩みをセタに打ち明けることが出来たのだった。


「ええぃ、ウジウジするでない。さっさと話さんか」

「は、はい! 実はその……。私も水着を着たいのです……」


 アーニャは蛇人……ラミアなのである。

 上半身は人間と変わらないが下半身は蛇なので着られるものが限られているのだ。


「な、なるほど。それは確かに悩ましいな……」

「そうなんです、私も可愛い水着を着てライト様に可愛がってもらいたいのです……」


 アーニャは心の中では常にリディア達を羨ましがっていた。

 フリフリの可愛い下着が好きなリリ。

 スケスケのセクシーなパンツが好きなリディア。

 オチン……ごほん。シャニは特殊な体をしているので、前面こそしっかり隠れた下着だが後ろから見るとお尻が丸出しになったような下着を好んだ。


 これらの下着もアーニャが作ったものだ。

 まぁ来人がリクエストしたんだけども。


「ま、まぁ仕方がないではないか。それが蛇人という種族なのであろう? パンツは穿けなくとも可愛いブラを着ければ良いではないか」

 

 とセタはアーニャを慰める。

 でもアーニャは納得出来なかった。

 悩みは他にもあるからだ。


 大分酒が進んできたのでアーニャは大胆にもこんなことを言う。


「それだけじゃないんです! みんなが羨ましいんです! だって私なんてライト様に可愛がってもらう時はいっつも後ろからなんですよ!」


 いやいや、それこそどうしようもないだろ。

 ラミアの女性の生殖器は後ろにあるので基本的には後ろからでしか出来ないのだ。

 

 ――ダンッ!


 アーニャはグラスに入ったガルヴァドスを飲み干し、テーブルに叩きつける!


「あー、もう! 私だって前からしたーい! ライト様と顔を合わせて一つになりたーい! だいしゅきホールドとかやってみたーい!」

「お客様、お静かに……」


 何気に酒癖の悪いアーニャはお代わりのガルヴァドスをオーダーする。

 セタはお摘まみの天ぷらを食べながら「めんどくせえな、こいつ」みたいなことを思い、相談に乗ったことを後悔しつつあった。


「ま、まぁ元気を出すのだ。私は後ろからガンガン突かれるのは嫌いではないぞ」


 あんた何言ってんだよ。

 店主のベリスはセタの突然の告白に戸惑っている。


(俺ってこんな人に仕えていたのか……)


 まぁ魔王様でも性欲はあるだろうし、そこは良しとしよう。

 セタはベリスに助けを求めるように視線を投げ掛けるが、彼は無視して天ぷらのお代わりを揚げ始めた。

 そこでベリスは一つ思い出したことがある。

 かつての主人を助けるため……いや、このめんどくさい客に早く帰ってもらいたかったのでベリスは一度自室に戻り本棚から魔導書を持ってきた。


「セタ様、こちらをご覧下さい」

「ん? どれどれ……。こ、これは!?」


 実はこのベリス、魔法に関してはセタ以上の知識を持ち合わせているのだ。

 彼は古代の闇魔法にも精通しており、とある魔法の存在を思い出した。


「セタ様が得意とする変化の術ですが、それは相手に仮初めの姿を見せるというだけのものです。しかしここに書いてある薬と変化の術を組み合わせれば一定時間ではありますが、新しい肉体を得ることが出来ます」

「そ、そんなことが出来たとは……」


 セタはお摘まみのレンコンの天ぷらに舌鼓を打ちながら魔導書を食い入るように読み始める。

 アーニャも酔っぱらいながらもベリスの言葉を聞いてものすごく期待するのだった。


「も、もしかして可愛い下着が着られるようになるんですか!? だいしゅきホールドとかも出来るようになるんですか!?」

「えぇい、落ち着くのだ。いいか、良く聞くのだ……」

 

 セタは声を出して魔導書を読む。

 それはアーニャの期待を裏切るものだった。


「肉体を変化させるには必ずアムリタが必要となる」

「アムリタって何ですか?」


 アムリタ……それは神酒のことである。

 かつては南の大陸に存在していた幻の植物の花から抽出したエキスから作ったものだ。


「アムリタとは既に伝説の存在……。私も知識としては知っているが、一度も見たことはない」

「そ、そんな……。で、でも諦められません! きっとアムリタを作ってみせます! どんな花なのか教えて下さい!」


 アーニャはやる気になった。

 可愛い下着を着られるチャンスであり、色んな体位で来人とあんなことやこんなことが出来るチャンスなのである。

 これを逃してなるものか。アーニャは大陸を駆け回る覚悟を持ってセタに聞いてみた。


「そうか……。ならば話そう。その花の名は芙蓉。どうやら異界から持ち込まれた花らしい。しかしこの世界の気候に合わず、育つのは希だ。花をつける前に多くが枯れてしまう。育つのは沼のみであり、異界では神の花として知られているそうだ」

「わ、分かりました! きっと芙蓉を見つけてみせます! その時は私に変化の術をかけて下さい!」


 アーニャは不退転の覚悟をもってセタに懇願する!

 セタもかなり酒が回ってきたらしくアーニャの肩に手を置いて!


「お前だけに苦労はさせん! 私も行こうではないか!」

「セタ様! ありがとうございます!」


 みたいなやり取りをしてベリスは思う。


(魔王様、安請け合いしてんなぁ。ラベレ村の運営はどうするのよ……。っていうか早く帰ってくれんかなぁ)


 なんてことを思いベリスはレンコンの漬物とお茶漬けを二人に出すのだった。


「おぉ、気が利くではないか」

「んー、このお漬物美味しい!」


 二人はベリスに迷惑をかけていることに気付くことなく深夜まで酒盛りを楽しむのだった。


 しかしその翌日、セタはラベレ村にある養殖場に見慣れない植物が栽培されていることに気付き、農夫の村民に聞いてみた。


「ほう、これは見たことが無い作物だ。花も美しい。これは何という作物なのだ?」

「村長が先日見つけてきたものですよ。レンコンって言ってたかな?」


「レンコンか。そういえば昨夜ベリスの店で食べた……。んん!? こ、この花は!?」


 セタは気付いてしまった。

 昨夜魔導書で見た花と同じ花を。

 そう、芙蓉とは蓮のことだったのだ。


 結構あっさりお目当てのものが見つかったのであった。

 

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