第154話 製塩所

「おーい、おいおい、どうせ老人は邪魔者なんじゃー」

「ばぁばー、泣かないのー」


 俺達は草原をドライブしてピース村を目指していた。

 その道中、セタを連れていくという約束を思いだし、急遽ポータルを潜り村に戻ってきたんだけど。


 自宅に戻るとセタはわざとらしく泣き真似をしてミライに恨み言を言っていた。

 っていうか、そんな口調じゃねえだろ。

 語尾にじゃーを付けてるのなんて初めて聞いたわ。


 しかし約束を忘れていたのは俺なので文句は言えない。

 仕方ないので謝ることにした。


「す、すまなかった」

「おーい、おいおい、えぐっえぐっ」


 何気に泣き真似上手いな。

 いやいや、感心するのはそこじゃないぞ。

 とにかく俺は海を見つけたこと、そしてそこに新しい村を建築したことを伝えることにした。


「……というわけでさ、もう塩の心配は無くなるはずだ。それに観光をメインにした村を作れば新しい雇用は産み出せるし、漁業をすれば資源だって増やせるはずだぞ」

「なるほど、中々面白い考えだな」


 ほっ、嘘泣きは止めてくれたみたいだ。

 今は真顔ではあるが、ミライを膝に乗せながら話を聞いてくれている。

 とりあえず仕事の話を続けて約束を破ったことをうやむやにしてしまおう。


「これから定期的に塩を作るために優先して製塩所を建てようと思う。それが軌道に乗ったら浜辺の整備に取りかかるよ」

「浜辺とな? 海にならすぐに入れるのではないのか?」


 それね。確かにそうだけど、子供達が遊ぶことを考えると少し危険かなと思ったんだ。

 意外と波が高くてね。泳ぐならば先に人工リーフとかテトラポッドみたいな波を弱めるものを作らないと。

 しかし人工リーフならば俺の壁を使えば結構簡単に作れそうだし、あんまり時間はかからないだろうな。


「村民の安全を考えると先に作っておくべきだ」

「なるほど、異界の知識だな。そもそも建築についてはライト以上に頼れる者はいない。全て任せる」


「だな。それじゃ俺は車を戻さなくちゃいけないからこれで……」


 ――ガッ


 ん? 席を立とうとしたらセタに掴まれた。


「待てい。せっかく忙しい中、わざわざ時間を作ってやったというのに。謝罪の一つもないのか?」


 うやむやに出来なかったようだ。

 俺はセタの前で正座をさせられ、クドクドとお説教を食らうことになった。


「全くお前ときたら……。まぁ仕方あるまい。終わったことをクドクド言っても結果は変わらぬからな」


 いやいや、結構クドクド言ってたぞ。

 一時間は正座させられてるんですけど。


「よし、許してやる代わりに新しい村の名前は私がつけよう。ラカン村、これでどうだ?」


 ラカン? ヤカンみたいだな。

 まぁ名前にはこだわりがあるわけではないし、それでいいかな。


「ラカンか。中々素敵な名前じゃないか。それでいいと思う。でさ、ラカンって何? 昔の男の名前か?」

「おま……。ライトよ、ちょっとそこに座れ」


 嘘!? 適当に言ったのに当たっちゃったの!?

 今度はデリカシーが無いとまたクドクドとお説教を食らうのだった。



◇◆◇



 その一週間後。

 車を無事にピース村に返し終え、ポータル出勤を繰り返しては新しい村の建築を続け、何とか家屋や店になるであろう建物は全て完成した。


 広さはピース村の半分程であり、製塩と漁業中心の村となる。

 ついでに村民の娯楽のために海水浴が出来るよう浜には人工リーフを建築し、波を小さくしてある。

 これを一人でやれるんだから、やはり俺の力ってチートなんだなと改めて思う。


「グルルル、考え事か?」

「え? いや、何でもないよ。それじゃみんなついてきてくれ!」


 移住希望者を集い、500人の村民が集まった。

 デュパは新しい仕事を覚えたいと言ってきたので、移住こそしなかったが、塩作りの方法を教えるために連れてきたのだ。


 村民達と共に浜辺に到着する。

 俺は用意したバケツで海から海水を汲む。


「いいか、まずは浜に海水を撒くんだ」


 ――ザバーッ


 海水を撒き、それを繰り返す。

 ある程度撒いたら日光で水分が蒸発するのを待つだけだ。


 一応事前に海水を撒いて乾かした砂も用意してある。


「見てくれ。この砂は蒸発した海水を含んでいる。これをまずは濾すんだ」


 砂を持ってラカン村にある製塩所に向かう。

 専用の大きな濾し器に砂を投入。

 そこには布が敷いてあり、それはさらに海水で濾していく。


 こうすることで海水より濃度の高い塩水がとれるのだ。

 

「ちょっと舐めてみるか?」

「どれ? グルルルッ! し、しょっばい!」


 デュパはむせてしまう。

 それだけ濃い塩水なのだ。


「これを火にかければ海水を煮るよりも効率的に塩が採れる。この仕事はみんなに任せたい。頼めるか?」

「「「おー!」」」


 村民からは元気の良い返事が返ってきた。


「ほう、塩とはそうやって作るのか」


 見学に来ていたセタが感心してくれた。

 むかーし、小学生の時に読んだ本の知識だけどな。

 役に立って良かったよ。

 でも王都ではどうやって塩を仕入れてたんだ?


「行商人からだよ。アーネンエルベと猫人から買っていたのだ」

 

 セタが言うには当時はまだ人族の国が戦争を仕掛けていることを知らず、取引を続けていたそうだ。

 他には離島に住むと言われている猫人……カジートから塩を買っていたと。

 

「猫人か。会ってみたいな」


 子供の時は犬と猫、両方飼っていたが、実は猫派なのだ。

 是非とも会ってフサフサナデナデしてみたい。


「撫でるだと? あれらは気難しい種族だからな。仲良くするには苦労するぞ」

「なんで?」


「猫だからだろうな」


 なんとなく理解した。

 地球でも猫は自分勝手な気ままな動物だしな。

 そこがまた可愛いんだけど。


「で、あれはなんだ?」


 とセタはとある店舗を指差す。

 むふふ、よくぞ気付いた。

 あれは俺の店の二号店なのだ。

 ちなみに店長はアーニャにお願いしてある。


 売っているものはラベレ村、ピース村と同じものに加え、目玉商品として水着を売っているのだ!


「グルルル、あれを着るのか? ほとんど裸ではないか」

「なんと破廉恥な……」


 まぁハイレグだったり、ビキニだったりだからね。

 しかし女性の村民からは……。


「か、可愛いかも……」

「買っちゃおうかしら?」

「ダーリンに見せたら喜ぶかも……」


 はい、毎度ありー。

 概ね好評のようだった。


「ふむ、良く見れば中々良いデザインではないか。私も一つ買ってみるか」


 買うの? ま、まぁ止めはしないけど、セタって結構なおばちゃんの年齢だぞ。

 さすがにハイレグはきついのではないだろうか。


「ライトよ、今失礼なことを考えていたであろう」

「ナンノコトダロウカ。ほ、ほらみんな! 見学会は終わりだ! 明日から頑張ってくれよ!」


 こうして第三の村、ラカン村の運営が始まるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る