第152話 海を目指して 其の三☆

 ――ブロロロロッ


「ん……。すー……。すー……」


 アーニャは俺の肩を枕にして眠っている。

 いつの間にか俺も眠っていたみたいだな。

 

 外を見ると平原は夕日で赤く染まっている。

 あらー、結構時間が経っちゃったんだな。


「あ、起きたんだ。ふふ、よく寝てたね」


 とリリがミラー越しに話しかけてくる。

 それにしても未舗装の平原を運転しているはずなのに、ほとんど揺れてない。

 さすがはリリが作った車だ。

 地球のオフロード車よりもずっと性能がいい。

 パリ○カに出場したら優勝間違い無しだな。


 この車は機構が複雑で燃料の確保が難しいらしく量産はまだ出来ないらしい。

 だがもし車を村民達が使えるようになったら色んな可能性が見えてくるな。


 例えば大規模輸送だ。

 俺のポータルを使えば物は一瞬で各拠点に届けることが出来る。

 しかしポータルは大きさを変えられるわけではない。人が一人通れる大きさが限界のようだ。

 トラックなんか作れば収穫した作物を簡単に運べるようになるかもしれないな。


 他にも農作業に使うトラクターとかシャベルカーみたいな重機も作ることが出来たりして。

 

 今度リリに提案してみるかな。


「ん……。ふぁー、ねちゃったのー。ママー、お腹すいたのー」


 前の座席に座っていたミライも目を覚ましたようだ。

 確かに俺もお腹空いたな。

 よし、ここは一度ピース村に戻るとするか。


 車を停めてもらい、俺は壁を建て小さめの拠点を作る。

 

 ――ピコーンッ


【未所有の土地が一定時間壁で囲まれました。これらの土地を敷地にしますか?】


 俺はYESと念じる。

 この土地は俺のものとなった。

 こうすることで敷地の中にポータルを発生させることが出来る。


(ポータル作成)

【受付完了。転送先を設定してください】


 ――ブゥンッ


 ピース村を転送先に設定する。

 これでいつでも我が家に戻れるわけだ。


「それじゃ一度帰ろうか」

「はーい」


 ポータルを潜るとピース村に到着。辺りには仕事を終え、自分の時間を楽しむ村民達の姿があった。

 

「今から作るのもめんどくさいだろ。食べに行こうか?」

「「「さんせーい!」」」


 俺達はミァンが経営する食堂に向かう。

 中では従業員達が忙しくも楽しそうに仕事をしていた。


「いらっしゃいま……。あら村長、来てくれたのね?」

「あぁ、働いてて大丈夫なのか?」


 ミァンのお腹もかなり大きくなっている。

 多分出産時期はシャニと近いんだろうな。


「ふふ、大丈夫よ。私は家にいるよりも動いてた方が楽なの」

「無理しないでくれよ。席は空いてるかな?」


「こっちよ」


 ミァンは俺達を案内してくれた。

 そこはテーブル席ではなくお座敷席だ。

 いつの間にか作ったのだろう?


「まだラベレ村もピース村も子供達は少ないけど、これからどんどん増えると思うの。だから家族でも利用しやすいように広い席も作らなくちゃって思ってね」


 なるほど、素晴らしい配慮だ。

 さすがは王都で繁盛していた食堂の経営者。

 

「ふふ、お褒めに預かり光栄です。それじゃ注文が決まったら呼んでね!」


 ミァンは笑顔を見せて厨房に帰っていく。

 さて、それでは何を食べようかな。

 各自メニューを手に取り考える。

 俺はすぐに決まったけど、リディア達はいつものように悩んでいる。


「あれ? ライト様はもう決まったんですか?」

「うん、っていうかみんな決まるまで長過ぎない?」

「いえ、これが普通です。ライト殿が早すぎるだけです」


 なんてシャニに文句を言われた。

 ははは、これは失敬。

 これも良い変化だと思うのだが、時々妻達は俺のことを注意したり文句を言ってきたりするようになった。

 恋人から夫婦に変わったということなのだろう。

 そのうち「脱いだものは洗面所に持っていってよ!」とか「トイレを使ったら便座を下げておいて!」とか言われるようになるのかなぁ。

 それはそれで嬉しいな。


 なんてことを想像していると、ようやく注文が決まったようだ。

 リディアはミックスフライ定食とミライ用の小さなごはん、アーニャはレバニラ炒め定食と半ラーメン。

 シャニは味噌ラーメンに半チャーハンのセットで、リリはおでんセットに大盛りのごはんだった。


「うわぁ、みんなよく食べるな」

「うふふ、これくらい普通ですよ」


 なんてことをアーニャは言う。

 確かに彼女達はよく食べるが、体型は維持したままだ。

 異世界人は太りづらいのかな?


「しっかり運動してるからだよ。ねぇライト、今夜もいっぱい動こうね」


 なんてことをリリは言うんですけど。

 そ、そうだね。たしかにエッチなことをするとかなりの運動量になるみたいだし。

 

「それじゃ今夜も運動するか?」

「もう、ライトさんのエッチ」

「えっちなのー」


 リディアに窘められるが、今夜はリディアの日だったかな?

 リリとアーニャも混ざりたいって顔をしてるし……。

 それじゃ頑張っちゃおうかな!


 料理が運ばれてきたついでにトロロと生卵も追加オーダーしておいた。


 しっかり食べた後は自宅に戻る。

 風呂を沸かすとシャニとミライが一緒に入ると言ってきた。

 三人で湯船に浸かるとミライはシャニに抱かれながらお腹を優しく撫でている。


「ここにシャニママのあかちゃんがいるの?」

「そうです。ミライは弟と妹、どっちが欲しいですか?」


「どっちでもいいのー。きっとかわいい子なのー」

「ふふ、そうですか。ほら、動きましたよ。きっとこの子もミライに早く会いたいのでしょう」


 なんて微笑ましい光景を見てほっこりする。

 だがミライも疲れたんだろうな。

 風呂に入ったまま眠り始めてしまった。


「私はこのままミライを寝かせてきます。今夜は楽しんでください。でも最後に……」


 そう言ってシャニはキスをしてから風呂を出ていった。

 その後はリディア達も風呂に乱入してきて湯船の中は大乱闘となるのだった。



◇◆◇



「えへへ、気持ち良かったね。ねえー、ライトー。私も早くママになりたいよー」


 とリリは俺の上に乗って甘えてくる。

 アーニャとリディアは俺の両腕を枕にして息を切らせていた。


「うふふ、たくさん可愛がってもらえました」

「すぐにミライの兄弟が出来ちゃいそうです……」


 いっぱい出したからねぇ。

 ベッドで横になりながら俺達は今日の出来事を話すことに。

 

「明日も一日運転するからな。早めに休もうか」

「そうですね……。あ、ライトさん? お願いがあるんですけど」


 とリディアが言う。

 なんのお願いかな? もう一人欲しくなったとか?


「ふふ、たしかにもう一人くらいならすぐに欲しいですけどね。でも違うんです。明日は私も運転したいなーって」

「へー、リディアも運転したかったのか。いいよ、それじゃ明日はリディアに任せようかな」


 なんて思った俺が馬鹿でした。

 翌日俺達はポータルを潜り車を停めている仮拠点に向かう。

 そしてリディアが運転席に座り……。


「さぁ飛ばしますよ! みんな掴まっててねー!」


 ――ギュオンッ! ブロロロロッ!


「きゃー! 速すぎるのー!」

「リ、リディアさん! 安全運転で!」

「リディア姉! ターボは使っちゃだめだって!」

「吐きそうです。オロロロッ……」


 ターボもついてんのかい。

 どうやらリディアはスピード狂だったようで本人は楽しそうに運転をしていた。

 しかし後部座席にいる俺達は異形に襲われた時以上に死を覚悟するのだった。

 


 

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