第151話 海を目指して 其の二

 東に向かう道中、シャニが車酔いになってしまったので俺達は車を降りて少し休憩することにした。

 

「シャニねえ、これ飲んでね」


 リリは湯を沸かしてお茶を淹れてくれた。

 さっきまで少し顔色が悪かったが、今はもう大丈夫そうだな。


「ねぇ、ライト。疲れたでしょ? 次は私が運転するね」


 リリが言ってくれた。

 確かに三時間はアクセルを踏みっぱなしだったからな。

 少し疲れたかもしれない。

 俺もリリが淹れたお茶を飲みつつ彼女の提案を受けることにした。


「ライト殿、大分良くなってきました。少し歩きませんか?」

「そうだね、リリも行く?」

「うん!」


 俺達は散歩がてら平原を歩くことにした。

 とはいっても特に見るものなんてないんだけどね。

 しかしここはピース村付近に比べ、少しだが木が生えている。

 水場も近いようだ。北の方に川が流れている。

 遠目に見るとアーニャがそこにいるのが見えた。

 俺達も行ってみるかな。


 五分程歩くと川が近づいてくる。

 アーニャは何やら川縁に生えている木から何かを採っているようだった。


「アーニャ、何してるの?」

「ライト様? これを見て下さい! 初めて見る実ですけど、こんなものが生ってたんですよ。とってもいい香りなんです!」


 とアーニャは俺達に木の実を手渡してきた。

 

「わー、すごく爽やかな香りだね」

「しかし初めて見る実です。食べられるのでしょうか?」


 と二人は木の実の香りを楽しむ。

 俺も匂いを嗅いでると……。

 あれ? この香りって。


「この実はまだ食べられないな。青い実は毒があるはずだよ」

「え? ライト様はこの実を知ってるんですか?」


 もちろんだ。日本では結構ポピュラーな植物であり、その実は塩漬けにすることで有名な漬物になる。

 そう、この実は梅……もしくはそれに近い植物だろう。

 せっかくなので少し梅の実を摘んでいくことにした。


「この世界にはまだまだ未知の植物があるんだなー。嬉しくなっちゃうよ」

「ライト殿、毒がある実をなぜ摘んでいくのですか?」


 青い梅は毒があるが、加工次第で毒を抜くことが出来る。

 それに梅があれば日本でも有名な食べ物、飲み物を作ることが出来る。


「砂糖や塩に漬けておけば毒は消えるはずだ。ふぅ、こんなものかな。村に戻ったら美味しいジュースを作ってあげるよ」

「へぇー、この実からジュースですか。楽しみです!」


 まぁ梅干しと梅ジュースなんだけどね。

 しかも今では米も豊富に採れる。

 そろそろビールやミンゴを使った酒の他に日本酒なんかも作ってもいい頃かもしれん。

 それに梅があるならば梅酒だって出来るしね。

 新しい名物になるかもしれないな。


「せっかくだから完成したら俺の店で販売してみるか!」

「そうだね! もしたくさん売れたら私達お金持ちだね!」


 まぁ特に金に興味はないんだけどね。

 でも俺の店っていってもアダルトショップで酒を売っていいのかな?

 アダルトショップっていうより何でも販売してるド○キみたいになりそうだ。

 ふふ、それはそれで面白そうだな。


 思わぬ収穫に気を良くした俺達。

 しかしそろそろ東に向かわねば。


「リディアさん達は戻ってませんね」

「ミライと散歩してくると言ってましたが……」

「まぁ、リディアが一緒なら大丈夫だろ。車で待ってようか」


 異形がいない今、俺達を脅かす存在はいないはず。少なくとも南の大陸にはな。

 リディアは最初期の村民であり、俺の恋人を経て妻になった。

 俺が強くなる度に彼女も強くなっている。

 おそらく熊なんかが出てもリディアならワンパンで退治出来るはずだからな。


 しばらく車の前で待っていると、リディアは半べそをかいたミライを抱っこして戻ってきた。

 なんかミライはびっしょり濡れてるんだけど。


「どったの?」

「あ、あのですね。ミライが綺麗なお花が咲いてるのを見つけて近づいたんですけど……」

「ふぇーん、おみずに落ちちゃったのー」


 なるほど、まぁ怪我が無いようで安心したよ。

 リディアは車の中から着替えを取り出してミライに着させる。

 しっかり水に入ったのだろう、パンツまでびっしょりだった。


「ねぇちちー」

「パパと呼びなさい」


 着替えが終わったミライが俺に話しかけてくる。

 相変わらずパパとは呼んでくれないが。


「あのね、さっきのお花が欲しいのー。きれいだからアーニャママにもシャニママにもリリママにも見せてあげたいのー」

「私もさっき見たんですけど、すごく綺麗な花でした! 良かったらみんなで見に行きませんか?」


 へー、お花ですか。

 まぁ、こういった寄り道も旅の醍醐味であろう。

 俺達は車に乗り込みリディアの案内で花が咲いている場所に向かう。

 そこは沼になっており、大きな葉っぱが水面から生えていた。

 そして茎の先端にはこれまたどこかで見たような花が咲いているではないか。


「ちちー、あれなのー」

「あぁ、みんな降りてくれ。花を見てみよう」


 俺達は車を降りて花に近づく。

 地面はかなりぬかるんでいるな。

 歩く度に足が泥の中に沈んでしまう。


「この花は……。蓮だな」

「ハス? 変ななまえなのー」

「綺麗ですね。王都では見たことがありません」


 蓮は水場に生える植物であり、俺も好きな花だ。

 実家の近くに蓮畑があってね。

 花が咲く時期には家族でよく蓮を見に行ったもんだ。


 そうだ、一ついいことを思い出したぞ。


「ミライ、おいで」

「はいなのー」


 ミライを抱っこして蓮に近づく。

 あるかなー。お? あれなんかいいんじゃないかな?

 俺はとある蓮の葉を見つける。

 蓮の葉は大きい、そしてその上にはよく水滴が溜まる。


「ほら見てごらん。葉っぱがお水を弾いてるだろ」

「コロコロしてるのー。キレイなのー」


 少しの間、蓮の葉でミライを遊ばせることにした。

 そうだ、蓮といえば花よりも大切なものがあるじゃないか。


 ミライをリディアに預け、俺は池の中に入る。


「ラ、ライト、何してるの?」

「ん? いやな、せっかくだからピース村でも栽培しようとおもってね……。それっ!」


 ――プツンッ


 池の底から蓮を引き抜く。

 やっぱりまだ育ってはいないが、未熟な蓮根が付いていた。


「それは?」

「あぁ、これは蓮の根でね。食べられるんだよ。後何本か採ってくか」


 その後も数本ではあるが蓮を採取する。 

 今のピース村は滝の湖から水路も引いてるし、栽培は問題なく出来るはずだ。


 池から上がるとシャニがタオルを用意してくれていた。


「ライト殿、まるで子供のようですね」

「ははは、中々楽しかったよ。シャニも入るか?」


「この子が驚いてしまいますから。遠慮しておきます」

「だな。それじゃこのまま東に進むか!」


 俺達は再び車に乗り込む。

 今度はリリに運転を任せるので俺はアーニャと一緒に後部座席に座ることにした。


「ライト様、運転お疲れ様でした。お疲れでしょう、マッサージいたしますね」

「アーニャさん、そこはこってませんよ」


 こら、こっそりマイサンを握るんじゃない。

 ミライが見てるぞ。


「んふふ、失礼しました。ならこちらはどうでしょうか?」

「あー、ちちとアーニャママがちゅーしてるのー」


 少しだけ車内でイチャイチャすることになった。

 ミライが見てたから少しだけね。

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