第150話 海を目指して 其の一

 リリの新しい発明品である車……異世界カーとでも言うべきだろうか、それが完成したので俺達は急遽東に向けて旅立つことにした。

 東には海があり、そこに拠点を構えれば自由に塩を作ることが出来るからだ。


 現在ラベレ村、ピース村の総村民数は10000人を超えている。数が増えたせいで塩が足らなくなってしまった。

 もう俺の力で岩塩を産み出しても賄いきれないのだ。

 そこで前々から考えていた海に向かう計画を実行する時がきたというわけだ。

 

「えーと、これももっていくのー」

「ミライ、花瓶は持っていく必要はありません。戻してきなさい」


 とシャニは車から花瓶を下ろす。


「これもだいじなのー」

「枕もいりませんよ。夜はおうちに帰りますからね」


 今度はアーニャが枕を戻した。

 ミライもお手伝いをしたいんだろうが、彼女が選ぶ荷物はほぼいらないものばかりだ。

 最終的にミライのお気に入りのぬいぐるみを一つだけ持っていくことで納得してもらった。


「ライトよ、東に向かうのだな?」

「セタさん?」


 いつの間に魔王セタが来ていた。

 特に知らせた覚えはないんだけどな。

 でも彼女がここにいるということは見送りに来てくれたということかな?  


「今日は都合がつかなくてな。しかし明日ならば時間がある。この車とやらの乗り心地を試そうと思ってな」

「あんたも来るんかい」

「ばぁばもいくの? やったーなのー」


 とミライは喜ぶのだが。

 まぁセタもある意味家族みたいなもんだが、今日は嫁達と初ドライブを楽しみたいぞ。


「すまんなミライ。今日は遊んでやれん。しっかり楽しんでくるのだぞ」

「はいなのー」


 セタはミライを抱っこした後、頬にキスをした。

 うーん、全然血は繋がってないのに、本当の孫のように可愛がってくれるな。

 なんか理由でもあるのだろうか?


「確かに言われてみれば他人の子をここまで可愛いと思うのは初めてだな。理由は分からんがそれは私だけの変化ではないぞ」


 セタはこんなことを言った。

 どうやらかつての王都で蔓延っていた種族同士の差別なんかはラベレ村、ピース村では皆無らしい。

 現に異種族同士で結ばれる恋人、夫婦の割合は王都の数十倍はくだらないとも言ったのだ。


「へぇー、なんでなんだろうな?」

「分からんのだ。だがこれは良い変化と捉えるべきだろう。少なくとも民は王都での生活より今の生活が平和だと感じているのだ。それは間違いのないこと」


 そういえばエルフのグレイという村民も言ってたな。

 理由は分からないけど、異種族に対する壁が無くなったとかなんとか。

 俺に感化されたとかも言ってたかもな。


「ほら、行くのではないのか? ボヤボヤしていると日が暮れるぞ」

「あ、あぁ、そうだな。それじゃみんな乗ってくれ!」

「はーい!」


 俺の声を聞いてドヤドヤと車に乗ってくる。

 初めは俺が運転する。次はリリが運転する予定なので助手席に座ってもらった。

 二列目にはリディアとミライ。木製のチャイルドシートなんかも作ってみた。

 三列目にはシャニ。そして四列目にはアーニャが座る。

 ちなみにアーニャの足……というか下半身は蛇なので運転は出来ないらしい。


「残念です。私もこの乗り物を動かしてみたかったなぁ」


 うーん、可愛い妻の願いではあるが、運転するには足がいるしなぁ。

 かわいそうだが我慢してもらおう。


「アーニャ、運転ってのは疲れるんだよ。リリと交代したらそっちの席に行ってもいい? アーニャにマッサージしてもらいたいな」

「うふふ、もちろんいいですよ!」


 ははは、もう機嫌が直ったよ。

 相変わらずチョロいんだから。


「それじゃみんなシートベルトは締めてくれよ!」


 これから未舗装の草原を走るんだからな。

 一応オフロード仕様にはなっているようだが揺れるに決まっている。

 全員がベルトを締めたのを確認し、俺はアクセルを踏み込む。


 ――ブロロロッ


「わぁ、すごいのー。動いたのー」

「あんまり喋っちゃ駄目だぞ。舌噛むからね」


 車から外を見るとセタや村民達が手を振って見送ってくれた。

 俺はそのまま車を走らせ南門を通る。

 そして目指すは東だ。

 

「リリ、東ってどっちだっけ?」

「ん? 一度右に曲がってからまっすぐ進んでね。位置がずれてたら教えるから」


「はいよ!」


 ――ブロロロッ!


 アクセスを強く踏み込む!

 一気にスピードは増し、車は東に向けて走り出す!


「わぁー、はやいのー」

「ミライ、窓から顔を出さないの」


 まぁ対向車なんかいるはずもないけどな。

 しかし地球の車とほとんど乗り心地は変わらない。

 むしろ未舗装の道なのにほとんど揺れを感じないんだが。


「ふふ、気付いた? サスペンションの部分には特別に仕掛けを施してあるの。特殊な術式を組み込んでてね。最大で50㎝までの高低差なら衝撃を全て吸収するようになっててね……」


 なんてことをリリは言うが、いつも通り良く分からなかった。

 とにかく天才であるリリが作ってくれたものなんだ。

 仕組みは理解出来なくても信用はしてるさ。


「つまり揺れないってことだろ?」

「あー、説明を省かれたー。もう、ライトったら文系なんだからー」


 なんてことを言いつつ運転を続ける。

 特にスピードメーターなんてものはないのだが、これって何キロ出てるんだろうな。

 

「一応計算したんだけど東の海岸には三日で着く予定だよ」

「三日って……」


 セタの話では歩いて一月かかると言っていた。

 徒歩による平均時速を5キロと過程する。

 一日の中で12時間歩くとして60キロ。

 多少誤差はあるとして大体1800キロから2000キロ先に海はあるのだ。

 

 それを三日で走破するとは。


「この車って量産するつもりか?」

「うーん、そうしたいんだけど、機構が複雑だし燃料が用意しづらいし……。まだ試作段階だね」


 なるほど、量産までは時間がかかるか。

 もしこの車が村民に普及するなら道路整備とかも考えなくちゃなんて思った。

 だがそれはまだ先の話になりそうだな。


「ライト殿、停めてくれませんか?」

「シャニ? どうした?」


 俺はブレーキを踏んで車を停める。

 するとシャニは少しフラフラしながら車から出ていった。

 どうしたのだろうか?

 俺達も車から出るとシャニは地面に座っていた。


「ごめんなさい。少し気分が悪くなってしまって」

「車酔いか。少し休もうか」

「ライト様、あそこに水場がありそうです。ちょっと見てきますね」

「私もミライを連れて散歩に行きますね」


 シャニの具合が良くなるまで各自休憩することにした。

 


 

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