第149話 ハイ○ース?☆
安息日の午後、昼食のカレーを食べお腹も満足した。
俺達はソファーに座り出されたお茶を飲む。
みんな楽しくお喋りをしていると、ミライが船を漕ぎ出した。
眠いんだろうな。
リディアはミライを抱っこして二階へと向かう。
「ちょっとミライを寝かせてくるね」
「はい、それじゃ私は夕飯のお買い物にでも行ってきますね」
アーニャも一人買い物に外に出る。
一緒に行こうかと声をかけたが、ゆっくりしててくれと断られてしまった。
リビングの残されたのは俺とシャニの二人。
「…………」
――パタパタパタパタッ
シャニは黙ったまま俺を見つめ、尻尾を振っている。
なるほど、リディア達は俺達に気をつかってくれたのか。
「おいで」
「はい」
対面にいたシャニは俺の隣に座る。
そのまま肩を抱いてからキスをした……んだけど、もう食べられちゃうんじゃないかってくらい吸われちゃったんだけど。
「ん……。アーニャ
「そうか、しかしかなり大きくなったね」
シャニを抱いたままお腹に手を当てる。
お腹の内側からモゾモゾした感触が伝わってきた。
「この子も早くライト殿に会いたいのでしょう」
「そうだね、それじゃシャニ、この子が驚かない程度にだけど……。する?」
「はい」
俺達は昼間だというのに寝室に向かう。
やはり母体に無理はさせられないので一回戦のみで終わらせておく。
シャニはまだまだ戦えると言ってたけど。
「残念ですが仕方ありません。ならば少しの間私とこの子を可愛がってください」
「はいよ」
横になりながらシャニを背中から抱く。
後ろからキスをしながら大きくなったお腹に手を当てると、やっぱりモゾモゾした反応が返ってきた。
「ジュン。あなたもお父さんに早く会いたいのですね。私も早く会いたいです」
とシャニは微笑む。
普段は無表情なのだが、シャニは妊娠してから時折笑うようになった。
とても良い変化だと思う。
その後も裸のままイチャイチャしつつ何気ない会話を楽しむ。
すると突然シャニがこんなことを言ってきた。
「ライト殿、先程の話ですが……。行ってきても構いません。私はここに残ります」
「シャニ? 駄目だ、もうすぐ産まれるんだろ?」
シャニはこちらを向いて俺と視線を合わせる。
「もちろんこの子が産まれる前に帰ってきて欲しいです。しかし塩は生きるために必要なもの。村民のためにも早急に手を打たねば。ライト殿は皆を導く立場の人。個人の想いで民を危機から救うのを遅らせるべきではありません」
と言ってくれるのだが、最も近い海はここから歩いて一月かかるらしい。
戻ってくるのはポータルを作れば一瞬で戻って来られる。
しかしシャニの出産予定は二ヶ月後、それなりに猶予はあるが道中でトラブルがあったとしたら……。
「なら途中でポータルを作れば問題無いんじゃない?」
ん? いつの間にかリリが戻っていた。
俺とシャニが裸でベッドにいるにも関わらず、慣れたようにベッドの縁に座る。
「ライトって変なところ鈍感だよね。さっきも言ったじゃない。東に向かったとしても、例えば夜になればポータルがあれば帰って来られるでしょ? ならここに住んでるのと変わらないよ」
なるほどー、そういえばそうだった。
リリの話では道中で仮拠点を作り、そしてポータルでここに戻る。
そして次の日は仮拠点に戻りさらに東を目指せば良いと。
「ぷっ。確かにリリの言う通りでした。なぜ気付かなかったのでしょう?」
「みんなライトのことが好きすぎるからだよ。だから冷静になれないんだよね」
なんて嬉しいことを言ってくれた。
しかしリリの言葉通りなら、リリはみんなと比べて俺が好きではないということかな?
「ち、違うの! そういうことじゃなくて! じ、実は私もさっき気付いたの。あーぁ、せっかく苦労して作ったのに、あんまり意味がなかったかも……」
そういえばリリはなんか研究とかしてたんだよな。企業秘密だとか言って何を作っているのか教えてくれなかったけど。
そろそろ聞いても大丈夫かな?
「なぁ、リリは一体何を作ってたんだ?」
「んーとね、これは説明するより見てもらった方が早いかな。服を着て外に出てくれる?」
俺達はリリに言われるまま、外に出る……んだけど、なんだか見覚えがあるような大きな物体が家の前に停まっていた。
これは……車だ。タイヤが八個あったり、サスペンションが施されていたりと、明らかにオフロード仕様だが、見た感じはハイ○ースに近い。
しかし車の中は10人が入ってもまだ余裕がありそうな程広々としていた。
「リリ、これは乗り物ですか?」
「うん、ライトの話を聞いて再現してみたの。チキュウっていう世界ではこんな乗り物が一般的だったみたいだよ」
そういえばリリには地球の技術について話したことがあったな。
しかし口伝ての情報を頼りにここまでのものを再現するとは。
でも車ってガソリンを燃料にして走るよな。
これの動力源って何なんだろう?
「液化オリハルコンだよ」
「それってめっちゃ危なくない?」
液化オリハルコンって対異形の最終兵器、マナブレイカーの材料だったよな。
あれって起爆したら山一つ吹き飛ばしたはずだぞ。
しかしリリの話では液化オリハルコンは起爆剤がなければ爆発はせず、火をつけても燃えるだけらしい。
燃料としては割りと安定した物質だそうだ。
「ライトに教えてもらったエンジンってのを再現するのが大変だったよ」
うろ覚えではあるが、エンジンの仕組みを知っていてね。
機械は苦手なのだが、運転は好きだったのだ。
中を見せてもらったが、座席の下にはアクセルとブレーキもついている。
「運転してもいいか?」
「うん! 結構乗り心地は良かったよ」
リリは自宅まで運転してきたんだよな。
どれ、俺も試してみるか。
座席に座りエンジンをかける。
アクセルを軽く踏み込むと……。
――ブロロロッ……
おぉ、思った以上に軽やかに動いたぞ。
しかも軽くアクセルを踏んだだけなのに、結構なスピードが出た。
バック機能もついているらしく、ギアをバックに入れアクセルを踏む。
家の前に車を停めるとリディアとアーニャも戻っていたようで物珍しそうに車を見つめている。
そうだ! せっかくみんながいるんだし、提案してみるか!
「なぁ、みんな。この車でさ、海に行ってみないか? 夜になればポータルでここに戻ればいいからさ!」
「海に? 確かにそれならシャニの負担にならないかも」
「ミライちゃんは海が見たいかな?」
「みたいのー。ねぇちち、うみってなーに?」
ミライはよく分かっていないようだが、みんなでお出かけするのが楽しみなようだ。
「それじゃ出発は明日だ! 各自準備しておいてくれ!」
俺達は自宅に戻り旅の支度を始める。
ふふ、平和になったもんだな。
こうして家族で旅行みたいなことを出来るようになったんだから。
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